2024年2月24日

これがV7の走り。今シーズンも、ゆきかぜと走る。

 最近のMC(モーターサイクル)の進歩は著しく、電子制御のみならず、フレーム、車体の位置関係(ジオメトリー)、タイヤ、あらゆることが、猛烈に進歩した。
僕の乗っているV7は2013年型だが、この10年間だけでも、MCの性能は全方位において飛躍的に進歩したのだ。
それにより、より強大なパワーを、より安全に、扱いやすくライダーに提供できるようになってきている。
コーナリングABS、多段階トラクションコントロール、アクティブサス、その他、多くのデバイスで、走りが破綻しないように、ライダーの感性に寄り添って発揮するように、調教(チューニング)されてきた。
同時に、社会的コンプライアンスの意識も進行。かつてはまかり通っていた理不尽さが「不適切」だと認識されるようにも、なってきている。(まだまだ、差別や理不尽さは大いに残っているが…)


それは、全面的に好ましい。

同時に、好ましい状況だからこそ、ライダーの方の意識が問われる。

どんなに制御が進んでも、物理法則は変わっていないし、それに勝てるわけもない。
オーバースピードでカーブに突っ込んでしまったら、曲がり切れない。
路外か対向車線に飛びだすしかなくなる。
どんな優秀なABSがついていても、ライダーがそこまでのハードブレーキを掛けられないなら、止まりきれずに突っ込んでしまう。


昔のMCのように、限界が低く(それでも十分以上に高いのだが)、タイヤがブレークしだしたり、フレームがよじれて揺られたりし始めることで「そろそろやめた方がいいですよ…」とは教えてくれない。代わりに液晶メーターパネルに警告表示が出たりする。
しかしそれは、身体で感じる”Hot”な危険信号ではなく、耳目から入る”cool”な「情報」だ。

近年のMCの事故、山道での事故は、「カーブを曲がり切れずに路外逸脱」が多いと聞く。スリップダウンではなく、転ばないが曲がれない、止まれないで飛び出してしまうのだ。
しかも、その事故は、グループでツーリングしていて、前走者に置いて行かれないようにと、無理に走ってしまったケースが多いようだ。(記事執筆時点でデータで確認していないので、断言はできません)

自分の限界が分からないまま、余裕で走っているように見える前走者について行こうとしてしまう。高性能になったMCがそれを許す。
しかし、自分は曲がり切れない。MCとしては余裕で曲がれるカーブでも。
または、前走者がかわして行った対向車が、自分の時には目前に迫る…!

これは、防げる事故だ。

多くの事故は、一緒にツーリングする相手を間違っていることから来る。
自分の速さを初心者にひけらかしたい奴。
自分の方が上だと、ツーリングの場で確認したがる奴。
そういうヤツとは、そもそも一緒に走ってはいけない。

ツーリングの途中でも、離脱して一人で帰った方がいい。
離脱したらすぐに「呼び出しの連絡が来てしまったので今日は帰ります」くらいの連絡を入れて、さっさと帰ろう。
一緒にいても、危険なだけだし、嫌な思いはするし、ツーリングの醍醐味も、MCライディングの楽しさも味わえない。

運よく事故しなければ、変な恐怖と、マウントしてくる相手の下衆なにやにや笑いと、不必要に植えつけられる劣等感に苛まされるだけだ。



結局、どんなに安全デバイスが進歩しても、MCライディングの本質は変わっていない。
自分とマシンの走行状態を正確に把握し、危険には自分で対処しなければならない。
危機回避に失敗したときには、運が良ければ自分が、そうでなければ誰か他の人も巻き込んで、深刻な事故に至る場合がある。

そんなことは、運転免許の教習で習うことだ。
しかし、免許講習を、免許を取得することだけを目的に受けるならば、大事な中身は免許取得後にどんどん落ちていく。

コスト管理の考え方は、行き過ぎると本質を失う。
最小限の時間と努力で免許を取得したほうがいいなんて考えでは、いくら車やMCが助けてくれても、他人の命も自分の命も守れない。

無駄は、結果として削ぎ落されていくものだ。
その過程の試行錯誤から学ぶことが遥かに多く、遥かに大事だ。
その過程自体、すごく楽しいことなのだから、それを味わわないなんて、もったいないことこの上ないのだ。

