2015年7月1日

Kと走る。(6)

午後4時。
仕事疲れが抜けない僕は、朝から走り詰めでかなり疲れてきた。
今日の宿は白老町の海沿いの民宿。
夕飯は午後6時の予定だが、その前に風呂にも入りたい。
5時ごろには着きたいのだ。
だとすると、あと1時間。
本当に走りづめのツーリングになって、情緒もなにもないのだが、
Kに聞いてみると、それもいいという。
では、宿へ走るとしよう。



洞爺湖に別れを告げ、道道922号線を快走する。
良く晴れて、晴天の高層雲がうすくたなびいている。

一気に走って道道2号線へ。
オロフレ峠へ入る。

びゅんびゅん走る。

KのTT250Rは、その名の通り、250ccの空冷単気筒マシン。
RAID(レイド)の名は、ラリーレイドをイメージした命名。ジャンプや超速コーナリングを決めるモトクロッサーではなく、長距離を何日も走っていくラリーレイドのイメージのマシンだ。

オロフレ峠は、道幅2車線でどんどん高度を上げていく。
馬力がものをいうステージなのだが、現実的な飛ばし方なら、250ccで何の遜色もない。
逆に、250でついて行けないペースというのは、公道では速すぎるのだと思う。

だからといって、大排気量のマシンが不要だとは思わない。
ゆきかぜ号の6.0kgm/2800rpmのトルクは、こんな山岳路でも気持ちよく、力強く、ぐいぐいと高度を上げていく。
その逞しさを実感できることは、ライディングしていても、とても気持ちのいいものだからだ。

あっという間に、オロフレ峠の旧道の頂上にあたる展望台に着いた。



海から近い峠だが、標高は940m。
北海道の峠でも標高の高い方だ。
(ちなみに中山峠は841m、知床峠は740m、道内でいちばん高い三国峠は1150mである。)

しばしバイクを停め、二人で風に吹かれた。


北側では羊蹄山が見え、左奥に微かに洞爺湖の湖面が見える。



TT250R RAID と、V7ゆきかぜ。
Kはライテクの話など、ほとんどしない。
でも、速い。どこまでも走って行く。


二人で話していると、キタキツネがとことこと歩いて近づいてきた。


5mくらいまで近づく。
近すぎる。人間を全く怖がっていない。おそらく、このキツネは僕らのような観光客によって、「餌付け」されてしまったのだろう。人間が来ると、何か食糧がもらえないかと、近づいてくるのだ。

人間以外の動物との遭遇はうれしいし、多くの場合楽しいものだが、野生のキツネを餌付けしてしまってはいけない。

カメラを構えても怖がらない。
しかし、餌をくれそうもないとわかると、とことこと林の中へ消えて行った。


さあ、峠を下りて宿へ行こう。

Kが先頭を切って峠を下る。



走りながら振り返ると、後方遥かに洞爺湖の湖面が遅い午後の光に反射して輝いている。


峠付近は尾根道をしばらく走る。比較的フラットな道を、Kは快走していく。
やがて、峠をトンネルで越え、あとは一気に太平洋側へ下って行く。


 オロフレ峠の路面は、排水用の縦ネジが切られたコーナーがとても多い。
接地面がうねうねと動いてしまうこの縦ネジは、バイクにとってはなかなかに怖いものだ。
Kのオンオフタイヤでも、やはりうねうねとなって走りにくいとKは言っていた。

安全に下る。
……と言っても経験豊富なKの縦ネジ走行は、速くはないけれども決して遅くなく、慣れていないライダーだとついて行けないほどだ。

とがったところがないのに、トータルでは速い。
それがKの走りだ。


縦ネジもなくなった、オロフレ峠の下り、中腹でのKのコーナリングを連続写真で見てみよう。



 右ブランインドコーナーへのアプローチ。
軽いブレーキングから、すでに向きを変え始め、車体も傾き始めている。
センターラインの屈曲開始点はもう少し先。
無理に奥まで突っ込んだりしない。緩やかにコーナリングを開始する。
しかし、だらだらとインについたりすることはない。そうすると後でラインが苦しくなるからだ。


コーナーの中に入り、奥の方を見通しながら、リーンをしていく最中の写真だ。
ひとつ前の写真から連続して、イン側へ倒れ込むように…というか、もたれかかるように、別の言い方をするなら、糸で引かれるように、すうーっと倒れながら向きを変えていく。
このリーンしていく最中の、その姿勢が美しいのがKの特徴だ。
タイヤに負担を掛けない、無理のないアプローチ。



バンク角が落ち着いて、バランスした旋回状態に入っている。
コーナーの曲率を見切ったからだ。
走行ラインは、ややアウト側から車線のセンターへ、ゆるやかに寄ってきている。
ここでもし先が回り込んでいたら、これくらいの傾きと速度なら改めて倒しこんで旋回半径を短くする。
少々乱暴な対向車がいても、とっさに回避できるように、Kはマージンを大きくとる傾向がある。

この先、このコ―ナーは意外に長くて、少しの間、アクセルを開け、倒れ込む荷重と遠心力、駆動力をバランスさせながら、旋回を続ける。


出口が見えるとアクセルをさらにあけ、それによって車体を起こしながら、なめらかに加速していく。
シングルエンジンのビートの利いたキックは、なめらかな加速でも、路面を蹴る感覚が味わえ、十分に楽しい。
どれだけ速度を乗せたかではなく、まるで動物の足で路面を蹴っていくように、自分とバイクがコーナーを力強く脱出していく、その感覚を楽しむ。

アクセルで自然に起こすので、車体を起こすアクションはほとんどしない。
ラインは自然に2次曲線を描き、走行ラインはアウト側に寄って行く。
これもわざわざアウトへ寄せているわけではない。

すべてが自然に。

速度もそんなに速くない。
バンク角も深くない。
それでもこのコーナリングは、流麗で、そして、実は結構速いのだ。

力を使わないコーナリング。
Kは20年前から、この走り方だ。
毎コーナー、毎コーナー、
新鮮に、楽しく、駆けていく。

無理に飛ばしていないから、ちょっと走っただけではへこたれない。
だれて流していないから、飽きることもないし、緊張感の不足からラインを外して路外へ出たり、センターラインを割ったりすることもない。

こんなワインディングを、丸一日でも走り続けることができるのが、Kの走法だ。


峠を下り、宿のある白老へと走る。
もうあと3kmくらいで宿につく。

この直線での後姿にも、K独特のオーラが出ている。
機械も、自然も、他の交通も、決して馬鹿にしたりなめてかかったりせず、30年近く走り続けてきたKだけの、この背中の表情だ。

(つづく)

2 件のコメント:

  1. オロフレの縦溝は大嫌いです。周囲の景観がいいので、耐えれますが、
    何でこんな事をするのかな。支笏湖のゼブラやオコタンぺ、手稲山の溝掘り道路
    上げればキリが無いほどです。せっかくのツーリングなのに、こういうのが来ると
    ガッカリしますね。

    返信削除
    返信
    1. いちさん、こんにちは。
      縦溝は「乾式グルービング工法(http://www.dry-grooving.jp/index.php)」というそうです。
      4輪に対してはスリップ防止、ハイドロプレーニング現象の防止など効果があるようですが、反面、オートバイや自転車に関しては危険で、議論もなされているようです。

      削除