2018年8月19日

RUN,RUN,RAINRUN 4

雨から逃げよう。
国道5号線を東へ逃げる。
ニセコの山はもう完全に雨雲に隠れ、白い雨脚は影を濃くして、薄暗い色にまでなっている。
これは本降りだ。雨雲は少し北側を南西から北東方向に流れている。
うまくいけば、かわせるかもしれない。
国道5号の時速60kmの流れに乗って、東へ走った。
前方に見える羊蹄山の山頂は雲に隠れ、北側は暗いが、南はまだ降っていないように見えた。


しかし、ニセコの道の駅の手前で雨雲に追いつかれる。
ニセコ宮田ビューポイントパーキングに逃げ込んで、合羽の上下を着た。
完全に濡れる前に来てしまった方がいい。
空振りならそれでいいのだから。
もう若くないので、ずぶ濡れで体を冷やすのは運転上も危険なのだ。

しかし、合羽を着ているうちに、さらに雨雲が厚くなって、迫ってきた。
これは雨の中のランになる。
覚悟を決めて。しっかり裾口などをチェック。
気持ちをレインモードに切り替える。

それでも、雨はすぐには本降りにならなかった。

ニセコの道の駅から道道66号に乗り換え、観光の車の後ろを、流れに任せて走っていると、徐々に雨脚が強くなってきたが、まだ本降りという感じではない。
真狩の中心部を通過し、羊蹄山麓道が道道97号に変わり、そこから喜茂別の国道へ降りていく頃から、低い雨雲が羊蹄山を回り込み始め、空が完全に暗くなって、雨降りの空の表情に。
いよいよ本降りになった。


喜茂別の街を抜けて、中山峠にかかっていく。
休日のお昼ちょっと過ぎ。
車列はまだ、札幌方面から峠を越えてくる車の方が多い。
が、喜茂別から札幌方面に抜ける車も、乗用車から大型トラックまで、各種、たくさん並んでいる。
その中に紛れて進む。
中山峠は僕が初めてバイクで通った31年前から、ずっとどこかを工事している。工事中でない中山峠を知らない。
30年の間に、喜茂別側の登りは登坂車線がかなり整備され、道幅も広がり、路面もよくなり、かなり走りやすくなった。

中山峠を走るたびに感じるのは、ここを走る車、バイク、一台一台、たぶん全部「自分の走りたいペース」が違うだろうということだ。

ゆっくりの車にも、のんびり走っている車もあれば、こわごわとゆっくりの車もある。
ほぼ、前だけ見て周囲を見ていないだろう車もいる。
飛ばしたい車も、それぞれ望ましいペースはバラバラだ。
だから、なんとなくいつも、フタをして渋滞させたり、車間を詰めて煽り気味になったり、追い越すタイミングを探して右に時折揺らしたりと、なにかせわしなく、何か殺伐とした雰囲気が、幾何となく漂うのが中山峠だ。
気にしなければそれでいいのだろうが、ここが嫌いだという話も時々聞くのだ。

本格的に峠に入ったころから、雨は打ち付けるような激しいものになった。
路面が光り、その上に雨粒が叩きつけられてざわめく。

とたんに、車列の速度が下がる。
それは当然なことだが、実はそこまでというほどの雨でもない。
路面に川のような流れができているわけでもないし、視界もそこまで悪くはない。
しかし、あれだけ飛ばしていた4輪も、速度を落とした。

もちろん、ゆきかぜも速度を落とすが、実はゆきかぜ、この程度の雨なら、全然不得意ではない。
タイヤの減り具合にもよるが、メッツラーのレーザーテック(前)、スポルテッククラシック(後)は、すこぶる雨に強いタイヤなのだ。
深い溝のおかげなのか、コンパウンドの進化か、雨で絶対グリップは落ちるが、走行時の接地感はなくなることはない。
むろん、ドライ時と同じというわけには行かないが、それなりの実感を伝えてくれるので、雨天時走行のストレスは小さくて済む。

グリップ感にある程度実感が伴うので、恐怖心と戦うことなく、一定のペースは維持できる。
絶対に過信は禁物だが、普通に走る分には、余裕をもって走行できるのがこのタイヤだ。

中山の激しい雨の登りを快走。
ぐんぐん登っていけた。
一度もずるっと来ず。
ちょうどいいエンジンパワー、フラットなエンジン特性、
細いタイヤ、適度な重さの車体。
いろんな要素が雨の快走を可能にしていた。