自分の身は、自分で守る。
どんな走りをするかは、自分で決める。
自分の走りの責任は、すべて自分で負う。

当たり前のことだ。それが、2輪免許を取り、路上で走り出すということなのだ。


高性能で安楽なマシンほど、その原点を忘れさせがちになる。

MCも登山と一緒で、間口はとても広く、幅広い人たちがそれぞれに楽しむことができる。
しかし、登山もMCも、入り口は易しいが、ひとつ間違えば命を失う行為をしていることには変わりない。それが、数百メートルの低山でも、時速30㎞の走行でも。

高性能で安楽なマシンは、だから本来はベテラン向けだ。初心者ももちろん乗っていいが、それには精神的な鍛練が必要になる。

で、「MOTOGUZZI V7」だ。
2013年モデル、僕の「ゆきかぜ号」は、軽い車体、豊かなトルク、高すぎない馬力、扱いやすいエンジン特性、素直なハンドリングで、10年ほど前の国内の「バイクジャーナリスト」の方々からは、『「大型初心者」「女性」におすすめ!!』などとよく聞いた。

それは間違ってはいない。
まあ、ただ「女性におすすめ」なんて言ってたのが中年以上の男性ジャーナリストたちだったってところが、たぶん今なら「キモっ」ってなるところだろう。
大型に限らず、初心者にもおすすめできるMCだし、男性だろうが女性だろうが、特に変わりなく扱えるサイズ、重さ、性能だ。

だがそれが、「お手軽バイク」だと言ってすすめているのなら大間違いだ。
1984年頃、HONDA 「VT250」を、「女の子におすすめ!」と言っていたくらい間違っている。

MCは、そんなに安易なものでも、甘いものでもない。


少なくとも、ブレーキングの練習は積んでおかなくてはならない。

数字上の速度などあまり相手にしなくていい。
サーキット走行や、ジムカーナをしていることを自慢げに言ってくる奴がいたら、無視していい。
サーキットはとても魅力的な場所だし、ジムカーナは運転技術も上がるし、競技としても面白いが、やってるやつが偉いわけでもない。
やりたい奴だけ、やればいい。
それよりも、今日、公道のライディングで生き残ろう。

リアルな場面で、起こり得る危険を想定し、予め回避すべく用意ができているか。
日常で走っている速度からの急制動ができるか。(雨でも、砂利道でも)
逸る自分の心を制して、止まり、深呼吸できるか。


V7は、その基本に、返してくれる。

どうしてそんなことが出来るのか、
人とMCが力を合わせて、疾駆していくことを真剣に突き詰めて作られたMCだからだ。
最高速は180㎞程度。
実用的な速度は150㎞くらいまで。
120㎞くらいから、フレームが負けてうねりだす。

それでも、リアルに速い。
冬でも、春でも、真夏も、秋も、
晴れても、土砂降りの雨でも、
アスファルトも、コンクリートも、土も、砂利も、
ある程度なら、走り切れる。

だが、限界を察知して、それ以上強いないように判断するのはライダーの仕事だ。
そこをさぼってV7に甘えてはならない。

MOTOGUZZI V7は、雨でもダートでも高速でも九十九折りでも、逞しく走る!

これがV7の走り。今シーズンも、ゆきかぜと走る。

3 件のコメント:

  1. うんうん…とうなづきながら
    拝読させていただきました

    全くもって100%同意しかありません

    正立フロントフォークが好きな理由も
    まさに樹生さんがこの記事の後半に
    フレームが負けて…と書かれているように
    ある領域からは"しなり"が感じられる
    正立サスペンションや
    そうした領域で危険を知らせてくれる
    柔いフレームのモデルが好きです

    なので現代の倒立フォークを装備したバイクや
    それに対応する高剛性フレームや
    ハイグリップタイヤを履いたバイクには
    どうしても苦手意識が拭えず
    なかなか馴染めません

    かつて所有していたR1200Rは前後サスが
    テレレバー&バラレバーと言う
    特殊な形式でしたが
    それでもスチールのパイプフレームと合わせ
    ある領域ではウォブルが発生し
    ヒヤリとすることがありました

