午前3時。札幌の街を走り出す。
さすがに9月下旬ともなると、3時は朝というよりもまだ夜という感じだ。
走り出して15分。
これから郊外や海沿いの風の強い地域を走ることを考えると、やはりこの装備では寒さが来ることが予想された。
若い頃はともかく、60を越えた今は、寒さと闘うことは御法度で、いかに寒さを感じず、体力を温存するかが重要になる。
広い道路の側道に入り、上下レインウェアを着て、それを以て防寒とした。
北海道ツーリングと言えば、虫との闘いである。
いや、虫にしてみれば、バイクとライダーはいきなりやってきて逃げるまもなく自分たちを叩き潰していく殺戮者と言ったところだろう。特に夏の牧場が連なる地帯では、5分も走ればヘルメットの視界に妨げが来るほどに虫がこびりついてくる。
虫のあまり出ない春浅い時期と、トンボの姿も減ってくる晩秋、雪虫が出る直前の短い時期が、虫との闘いに一息つける、北海道ツーリングの短い安息の日々である。
気温10度前後の早朝、虫はほとんど飛んでいなかった。
秋の晴れた日にでる濃霧も今日はない。
絶好の「キャノンボール日和」というわけだ。
4時過ぎ、石狩市厚田の道の駅「あいろーど厚田」に寄って小休憩。
ここは札幌方面のバイク乗りがよく立ち寄る所で、道を挟んで海側のPなど、休日はずらっとバイクが並ぶ。
だから、あまり僕は立ち寄らない。
今日はバイクは1台もいない。
意外と多いのは車中泊で旅をする車の数だ。
それから、リフレクトベストを着こみ、明るいライトを前後に向けてつけ、黙々と走るサイクリストに何人も会った。
こんな早朝から走るのか。
南の方、ほんのり明るく見えるのは朝の気配かと思っていたが、どうやらそれは札幌の街の灯りが空に反射して明るく見えていたようだった。
走っていると寒くないのに、止まると寒さを感じる。
バイクあるあるである。
荷物の緩みや装備を確認して、また北をめざす。
北海道の日本海側の酷道は通称オロロンラインと呼ばれる。
日本海側は海岸線が崖になっているところが多く、交通の難所が続く。イメージとしては、北陸の親不知子不知のようだ。
この道はずっと改善工事がされていて、何度もトンネルは付け替えられ、橋は架け替えられて、安全で快適になってきている。
その分、探求的な味わいが薄まり、「旅感」も薄らいできてはいるのだが、それを云々するのは、そこで暮していない人間の我儘というものだろう。
海岸近いというのに、断崖のはるか上を通っていたり、トンネルで抜けていたりして、海のすぐそばを走る時間は、思ったよりも少ない。
夜から朝に向かっていく海の風景は、瀬戸内海沿いを夜通し走った学生時代を思い出させ、好きな風景の一つなのだが、北海道に来てからは、なかなかお目にかかれていなかった。
久しぶりの夜明け近くの海。寒さもあるが、気持ちよさが上回っていく。
もうすぐ日の出の時間、朝6時前。
留萌市についた。
道の駅「るしんふれ愛パーク」に立ち寄る。
気温は10℃を少し下回る。
水温よりも気温の方が下がったために、海面から霧が少し発生している。
立っていると、ちょっと凍えて来る感じの気温。
体操やジャンプをして、身体をほぐして暖める。
どうだ? 行けるか?
自分の身体に問いかけてみる。引き返すなら、ここからが一番いい。
……。
どうやら行けそうだ。
ゆきかぜのガソリンタンクの残量も、あと200kmは無給油で走れるだけある。
よし、では、
北上しよう。(つづく)
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