2017年2月4日

「迷走」さん「MotoGPライダーのライディングフォーム」へのレスポンス。(1)

私が欠かさず拝読している『迷走Riderの眠れぬ日々』。
その2月2日の記事に、MotoGP、セパンテストでの写真と、次のような文章が。

「2017MotoGPセパンオフィシャルでストで、同じコーナーで撮影されたと思われる写真を集めてみました。各選手のライディングフォームやマシンの向きの差等を楽しんでみてください。」

各選手のフォームの違いや似ているところ,マシンの向きやバンク角等、あれこれ比較してみるのも一興かと思います。

おお!
これは私の大好物ではないですか。

さっそく、ど素人ライテクオタクとして勝手な妄想を楽しんでみましょう。

(写真出典は、MotoGPオフィシャルサイト、および、ストーナー氏の印写グラム、ロレンソ選手のインスタグラムからです。)

まず、写真の4人は左上から今年からスズキのマーベリック・ビニャーレス選手、右上、ヤマハ、バレンティーノ・ロッシ選手、左下、ドカティテストライダー、ケイシーストーナー氏、右下、今年からドカティ、ホルヘ・ロレンソ選手です。
サーキットはセパン、インターナショナルサーキット、コーナーは、ごめんさい、わかりませんが右の大きく回り込んだ鋭角コーナー、たぶん、11コーナーか、14コーナーかと思われます。

60°を超えるMotoGPマシンの最大バンク角からすれば、かなり車体が立った状態。すでに立ち上がりに入りつつある、旋回加速の最中です。コーナリングも、もう後半ですね。
画面右上、写真の切れた後には直線が続くと思われます。

4者とも、スライドしながら走っていますが、右上、ロッシと、左下のストーナーは車体の角度がかなり内側を向いている、つまりスライド角がかなり大きい状態で走っていますが、左上ビニャーレスと右下ロレンソは比較的スライド角が小さい。
スライド角度が大きい順に、ストーナー>ロッシ>ビニャーレス>ロレンソとなっています。
MotoGP.comより。写真はモテギサーキット。

ちなみに、上の4枚には2016チャンピオン、マルク・マルケス選手の写真がありませんが、同じコーナーでのものがなかったためでしょう。

左の写真93番がマルケス、そして、ほぼ、フルバンクの状態ですが、比べてみると上の4枚がバイクもかなり立ち、コーナー立ち上がりであることがよくわかります。

では、上の4者の写真、もう少し細かく見て生きましょう。

まず、4者に共通のものから。

まず、目につくのは、着座位置をイン側に大きくずらしたハングオフ姿勢です。
シートにはほぼ、左の太もも部分で乗っており、お尻は大きくはみ出しています。
さらにそこから上半身を大きくイン側へ落とし込んでいるのが、2010年代の特徴です。

下に1980年代の代表選手、FスペンサーとKロバーツの写真を添えておきました。

立ち上がり区間と、旋回中の違いは無視できないので、適切な比較写真とは言い切れないところはありますが、1970年代、ヤマハのヤーノ・サーリネンが持ち込み、ケニー・ロバーツによって完成されたと言える「ハングオフ」スタイルは、80年代は下半身を大きくオフセットしても、頭はセンターに残し、垂直に保つ、というのが原則的でした。
1980年代、Fスペンサー
1980年代 Kロバーツ

たぶん…ですが、その変化の要因として大きいものは2つ。車重変化とタイヤの進歩です。

当時のGP500クラスの最低重量は130kg。現在のMotoGpクラスは157kg、GP500マシンの方が軽いので、振り回しやすいのです。
動きが軽く、振り回すような動作をするのなら、ライダーの頭部はあまり動かさずに、マシンを下で振り回す方が素早く動けます。
当時のGPビデオを見ても、イモラサーキット、アクアミネラーレコーナーの切り替えしなど、スペンサーなどは現在のMotoGPよりも切り返しが速く見えます。直進から一気にフルバンク、右から左への一気の切り返し。そんな強烈な印象を与えた、GP500でした。