    限界の低いサス、フレーム、タイヤほど
    ライターにわかりやすく
    しかも早めに…危ないよ…と言う
    シグナルを出してくれるのが
    良いところです

    さらに還暦を過ぎ
    自身のセンサーや反応速度が
    鈍くなって来ているので余計に
    そうしたモデルを選ぶ
    必要性を感じるようになりました

    なのでどうしても
    正立フォーク&スチールパイプフレームの
    なおかつ風を感じられるネイキッドモデルを
    選択してしまうことが
    圧倒的に多いです

    例えば高速道路で感じる風圧や風切り音…
    ウインドプロテクションと言う言葉に
    代表されるように
    それをまるで敵のように考えて
    その影響を受けない方が良いのだ…と
    思うならば
    カウルや巨大スクリーンを
    装備したモデルを選択することになります

    でも風圧や風切り音ほど
    "いまこんなにスピード出てるよ"と言うことを
    わかりやすくライダーに伝えてくれるものは
    他にないように思うのです

    自分はお調子者なところもあるので
    風切り音や風圧に諌められると
    おっとっとイケナイいけないと
    アクセルを戻すことができるのです

    いつも樹生さんの記事に刺激を受け
    そうそう…そうなんだよと
    同じ領域に住まうもの同士の
    共感を感じつつ
    それを言葉にしようと思うと
    いったい何が言いたいのか
    よくわからないコメントになってしまって
    甚だ恐縮ですし
    表現力や語彙の足りないことが
    もどかしいです

    ワクワクしてしまうような動画も
    楽しく視聴させていただきました

    今回もわかりやすくためになる記事
    ありがとうございました
    ライダーの矜持シリーズ?も
    今後も楽しみにしております

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    1. 迷走さん、ありがとうございます。
      確かに、風圧や風切り音は、速度をリアルに感じさせてくれます。
      カウルの中に完全に伏せてしまうと、一瞬、逆に静かに感じて、
      路面の流れる速さ(速すぎる速さ)が、リアリティのない映像のように
      感じてしまうこともありました。
      この静かな高速域から突然タンクスラッパーのようなウォブルを食らうと、
      それこそ生きた心地がしなくなります。
      GPZクンと英田サーキット(今では岡山国際サーキットなんですね)で経験したことですが、それでも、GPZ1100はスチールのダブルクレードルで、スイングアームもスチール製で、Fフォークも(たしか)41φでした。
      走ると、フォーク、スイングアーム、そしてフレームのしなりやたわみを、感じることが出来ました。
      一方でV7は、記事で述べたように、限界域は遥かに低い。
      そして扱いやすい。
      でも、その限界下でのパフォーマンス、特にその切れ味は、軟派バイクとは一線を画している。
      そもそも、何㏄でも、何psでも、バイクを舐めてはいけない。
      人間一人に比べれば、いや、比較にならないほど強いのだ。
      馬力マウントとか、排気量マウントなんていうのは、
      4psの意味さえ本当には分かっていない未熟な愚か者のすることだ。
      そんな思いが動画にはこもってしまいました。
      そんな衝動もまた、未熟であり愚かであることの証明なのでしょうけれど。
      そこまでまだ悟れない。だから、実際に走る時には心して、
      自制心を厳しくめぐらして走らなければ、と思います。

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  2. 面白いなぁと思うのは
    この記事を読み動画を見て
    初めて乗った原付の加速の凄さと
    30km/hで怖いと感じたことを
    思い出していたことです

    あの時の記憶はいまもしっかり心に刻み込まれ
    未だにバイクに乗ることを
    怖いと思ってる自分がいます

    R1200Rのフロントサスはご存知のように
    テレレバーなので一般的なテレスコピックと
    単純比較はできませんが…
    SOHCのR1200Rのフォーク径は35mm
    後期型DOHCとなって剛性アップされても41mmでした

    風のV7でも取り上げていただいた
    毛無峠へ向かう動画で乗っていたR1200Rは
    後期型なので41φのモデルでした
    奇しくも樹生さんの乗られていたGPZと
    同じ数値…それもまた面白いです

    追記のようなコメントなので
    返信いただかなくて大丈夫です

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