もう4年越しに忙しいポジションから解放されない。
土日も仕事に追われることも多く、出勤しなくても、自宅での仕事は山のようにあった。
今シーズン、道東、道北方面への長い距離のツーリングには一度も出られていない。
人生にはそういう時期もある。今年はこのままか…、と思っていたら、10月19日は代休で一日空き、しかも天気予報では全道的に快晴だという。
走りに行こう。
前の晩から、準備を始めた。
道東方面、かつて住んでいた十勝地方へ行こうか、それとも、宗谷岬まで行ってこようか…。
朝3時に起きて出発しよう。
そう思っていたのだが、19日に休むならその前に仕上げておかねばならない仕事がある。
しかも、突発的な事案がどんどん入ってくる。先週の北見での仕事の処理が、一部うまくいっていないのだ。
必死で対応しているうちに夜11時を回っていた。
この疲れ切った体調で、4時間睡眠での弾丸ツーリングは厳しい。
20日(木)は待ったなしの仕事が待ち構えているのだ。
ああ、間に合わない…。
12時。ロングを走ることは諦める。
明日は、朝ご飯をしっかり食べてから、ゆっくり出発しよう。
ロングは来年、きっと走れるから。
……。
2016/10/19 7:28 |
妻が作ってくれる朝食を一緒に食べる。
昨夜、準備しきれなかった準備をして、ゆきかぜ(モトグッツィ V7Special)のカバーを外し、バッグを装着し、タイヤの空気圧を測る。
前後とも2、3kgに減っていた。0.2kgほど減っていたのだが、これは空気が漏れたのではなく、おそらく気温の低下のせいだ。
手押しのポンプを出してきて、前後とも指定の2.5kgに揃える。
空気はかなりひんやりしている。
下着に厚手の化繊のものを着て、ミドルウェアはネルシャツとフリース。上着は昨年末に購入した、ペアスロープの防寒ジャケット。
下半身は、ズボン下の上にクシタニ・カントリージーンズライド、その上からノンブランドのスキーズボンを履いた。
足元はロングスポーツソックスにモンベル・タイオガブーツワイド。
グローブは今年の正月にホームセンターで安く買った、冬の作業用の防寒手袋だ。
クシタニロングゴートグローブは、タンクバッグの中に。
ヘルメットはジェットタイプではなく、Araiのフルフェイスにした。
冷えに弱い僕の体は、防寒だけはしっかりしないといけない。
朝7時半。いつもならすでに職場で仕事にとりかかっている時間。
札幌市内は今ぐらいから通勤でかなり混み合う。
自宅前の下り坂を、暖気運転しながらゆっくり下っていく。
IPONEオイルは、何度も言うが超高性能だ。(モテギの日本GPでMOTO2クラスのマシンにIPONEのステッカーを貼ったマシンがいくつか見られた。日本の長島啓太も、ヨハン・ザルコもIPONEだ。)
とにかくエンジンを守ってくれるし、気密性も高く、ライフも長い。
しかし、オイルが温まるまでは少し時間がかかる。
…といっても2、3分なのだが、その間、優しく走ることが大切だ。
ゆきかぜの場合、オイルが十分に温まるまでは、タペット音がヘッドから聞こえてくる。が、温まるとそれが消えてゆき、静かでスムーズ、でも力強いフィーリングになる。
盤渓峠を越え、小林峠を越えて、南へ。
札幌支笏湖線に入る。
気温6℃から8℃。
山々は紅葉の盛りだった。
2016/10/19 8:25 |
山には、赤色よりもむしろ黄色の方が多い。
陽が差して、樹々が輝いている。
頭の奥に重くこびりついた仕事のことが、ほぐされて、解放されていくような感じがする。
こんな日は飛ばさない。
後ろからくる車にも道を譲り、ゆっくり支笏湖まで走った。
2016/10/19 8:50 |
札幌近辺のライダーが、時間がなくても走りたく思ったときに、ぱっと走ってくる、定番のスポットだ。
ポロピナイの駐車場は、バイク乗りたちがよく集う場所だ。
今日はそこへは立ち寄らず、近くの駐車場に停まった。
明るい秋の光。
静かな湖。
平日の午前中は、こんなに静かなのか。
ゆきかぜのシルエットを見て、60年代のトライアンフみたいだと思った。
イタリアンバイクのゆきかぜに英国の香りを感じたのは、初めてだった。