現在のMotoGPは排気量は倍の約1000cc4ストローク。車重は157kg以上。重くなっています。それだけでなく、最高速度も1980年代前半は、当時のホッケンハイムの長い直線で300km/hを記録するくらいだったのが、現在では340km/hくらいの最高速はザラ。ラップタイムも縮まり、GPマシンは相当に速くなっています。それだけ、運動エネルギーが大きくなり、つまり、動的には「重く」なっている。とてつもなく「重く」なっているとも言えます。

それを支えているのがタイヤの進歩です。
現在、市販されているツーリングスポーツ用のタイヤのグリップ力でさえ、10年前ならレーシングタイヤに匹敵するとまで言われるほど、タイヤの進歩は著しい。
猛烈なエネルギーを受け止め、深いバンク角でもグリップし続ける、とんでもない性能を現在のタイヤは持っています。

つまり、同じコーナリングでも戦っているエネルギー量はものすごく大きくなっているのです。
それを路面に叩きつけ、タイヤ性能を限界まで引き出しながら、旋回していく。し続けていかなければ勝てないのが、現在のGP。
大きな運動エネルギー、大きな遠心力に対抗しつつ、旋回加速ではさらに車体を前へ進めなくてはなりません。
ウィリーしないよう、重心を低く保つ(ウィリーコントロールで制御するとパワーロスになります。)ために上体はできる限り低く、しかもイン側へ持ってゆきます。

本当は、頭部は中央に置いて立てておきたい。ライダーの平衡感覚をしっかり正常に保ちたいからです。しかし、そんなことを言ってられなくなってきました。なるべく頭部は立てるけれども、重心をイン側、低い位置に持ち込みつつ、変化する状況に応じて、荷重方向や強さを微妙にコントロールする方が優先されます。


その特徴がよく出ているのは、一番時計を記録したマーベリック・ビニャーレスと、ドライでの純粋な速さなら文句なしに世界一のホルヘ・ロレンソでしょう。
ビニャーレス

ロレンソ
二人とも、フロントタイヤがわずかに逆ハンドルになっていることからも、スライドしながらの脱出加速シーンです。
派手なスライドは、車体の向きは変わりますが、前進させる力という点ではロスになります。
もっとも効率のいい状態を求めて、スライド率までコントロールしながら走っています。
(電子制御ももそのごく発達しましたが、それにすべてを任せて能天気に全開できるような甘い世界ではありません。)

根本健氏は、ライダースクラブの中で198年代にGPレーシングマシンではコーナリング中の旋回Gで背中を誰かに踏んづけられているかのように感じると言っていましたが、猛烈なGかかかっていることが、写真からも感じられます。

今でも世界一美しいと私は考えている、ケニーロバーツのフォームと比べてみましょう。

K.ロバーツ
実は、本質的には、上の二人と、ケニー・ロバーツのフォームはよく似ています。
外足の使い方、両手の使い方、体のバイクへの預け方…。
ケニーの背中にも、大きな旋回Gかかかっていることが感じられます。
しかし、そのエネルギー量の大きさは、本当に大差です。

GPライダーの真似を公道でやるのは、どちらにしても危険でナンセンスなのは大前提として、それでもケニーのフォームは、まだ真似したいと思わせるものがあります。
しかし、ビニャーレスやロレンソのフォームをコピーして峠を爆走…というのは、ちょっと考えられない。
あまりに運動エネルギーの次元が違い過ぎるからです。

WRC、世界ラリー選手権でも、昔、グループBカーの時代には、もうずっとドリフトしっぱなしみたいな感じで、豪快に走っていましたが、レギュレーション変更、サスペンションやタイヤの進歩により、最適な滑り角を維持するような、豪快だけれども精密で繊細な走りでないと勝てなくなりました。

4輪と2輪ではありますが、その走りの変化はほぼ、同時に起こっていたと言っていいと思います。

80年代から90年代、ダートトラックで鍛え、スライド走法を前提としたアメリカンライダー、オージーライダーが世界GPを席巻し、しかし、2000年代、従来のターマック走法を基本に、アメリカンライディングに学んだヨーロッパ勢がGPの主役になっていきます。