下りは1車線。
車列の後に並んで、ゆっくりと下る。ここでも雨は激しく振った。
下りの雨でもゆきかぜの雨天走行は不安がない。

「雨モード」をライダーが覚えてしまえば(バイク側にはないので)、
楽しく走れる。


ただし、やはり雨天は疲れる。
楽しいとは言っても、路面状況は常に気をつけないといけない。
深いわだちの水たまりにも注意が必要だし、
雨天で長時間走った後の最初のブレーキングではごくまれに全く効かないままレバーがグリップまで握り切って届いてしまうことがある。(ゆきかぜとGPZでは体験していない)
すぐにレバーを解放、握り直せば効くことが多いのだが、パニックになって握りしめたまま全然ブレーキが効かずに空走するのは非常に危険だし、恐怖だ。
だから、時折、ブレーキレバーはそっと引いて、ブレーキングテストをしておいた方がいい。
また、びしょ濡れのままではコンビニに入れないから、休憩時には一度レインウェアを脱いで、走り出す時にまた着直すことになる。
その手間がめんどくさいので、休憩回数が減る。すると、疲労の蓄積を早めてしまうのだ。


雨の時は、強制的に「1時間走ったら止まる」とか、自分でルールを作っておいた方がいい。雨天時は体も冷えて硬直しやすく、いざという時の動きが悪くなるし、肩凝り、腰痛なども出やすい。雨の中、何もないところで止まるのは心理的になかなか難しいが、結構大事だ。

雨天時の走行で大事なのは、中の服が濡れないことだ。
僕の雨天時のレインウェアは、安物の薄手の合羽だ。ホームセンター(ホーマック)のオリジナルブランドで、上下で3500円を切る。裏は全面メッシュ。
安物も安物だが、3年目に入って、一度も中が濡れたことがない。


今日はレイングローブを持って来なかった。
クシタニのステアグローブをそのまま使う。
これは撥水加工してある革だと言っても、縫い目や手のひら側からじわじわと濡れてくる。
グローブの裾が短いので、レインウェアの袖裾から出てしまっている。
ここから浸水するから、これはよくないのだが、今日は夏ということもあり、寒くなかったので、気にならなかった。
家に着いてから見てみると、中のウェアの袖口の所だけが濡れていた。
しかし本来はこうした少しの浸水でも、不快感や冷え、疲労を呼ぶので、完全に水をシャットアウトして走りたいところだ。


足元はいつものモンベル・タイオガブーツワイド。
写真の左下隅に踵だけちょっと写っている。
このブーツも一回も浸水したことがない。
カントリージーンズライド(現 エクスプローラージーンズライド)の裾を切らずにかかとを引きずるくらい長くしておいて、ブーツの上から被せ、その上からレインウェアのズボンを被せれば、靴の履き口からの浸水もない。
元々山歩き用の靴なので、濡れた時のグリップがいい。
ステップが滑らず、着地時も滑りにくく、晴れた時もこのブーツで走っているが、全天候で僕のツーリングには最強のアイテムになっている。

雨は札幌市街地に入ってますます強くなった。
上の3枚の写真は、小林峠付近でのものだ。
こういう路面でも、普通の速度ならほぼ安心して走れるのが今のゆきかぜのパッケージだ。

もちろん、ツーリングは断然「晴れ」がいい。
でも、防水をしっかりするなら、そしてペースを落とし、安全運転に徹するなら、
雨もまた、よい。
雨降りの時に長時間、濡れながら外で遊ぶなんて、なかなかないものだ。
降り始めは怖い。
また雷は本当に怖いし、危険なのでできるだけ避ける。
でも、降り続く雨が大雨でないなら、
雨の中を、ずっと走っていくのも、また一つの楽しみとも言える。

雨に制限され、雨に制御されながら、それを受け入れて、
ウェア、装備、走りなどで対応し、
走りを自分のものにしていく。
雨の中を走り続けていく。
そこにも、限りない「自由」がある。

「思い通りにすることが自由じゃないんだぜ」
気球の世界大会に参加していた、イギリスの不良おやじが言っていた。
「気球には自由がある。風は思い通りにならない。その風を読んで、それに載せていくんだ。うまくいくときもあれば、いかない時もあるんだ。」と。

与えられた条件の中で、自分で判断し、自分で行動し、結果は自分で引き受ける。
人に危害を加えないように、細心の注意を払いながら。

そういう中に、自由はある。

バイクライドも、気球も、登山も、「自由」に関しては同じものがあると思う。
イメージほどイージーではない。
命にかかわる危険と背中合わせの行為であり、油断や甘えは許されない。
しかし、その前提の上で、覚悟を決め、責任ある行動を取ろうとするならば、
限りない自由がそこに開けている。


さあ、最後はすごい土砂降りに見舞われた。
我が家までもうすぐ。
安全に、走っていこう。
(RUN,RUN,RAINRUN 完)

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