2020年1月19日

「3段掛けブレーキ」『RIDERS CLUB 2012年2月号』より

画像引用はこちらから。
実を言うと、僕はライテクオタクです。(今更ですけど)
特に前ブログでは、ライテク記事だけで100を越えて書いていました。
実際には特にライディングがうまいわけでも、ずごいわけでもないのですが、
なんか、ライディングそのものや、ライディングについて考えること、知ることが好きだったんですね、昔から。

さて、さらに今更ですが、ライダースクラブ2020年2月号の特集は「ブレーキングの意識改革」でした。

ライダースクラブでは、30年以上前から、ブレーキは2段掛けを推奨してきたのですが、この特集では「3段掛け」を推奨しています。

どういうことなのか、ちょっと追ってみたいと思います。(今日は長い記事です。)



かつての二段掛けブレーキとは、

1、最初に浅く掛け、荷重が前に移動してフロントフォークが縮むのを待つ。
2、フロントフォークの縮みが荷重と釣り合ったら、本格的制動に入り、ブレーキを強くかける。

というものでした。

これが今回の3段階では、
1 レバーの遊びを取る
2 タッチが出るのを感知する
3 制動する。
の、3段階になっています。

これは、従来の「1、最初に浅く掛け、荷重が前に移動してフロントフォークが縮むのを待つ。」を、「1 レバーの遊びを取る」、「2 タッチが出るのを感知する」に分割したものと言えます。

具体的操作については、フロントブレーキの場合ですが、
1 スロットルを戻すと同時にブレーキレバーに指を掛ける。
2 レバーを上から下に押し下げるようにして(引くのではなく!)、レバーの遊びを取る。
3 ブレーキが効き始めるのを感じたら(「タッチ」があったら)、レバーを引き込んで制動する。
というものです。

この説明の変化には、機械とのしてブレーキ性能の飛躍的進歩が背景にあると思います。

昔、といっても、1980年代中頃までのブレーキは、パニックブレーキを除くと、思い切り握らないとロックしませんでした。
教習所では必ず4本指で握るように教えられ、大型限定解除試験では、2本掛け、3本掛けでは落とされる…なんてことも言われていました。
白バイの乗車員のブレーキも4本掛けでした。(ここは記憶ですが)

しかし、10年くらい前から、マラソンや駅伝を先導する白バイ隊員の手許を見ても、中指一本掛け、中指薬指2本掛け、他、人によって指のかけ方がいろいろ変わってきました。

そして、ブレーキが効かないという話は、1990年代くらいからほとんど聞かれなくなりました。
ブレーキの絶対制動力はもう十分確保され、いかにコントロールしやすいブレーキにするか、がメインの開発目標にチェンジしていったのです。
2000年代からはバイクでもABSが多くの車種で実装され始め、今やABS装備のない二輪車は新車として販売ができない時代になりました。(2018年10月1日から。参考記事はヤングマシンwebのこちらのページに

すでに技術はバイクが傾いた状態でのABS、コーナリングABSの実用化まで来ています。(こちらはホンダの簡単な技術解説のページをどうぞ。

つまり、もう効かないブレーキを力いっぱい引くなんてことはなくなり、
有り余るブレーキパワーをいかに効率的に使うか、ということがブレーキングのメインテーマになっています。

まずは、ここまで技術が進歩したということで、一旦置いておきましょう。
さて、ここで少し話を戻して、そもそもどうして2段掛けか、また、高性能のABSが装備された現代のバイクで、3段掛けなんて一見かえって面倒なことになったのはどうしてか、について、振り返っておきたいと思います。

そもそも、バイクのブレーキシステムは、ディスクブレーキならパッドがディスクを、
ドラムブレーキならシューがドラムを、挟み込んだり押さえつけたりして、摩擦を生じさせ、その摩擦でホイールの回転を落とすという仕組みです。
タイヤが地面にグリップしていれば、ホイールの回転が落ちれば、車速も落ちていくわけですね。
でも、ブレーキがタイヤのグリップ力を上回る力でホイールの回転を止めようとすると、ホイールだけ止まって、路面とタイヤはスリップしていく。これがブレーキのロックですね。

ブレーキ力 < グリップ力 の時は、車速ブレーキが効いているが、
ブレーキ力 > グリップ力 となると、ホイールはロック。フロントの場合は多くが転倒につながります。
ABSは、この状態にならないように、ぎりぎりのところでブレーキ力がグリップ力を上回らないようにブレーキを弱める方向で制御しているわけです。
(結構乱暴な説明ですが、まあ、こんなところです。)