無駄なスライドを抑えた、力強く、かつ繊細な走りは、ある意味では70年代までのヨーロッパスタイルの復興でもありました。

しかし、オーストラリア人ケイシー・ストーナー、そして新世代チャンピオン、スペイン人マルク・マルケスは、新たなスライド走法を見せてきます。

そして、GP参戦歴が長く、現在MotoGP参戦ライダー最年長のバレンティーノ・ロッシは、また新たなライディングスタイルを構築しようとしているようです。

以下、次回に続きます。


*この記事は、ど素人の当ブログ管理人、樹生和人が勝手に考えて書いたものであり、正しさの保証はどこにもありません。いや、むしろ間違っている可能性の方がはるかに高いでしょう。
どうぞ、決して鵜呑みになさらないようにお願いします。


2 件のコメント:

  1. 樹生さん、こんばんは。

    まずは拙ログの記事を紹介していただき
    嬉しいやら恥ずかしいやらですが、
    何はともあれ大感謝です。
    ありがとうございます。
    私の方でもエントリ内で
    樹生さんの記事にリンク貼らせていただきました。

    大変、興味深く今回の記事を
    拝読させていただきました。
    もうまさに我が意を得たりと言うか、
    全く持ってその通りな論理と展開で、
    うんうんと頷きながら
    あっという間に読み終えてしまいました。
    私もいまだにケニーさんの
    ラインディングフォームが
    世界一好きです。

    樹生さんの記事を読んでいて
    気づいたのですが、
    ホルヘvsマルケスの対決の構図は
    ケニーvsフレディを
    彷彿とさせるものがありましたね。

    ところで樹生さんもお気づきだと思いますが、
    最初の2人つまりマーベリックと
    ヴァレンティーノの2枚を比較すると、
    リアタイヤ上端とシートカウル内側にある
    ステッカーの位置等から
    推測できることがあります。

    同じような位置でマーベリックのマシンには
    まだコーナリングGがかかっていてるように見え
    アクセルは閉じているかパーシャル、
    対してヴァレのマシンはアクセルを開け
    すでにリアタイヤにトラクションが
    かかっているように見受けられます。
    勿論、カメラマンの撮影位置や
    カメラそのものの位置が違うことで、
    そう見えているだけなのかもしれません。
    理論的には少しでも早くアクセルを開けた方が
    タイムに繋がりそうですが、
    単にスライドを誘発したり
    トラクションコートロールが
    無闇に介入するようなタイミングや開度では、
    速さ=タイムにつながらないのも
    どおりと言うものです。
    すみません釈迦に説法ですね。

    カテゴリは全く違いますし
    クルマのレースの話なので凝縮ですが、
    NASCARを見ていて疑問に思うことがあります。
    たぶんご存知だと思いますが、
    ほとんどのレースがオーバルコースと
    呼ばれるNRのピストン型の
    長円レイアウトなのです。
    当然、コース幅があるので
    コース一周全てをインベタで周回するのと、
    コース一周全てをアウト側に沿って周回するのとでは、
    一周当たりの走行距離が違ってきます。
    仮にレース中ずっとアウト側を
    走行している選手と、
    ずっとインベタで走っている選手がいたとしたら
    いったいどちらが速いのか?と言うことです。

    アウト側をだけを走行した場合
    走行距離は長くなりますが、
    当然コーナリングスピードは
    インベタで走るよりも速くなります。
    距離が長くなり、
    アクセルを早く開けられるぶん
    燃費は悪くなります。
    一方インベタで走ると走行距離は短く、
    アクセルも開けられず
    コーナリングスピード自体は落ちますが
    燃費は良い訳です。
    そしてタイヤライフを考えると、
    アウト側の方が保ちが良く、
    より多くステアリングを切らなければならない
    インベタの方が早めに消耗してしまうのです。
    同じオーバルコースで、
    アウト側とイン側のどちらを選んで
    ずっと走ってる方が
    結果的に速いのでしょうか。

