2017年6月28日

言問(5)

「言問の松」に別れを告げ、道道763号線を西へと走り、道道444号線との合流地点を右折して、日本海沿いの道道106号線に出る。
日本海オロロンライン、北上すると左手に日本海、右手にサロベツ原野が広がり、人工物はほぼ道路だけという、360℃見渡す限り平らな道だ。
2017/6/18 13:42

今出たのはちょうどその道の中間点あたり、ここから北がクライマックス。左手に利尻富士の異名を持つ利尻山(1721m)が海の向こうに見え、右手にはただただ原野が広がり、ガードレールすらないという、走っていると得も言われぬ解放感に包まれる道なのだが、
今日はもう帰らねばならない。南に向かう。

右手に日本海があり、左手がサロベツ原野。

今日はほとんど無風だが、この道にはいつも風が吹いている。真冬には猛烈な季節風が吹き荒れ、吹雪でホワイトアウトになることも珍しくない道だ。
あいにくの曇天は特に海の方から広がってきており、利尻富士の姿は見えなかった。
2017/6/18 13:43
前方にも、後方にも、車の姿はない。
日曜日の昼下がりだというのに、絶好のツーリング日和だというに、この感覚。
風の音とゆきかぜの吸気音、排気音、メカノイズ、タイヤのロードノイズなどの混じった走行音だけが、響き、風圧と、振動が、距離感や時間の流れを打ち付けてくる。

2017/6/18 13:44
時速60kmがこんなに遅く感じるのは、この道の広さによるものだろう。
でも、速く走っても、遅く走っても、感覚的にそう違いは感じないから、速く走らなければという強迫観念に追われることもない。
僕がこの日走ったこの道は10数キロしかなく、ほんの短い距離、短い時間だったのに、その長さの感覚を無効化するような感じが、この道にはある。


北の方ほど、雲が広がっている。
頭の真上に、一部、秋のうろこ雲みたいな雲が広がっていた。
季節もここでは、無効化されているかのように感じるのだ。


と、思っていたら、ふと走りながら右後ろを振り返ったときに、何か見えた気がした。
しばらく走って、やはり気になってもう一度振り返ると、ない。
だが、3度目に振り返ると、思ったよりも上に、それがかすかに見えた。
ゆきかぜを路肩に停める。
2017/6/18 13:51
後ろ45度の方向、北西方向の海の向こうに、利尻山の頂が雲の中から見えていた。
2回目に振り向いて探したときは、中腹の雲のあたりを見ていて、見つからなかったのだ。
写真では感じられないが、思ったよりも上、高いところに、山の頂はあった。

ほぼ珍しい無風のサロベツ原野。
今日は穏やかだ。

少し休んでいると、道の南側、遠くから車が北上してきた。
それが通過していくのを見送る。
すると、今度は一台のバイクがこちらに北上してきているのが見えた。
2017/6/18 13:52
陽炎と逃げ水の向こうから、次第にその姿が大きくなってくる。
小型の黄色いバイクだ。ホンダのグロムだろうか。
時間をかけて、ゆっくり近づいてくる。

通り過ぎていくとき、お互いに手を振った。

通り過ぎるのは一瞬だ。

2017/6/18 13:52
僕が来た道を、彼は北上していく。
北の果てはもうすぐそこにある。
リヤにはキャンプ道具も積んであった。
今日はどこに泊まるのだろう。

2017/6/18 13:52
陽炎の向こうに彼が消え、僕は広い風景の中にまた、一人になった。

言問の松に訊けなかったことを、僕はぼんやり考える。
北の果てまで言問の松を訪ねて訊けば、何か変わるのか。
そんな甘いセンチメンタルなものでは、進めないところに、
僕らの日常は来てしまっている。
何も持っていない若いころとは違う僕の暮らし。

子どもは自立し、この春から社会人になった。
家のローンはもう少し。
まだ、もう少し、自分は金を稼ぐ暮らしをしなくてはならないようだ。
困窮していないのは幸いだが、そんなにゆとりがあるわけでもない。
バイク道楽の金も、いろいろ考えて家計として節約して、その結果浮いた金を
どかんと投入しているわけで。

5分くらいだろうか、ぼんやり、停まったまま、考えていた。
思考が停まる。今日は珍しくこの道に風が吹いていない。
僕には風が必要なのだ。
それに、早く帰らないといけないのだった。

ゆきかぜにまたがり、南へ走りだす。
さあ、330km、家に向かって見本海沿いを南下していこう。
(づつく)

6 件のコメント:

  1. こんにちは^^
    「ふと走りながら右後ろを振り返ったときに、何か見えた気がした。」
    立ち止まるか、通り過ぎるか、走り抜けるか・・・そう感じるときがあります。
    RIDERそれぞれ・・・

    私も同じく、きっと立ち止まります。
    すっかり通り過ぎてしまってから、延々と歩いて戻ったり。
    走りのリズムよりも・・・
    通り過ぎてしまうこの時を、とても勿体無いと感じる事が多々あります。
    いま感じることを大切にしたい。

    同じ場所をまた来れたとしても・・・それは違うもの。
    経験上その風景は二度と出会えません(^^)
    尚更感じた心のままに素直に従うようにしています。

    走ること・・・走るだけでなく・・・
    走って感じることを、まるごと感じるのは幸せです。
    って、何を言っているのやらです(^^;

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    1. selenさん、こんにちは。
      同じ場所に来たとしても、同じ風景には二度と会えない。
      本当にそうだと思います。

      走っていて、あっ!と思っても、止まれずに走り去ってしまう時が、よくあります。
      止まって、戻ってみたら、あっと思った時とは全然違う印象の風景だったことも。
      走りながら見る風景、立ち止まってみる風景。
      じっくりのその中に入っていって感じる風景。見もしない風景。
      ツーリングで出会う風景は、同じ道でもライダーごとに、同じ僕でも、その時その時で
      たぶん全然違うのだと思います。

      橋って感じることを、そのまま、何も足さず、そのままに感じることができれば、
      何て素晴らしいことだろうかと、思うこともあります。また、そんなふうに考えることなく
      ただ走って、その時その時の気持ちに、素直になれれば、それでいいのだとも。
      いずれにしても、バイクは心の浄化作用があるように、僕の場合は感じて、それはたぶん間違いなくて、だから気持ちいいのかも、しれません。

      ずっと、そういう気持ちを持てる場所を、持ち続けていたいです。

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  2. 『僕には風が必要なのだ。』良い言葉!樹生さんらしい。だからバイクに乗るんですね。コピりました(笑)
    風は留まる事はありません。樹生さんのバイクライフも留まる事は無く、まだまだこれからなのでしょうね~!

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    1. いちさん、こんにちは。
      小さいころから、アウトドアは苦手ですが、「おそと」は好きでした。
      空気が動いている感じが好きなんだと思います。そしてそれを全身で感じるのが。
      車でもできるだけ窓を開けて運転したがりますし、家の窓もできるだけ少しは開けておきたい方で。バイクに乗らなくても、風は必要なひとなのかもしれません、僕は。
      今もアウトドアは苦手です。お外は好きですが。

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  3. あぁ、日本海オロロンライン・・・最北端。いつか、いつの日にか。。

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    1. tkjさん、こんにちは。
      この道は、想像以上にいいです。
      ぜひおいで下さい!

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