ところで、このグリップ力は、バイクにタイヤを装着した状態でいつでも一定かというと、全然そうではなくて、かかる荷重によって大きく変わります。

すぐに体感できるのは、センタースタンドを立てた状態でフロントタイヤを回してみることです。
サイドスタンドの時にはまず回らない(傾いていて危ないというのもありますが(フロントタイヤですが、センタースタンドを立て、荷重が減った状態だと、ちょっと持ち上げ気味にするだけで、タイヤを擦りながらでも回すことができます。

タイヤのグリップ力は、タイヤにかかる垂直荷重によって大きくかわるのです。
そう、ブレーキングによって荷重がフロントに移っている状態では、巡行状態の時よりもずっとブレーキが強く掛けられるのです。

そこで、2段掛け、が出て来たのでした。
パニックブレーキで、いきなりガツン!とレバーを握ると、
荷重が前に移り、タイヤのグリップ力が上がる前に、ホイールの回転だけを止めてしまい、ロックするのです。
じわっとかけることで、タイヤが路面に押し付けられ、ロックすることなく強い制動力が発揮されるのでした。

また、二段掛けにはもう一つ意味がありました。
それは、いきなり強く掛けると、ロックしない時にでも急に荷重が前寄りになり、フロントフォークに加速度がついて、本来バランスするところを通り越して底付きしたり、または深いところまで入り込んでしまってそこでスティッキーになってしまう現象が起こります。つまり、フロントフォークの路面追従性が著しく落ちるのです。そこでギャップを通過するなどして路面に追従できず、タイヤが浮いたりすると、途端にそこでロックしてしまいます。
それを避けるために、最初はじわっとかけてパッドがディスクにあたり、フォークが沈むのを見届けてからぎゅううう!!!っと本格制動に入る、というが、二段掛けでした。
2段掛けといってもその間は0.5秒もないくらいで、マシンの挙動を全身で感じ取りながら沈んで安定と見るやいなや握り込む、というのが、中級者以上のブレーキングでした。


さてさて、今やブレーキシステムも進歩し、ABSも高度になったというのに、3段掛けというさらに複雑な技術をライダースクラブが出して来たのは、どういうことか。

それは、ライダーの中にブレーキングに恐怖感を感じる人が多い、ということが背景にあるようです。
極端に前のめりになってしまう。後輪が浮くほどに強いブレーキングになっているのに、コントロールしている実感が薄くて怖い。
いつタイヤがブレークするのか、怖くて強く掛けられない。
そういう症状が多くあるようです。
最新のピュア・スポーツバイクは、200psなどザラになってしまいました。
299km/hも現実的な数値。それを止めるためのブレーキングシステムは、超強力。
そして、安全のためのABSも高性能。
しかし、ABSが効くまでの幅広い領域は、まだライダー次第。
そこで、指1本でもロックまで持ち込めるような強力なブレーキを初心者が扱えば、それはカックンブレーキになってしまっても当然でしょう。

ブレーキ効力の立ち上がりの速い、最新のブレーキシム。
しかも、納車時のブレーキレバーの遊びは、意外とおおきめ。
触った瞬間に効いたのでは危ないからですね。

しかし、それで初心者は、そっと握ったつもりでも、その「握る」という動作で、すでにパッドがディスクに食いついて、車体のピッチングが勢いづいてしまうところまでひいてしまっていることが多いようなのでした。

そこで、
1 スロットルを戻すと同時にブレーキレバーに指を掛ける。
2 レバーを上から下に押し下げるようにして(引くのではなく!)、レバーの遊びを取る。
3 ブレーキが効き始めるのを感じたら(「タッチ」があったら)、レバーを引き込んで制動する。

の3段階として、
レバーを引く前に、押し下げるという段階を入れ、これで遊びを取っておいて、
ブレーキの効き始めを感知しやすくしようとする、そういうことのようでした。

私のブレーキのかけ方については、
昔、前のブログで書いています。

ちょっとコピーしてみます。
元記事はこちらです。

私の普段使いの操作は2本掛けです。右側の写真は手の感触がわかるようにグローブを脱いだ状態で撮影しました。素手で運転することはありませんので、念のため。


この状態はクルージング状態です。アクセルはわずかに開いており、手首は机の上でマウスを持った時のような角度です。人差し指と中指がレバーの上面に置かれています。グリップはどこかに力を入れて保持するのでなく、全体で包み込むように握り、グローブとグリップの接する面全体の摩擦でアクセル開度を保持します。
ここで手首が落ちすぎると長時間では手の疲労がつらくなってきます。


減速を判断したら、まずアクセルを全閉に。アクセルを戻したぶん、グリップが向こう側にごくわずか回転し、そのせいで手首の位置が少し上がっています。この動きだけで同時にレバーの上に置いていた指がレバーを引ける位置まで前進し、載っている状態から掛かっている状態に変化。
と、同時に…