    実際のレースではそんな事は
    起こり得ませんが、
    モータースポーツの奥深さを感じる
    答えの出ない面白い命題だと思うのです。

    ああ、また何が言いたいのか
    わからないまとまりの無い
    文章になってしまいました。

    事ほど左様にMotoGPや
    レースって面白いなぁと思うのです。
    世界最速にたどりつくための
    正解はひとつでは無いのですね。
    MotoGPライダーひとりひとりに
    それぞれの哲学やタクティクスがあって、
    それも状況や相手によって
    臨機応変に無限に変化し
    進化して行くものなのだと……、
    私たちが魅了され夢中になっているのは
    そういう世界なのですよね。

    訳のわからない長文、
    大変失礼いたしました。
    真夜中のオヤジの繰り言とて
    ご容赦願えたら幸いです。

    樹生さんのわかりやすく読みやすい
    丁寧な解説で綴られる
    後編?続きを楽しみにしています。

    樹生さん、ごめんなさい。
    文章が長すぎるのか?
    うまく投稿できなかったみたいです。
    もし、連投になっしまっていたら
    お手数ですが片方削除してください。


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    返信
    1. 迷走さん、こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      長文、大歓迎です。
      迷走さんのブログでのご紹介、ありがとうございます。
      大変光栄です。

      当初コメント表示されず、失礼しました。
      (システム的に何かあるのか、なぜ表示されなかったのか、ちょっと不明です。すみません。)

      ロッシとビニャーレスの違い、気づいていませんでした。
      確かに、ビニャーレスの方がサスが縮んでいるように見えます。
      元写真をアップして見てみると、実は二人ともリヤタイヤから
      薄青いタイヤスモークが上がっているのですが、これは次回か、次々回
      (次回では終わりそうにないですね^^)に書きたいと思います。

      ラインの件も、大変興味深いです。
      デイトナの31℃バンクでは、パワーのあるバイクでないと最上部を走れないですが、
      最上部を走る方が(または走れるパワーとバランスを持つマシンの方が)
      タイムは速いようですし、かといって大回りなのはそうですし。

      モトクロスではコーナーはインベタも大外も、なんでもありですよね。
      路面に対してパワーが勝ってくると、ラインの選択肢が増してくるという
      一般的傾向はあると思いますが、それがどこなのか、どれがベストなのかを
      探るのは、また複雑で至難の業のように思えます。
      まして、タイムアタックでなく、レースとなると、追い越すためのライン、
      追い抜かせないためのラインなどもあるわけで、それぞれの場合、タイヤのライフや、
      タンクのガソリン残量(重量バランス)などによっても、取り得る作戦が変わってくるという、
      同じところを30周走るだけのように見えても、毎周、毎コーナー、違う状況に対して、
      確信的に、または手探りで、ベストを目指しアプローチしていくという、極限の営みは、
      見る方の精神力、集中力を試しているようなところさえ、あるように思います。
      (最近は全然集中力続かず、「寝落ち」してしまうことさえあります……。)

      体力や技術も、言うまでもないのですが、最近特に思うのは、
      トップアスリートたちの精神力の強さです。
      まさに強靭な精神力、集中力は、どうやって鍛えてきたのでしょう。

      齢を取ってくるとともに、例えば精神力にしても、それを鍛え、または維持するためには
      どれだけの犠牲を払ったのか、代わりにどれだけのものを失ったのか…ということも
      考えるようにもなりました。
      強い精神力。それが必ずしも「幸せ」に100%貢献するものでもなく、かといって
      弱さが必要な時と、弱さゆえに後に消えない後悔を背負うこともあるわけで、
      なかなか、難しいなあ…と思うのですが、しかし、やはりトップアスリートたちのその強さには、
      尊敬を称賛を送りたくなります。

      そして、齢を取ってきたとはいっても、その強さに憧れ、血のたぎる思いが未だわずかに消えずにいる自分にも、気づかされたりもします。

      バランス。

      それを大事にしながら、やっていきたいと思います。

      続編、もしかして遅くなるかもしれませんが(仕事詰んでいるので)、
      ご了承ください。

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