2017年2月28日

「田中さんのV7classic」(2)

「近くで見ても、いいですか?」
お客さんのバイクだ。無許可でずけずけと見るのは、やはりすべきでない。
「どうぞ。」
田中さんは即答した。
でも、近づく前に、逆に離れて、全体を眺めてみた。
近づくと細部は見えるようになるが、逆にバイクそのものは見えなくなる。
バイクの本質はその佇まいや、姿勢に現れる。ジオメトリーも離れた方がよくわかる。

写真はノーマルのV7classic(MOTOGUZZIのHPより)
やはり凛とした美しいマシンだった。
不自然な跳ね上がりや垂れ下がり、腰高感などがない。
70年代的なリヤ荷重の大きいタイプの姿勢だが、それが自然に収まっている。
前タイヤ18インチ、後ろタイヤ17インチも、きれいに決まっている。
キャストホイールもあまり意匠を感じさせ過ぎないのがいい。7本スポークの少し斜めになったものは黒で塗られ、リムも黒なので、V7classicの足元のクロームの輝きは失われているが、それもまた、締まっていい感じだ。

メーターは、気づかなかったが、かすかに低いのか。そして、回転計と速度計の間のインジケーター類が、上ではなく下に行っているようだ。
まっすぐ斜め上に伸びたマフラーは、ノーマルよりもほんの少し上に伸びているが、太さはこれもほんの少し細くなっているようだ。
シートはほぼノーマルに見える。しかしこれも、リヤとの段差がノーマルよりもなだらかになっているようにも見える。

リヤフェンダーは、左右の深さが、これもわずかに浅くなっているのか。
たしかにノーマルのリヤフェンダーは厚みが少しだが野暮ったい。
しかし、薄くし過ぎると、17インチの後輪との間が今度は少し空きすぎて美しくない。
絶妙な暑さに調整しているようだった。

Fフォークはノーマルに見える。しかし、三又はアンダーブラケットが少し厚くなっているようだし、石はねなどからインナーチューブを守るガードがない。

シングルディスクなのは変わらないが、ディスク自体は交換されているようだ。
キャリパーはどうだろう…。

いや、それにしても、遠目にもとても美しい。

「田中さん、やっぱり、あんまり寄ってみるのはやめようかな」

「どうしました?佐藤さんなら、そんなに失礼な見方はしないでしょ?」

「さっき、このマシンは田中さんにとって特別なのかってきいたでしょう?
 それ以上に、このマシンは、オーナーの方にとっては、無二の存在なんじゃないでしょうか。本人がいないところで、じろじろ寄ってみるのは、なんだかやっぱりよくないような気がしてしまうんです。」

「本人に訊いてみますか?」
「え?」
「もうすぐオーナーの方が見えますから。ご本人に訊いてみたらいいんじゃないですか。」
「いいでしょうか」
「嫌ならはっきりそうおっしゃる方ですから。でも、きっといいと言うと思いますけど。」

もうすぐオーナーが現れるという。
どんな人だろう。このマシンをオーダーし、こんなふうに田中さんが仕上げる人というのは。

僕はそちらにも興味が湧いていた。

「あ、話をすれば……。みえましたよ。」

田中さんがそう言って道に向かって会釈し、右手を軽く上げた。
僕が振り返ると、ちょうどドアを開けて、そのオーナーという人が店にはいってくるところだった。
(つづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