レバーを引いて制動開始。ごく初期の制動では、荷重が前輪に移り、Fフォークが沈む、車体のピッチングが起きますので、一瞬それをやり過ごしてから、すぐさま第2段の強い制動に入ります。
私の愛車のブレーキは13年前の純正システムなので、最新の高精度ブレーキシステムのような数十段階から無段階の繊細な操作は難しいですが、ブレーキ強度を10~15段階くらいにコントロールすることは、私の腕でもできます。(上手い人ならもっとできるでしょう)
制動力のコントロールはバイクライディングでも面白い技術の一つ。その話はまたいつか。


この時のバイクは1995年型のGPZ1100。
ABSはついていません。

現在の愛車、ゆきかぜ号は、2013年モデル。これも、ABSはついていません。
(現行のV7は、ABSもトラクションコントロールもついています。)
しかもシングルディスク。
効き始めは緩やかで、握り込むと制動力を増してくるタイプです。
つまり、初心者にも寛容な設定です。
力を入れて握り込めば、相当な減速力を発揮し、ロックまで持ち込むことも当然可能。
そこからのリリースコントロールもやりやすいのは、さすがにブレンボ製といったところでしょうか。

この効き始めがダルな設定では、最新のライダースクラブの記事にあるような3段掛けの意識は、そこまで必要ではないように思います。
2段掛けのイメージを持っていれば、扱いに問題はありません。

いや、最新のピュア・スポーツバイクに乗っていても、ブレーキの原理を知り、マシンとブレーキシステムの相性や特性を理解していれば、2段掛けの意識で十分に対応可能と思います。

ライダースクラブのライテクは、最新バイクでうまく乗れず、どうしてそうなるのか、どうしたらいいのか、そこで迷っているリターンライダーやビギナーから中級のライダーにとって、実用的で、有効な方法を提案しているのだと思います。

私のやり方の写真、上下3段になっていますが、上から2段目の写真、
指がかかっている状態の写真は、実は、今回のライダースクラブの記事の2段階目、
「上からレバーを押しさげて遊びを取る」と対応しているとも取れます。

ブレ―キングに、
1、タイヤの荷重の意識、
2、フロントフォークの動きの意識、
この二つを常に盛り込んで意識する週間を着け、それが無意識にできるようになるまで反復練習すると、それが2段階でも、3段階でも、同じように安定した(必要なら)強いブレーキングが可能になると思います。

2 件のコメント:

  1. 樹生さんの記事を読んで、苦手だったライダースクラブをちゃんと読んでみようと思って(笑)2月号を探しているんですがなかなか置いてないですね💦
    私のフェザーもABSはありませんので頼れるのはセルフABS^^
    3段掛けブレーキングを試してぜひものにしたいです。
    今の時点でひとつ疑問があります。
    3段がけの2番目です。

    >レバーを上から下に押し下げるようにして(引くのではなく!)、レバーの遊びを取る。

    この時レバーは押し下げることで上下の遊びは無くなりますが、前後の動きはどんなイメージでしょうか?
    3番目でタッチを感じる(ブレーキが効き始める)ということは、レバーを引くと意識していなくても後方には動いているということですよね(・・?

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    1. ダンボ1号さん、こんにちは。

      下に押すだけでは、上下ガタがなくなるだけですよね。
      ライダースクラブのちょっと前の記事では、
      レバーを下に押し下げ、それから巻き込むようにレバーを引く。
      と書いていました。

      今回の私の記事で言うと、レバー操作、上から2枚目の写真。
      アクセルを戻し、手首が少し上がり、その分指が前に出て、
      中指の第一関節から先がレバーにかかっていますが、
      奇しくも、これが、2番目、「レバーを下に押す」状態と等しくなっているのだと思います。
      私はこの時点で別にレバーを下に、意識的には押してはいませんが
      結果的にやや押し下げられたのと同じような状態になっていると思います。
      効かない範囲でわずかにレバーも引く方向に動いて「しまって」いるのではないでしょうか。
      遊びを完全にとっているわけではないのですが、結果的に遊び取り気味の位置になっているように思います。

      そこから3番目の写真の状態へレバーを引いていくわけですが、
      2枚目から3枚目への移動にたぶん0.1~0.2秒くらいで移行していると思いますが、
      カツーンといくのではなく
      「にゅ」と行くというか、「決して叩かない」感じで引いていきます。
      そのことで、タイヤに荷重がかかってグリップ力が増す前にタイヤの回転を止めてしまうような唐突ブレーキにならないようにしている(つもり)なのです。

      ライダースクラブの記事でも、
      「タッチ」を分かりやすくするために3段掛けをしてみるというニュアンスなので、
      レバーを下に、「おりゃあ!」と押さなくても、指を掛けてスタンバイ(必然的にちょっと遊びとれちゃった)というニュアンスが、第2段かなと思っています。

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