2024年8月15日

真夏日の逃走(3)


赤井川の道の駅でトウモロコシを買って、僕はゆきかぜと国道393号線を南へ走った。
倶知安町との町境を樺立トンネル(標高約470m/長さ2001m)で越えていく。

風に当たっているうちに、心がほぐれてくる。
倶知安町の市街地には入らず、いつもの裏道を進む。

「農の風景」

手つかずの自然も、圧倒される素晴らしさがあるが、僕の場合、心が落ち着くのは、人の暮らしが自然と融合している「農の風景」だ。

やがて京極町へ入り、小さな市街地を抜けて、脇道に入り、そのまま、森の中の道を進んで望羊の丘へ。

僕の前を先行していたオフロードバイクの人が、国道から同じ脇道に入り、望羊の丘の方向へ走って行った。そう、僕が追走するような形になった。
もう何十回も望羊の丘へ来ているが、こういう風になったのははじめてだ。
望羊の丘も、次第に訪れる人が増えつつあるようだ。

望羊の丘として紹介されているスポットは、道の脇に小屋がある場所で、そこは駐車スペースもある。ただ、小屋には入れないし、トイレもない、自動販売機もない(電気が来ていないから)当然、灯りもない。

そもそも観光地ではないのだ。

それでも、何年前からだろう、以前はなかった『望羊の丘』の大きな木の看板が立てられたりもしていた。
この1.2年、その看板も再びなくなっている。



ここは京極町大富。町営の牧場だったところで、今は牧草地。
つまり、牛などに与える飼料を栽培している広大な畑だ。
ただの草原のように見えても、畑だから立ち入りは絶対にしてはならない。

その牧草地の中を貫く道は、「民間林道」とされているから、通行はできるものの、林の管理や農作業優先の道だと考えなければならない。

あくまで、おじゃましているという意識を忘れないように、通行することが大事な場所だ。

さて、看板からさらに1kmほど進むと、道はさらに丘を上っていく。



そして到着した僕のお気に入りの場所が標高410m。

道がY字路になっていて、その又の少し広くなっている部分に駐輪が可能だ。



そこからは、牧草地の向こうに、遥かに続く森と、森の彼方にそびえる
尻別岳(1107m)


そして、右手前方には、悠然と構える美しい円錐形の山容、
羊蹄山(1898m)が見える。

ゆきかぜを止め、エンジンを切ると、辺り一帯、セミの鳴き声に包まれて、まるで大きな耳鳴りがずっとしているかのようだ。

春には小鳥のさえずりがずっと聞こえ、
秋には虫たちの声がずっと奏でられる。
そして夏の日中にはセミの声が響くのだが、
こんなに大きく、ずっとなり続けているのは、初めてだったかもしれない。


暑い。
ここまで来ても、陽射しはじりじりと焼くようで、北海道とは思えないほど。
風が動くとやや涼しさを感じるが、セミの声が暑さに油を注いでいる。

逃げ切れやしない。

走って逃げてきたときに、いつも思うことだ。

いくら走っても、どこまで走っても、逃げ切れやしないのだ。
それは、初めてバイクに乗った若い頃から、今まで変わっていないことだし、
若造だった頃から、はっきりと分かっていたことだった。

逃げ切れやしない。
できるのは、せめてひと時、逃走してみることだ。

そして帰っていく。

22の夏も、62の夏も、それは変わらない。変わっていない。

なんだ。
一緒じゃないか。


あの時も、今も、
僕には、モーターサイクルがある。
DT50が
GPz400F-Ⅱが、
ZZR400が、
SRV250が、
GPZ1100が、
ずっと、僕の側にいた。

そして今、
ゆきかぜが隣にいる。

それは、それだけで
十分しあわせなことじゃないか。


物言わぬ鉄馬が、隣にいるだけで。
(真夏日の逃走 完)

2 件のコメント:

  1. 楽しく読まさせていただきました。北海道もそんなに暑いのですね。文面から暑さが伝わってきました(笑)
    こちら関東エリアも猛暑で、日中はとてもバイクに乗る気になれず、涼しさを期待して先日何十年ぶりに夜のツーリングに行ってきました。が、、、涼しかったのは、箱根の上くらいで、道中ずっと暑かったですね。若き日の夏の夜の走りはもっと、快適だったな、と思い出しながら走ってました・・・笑。

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    1. spiderさん、今年も関東は猛暑でものすごいですね。
      北海道はもうお盆で夏は終わりで、あっという間に短い秋に突入です。
      関東では8月一杯暑い日が続きそうですね(最近は9月も暑いですね)
      夏バテにご注意ください。かくいう私も短い夏なのに、夏バテ気味です…。

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