湖の対岸に、風不死岳と樽前山が見える。
2016/10/19 8:52 |
高い山は恵庭岳だ。
この山はずっと遠くから、千歳空港や札幌市からでもひときわ目立って見える。
今日はすっきり晴れて、頂上から湖面のところまで、見通せている。
2016/10/19 9:02 |
湖面が光っていたので、ちょっとUターンして、カーブまで戻って写真を撮った。
交通量が少ないからできることだ。
2016/10/19 9:15 |
支笏湖温泉郷を過ぎ、ほんのちょっと進んで「休暇村」方向へ。
支笏湖から流れ出る水、千歳川になるのだが、その流れ出しのところを見ることができた。
静かな水面。青い空が映り、山の紅葉も、水面に映っていた。
色があんまり鮮やかなので、「写真みたいだな」と思ってしまって、我ながら苦笑いする。
「写真みたいな景色」なんて、ありはしない。
風景は、ただ、そこにあるだけだ。
ヘルメットを脱ぐと、冷たい空気が頭皮や耳のそばを通り過ぎる。
ふわっとゆるめられた感じが気持ちいい。
ちょっとの間、橋の欄干にもたれて、水面に映る紅葉と、空を見ていた。
2016/10/19 9:45 |
美笛でもう一度、湖水の近くまで行ってみた。
明るくおだやかで、静かな支笏湖。
支笏湖はいつも、少し暗く、厳しい。
今日はとても穏やかだが、それでも支笏湖のきりっとした、人をどこか寄せ付けない毅然としたものは、やはり感じられた。
北国、北海道の自然には、人間を優しく包み、どこまでも癒してくれるような暖かさではなく、人と自然とを分かつ、何か拒絶感を、僕はいつも感じる。
20代の頃、中学校の修学旅行以来初めて北海道に来て、しかもそこで暮らし、働くようになり、バイクであちこち走り回って、思った。
「僕は、この自然の中では異分子だ。風景に溶け込まない。外から来たものだということを、風景が強烈に教えてくる。」
北海道暮らしも通算20年になった。
それでも、今も思う。
人間は、この風景の中にお邪魔しているだけだ。
バイクのライダーも同じことだ。
北海道でなくても、人々の暮らしの中や、そばをツーリングで通るとき、その存在が風景になじみ、溶けることはない。
農家の軽トラックや、ラーメン屋のカブは風景の中に溶けなじんでいるというのに。
ツーリストは必ず、異分子としてしか、その中にいられない。
…だからいいのだ。
とも思う。
僕らが日々の忙しい暮らしの中で、無理やり忘れさせられている、僕らの絶対的孤独を、バイクライディングは思い出させてくれる。
それは、寂しいことだが、いざぎよく、厳しいが、心地よい。
その原点に還ることが、僕には生きていくために必要なのかもしれない。
だから、バイクを降りられないのだろうか。
妻にタンデムツーリングを誘ったことが、何回かある。
ある時は妻は怖いからと断り、
ある時は、体がきつそうだからと断った。
しかし、ある時に、僕にこういったことがある、
あなたは、ひとりになるためにバイクで走るのでしょう?
そうだ。僕は、ひとりになるために、走ってきた。
そして、それが、僕が生きていくうえで、欠かせないことだったのだ。
だから、明日はひとりで走ってきたら?
妻はそう言ってくれたのだった。
支笏湖に別れを告げ、美笛峠を越えて行こう。
(つづく)
素敵な奥さんですね。
返信削除樹生さんのことをよく知っていらっしゃるんだなぁと感じてしまいます。
僕はたまには妻と走りたいなぁと、思います。
僕の妻もバイクに乗っているときの後ろでの振る舞いが「僕のことよく知っているなぁ」という動きをします(笑)(惚気てすみません)
日曜日、月形の方を走った時は少しまだ紅葉には早いなぁと思っていたんですがあっという間にピークですねぇ。
サラリーマンの妻子持ちにはなかなか紅葉も桜もピークをバイクの上で感じることは簡単ではありませんね。
ゆきかぜのカラーリング、そういえばファーストボンネと配色が似てますね…^^
金田慎さん、こんにちは。
削除ありがとうございます。
いいですね。(^^)
一緒に走る幸せがあり、一人で走る幸せがある。
結婚して、家族を作り、育んでいく幸せがあり、
独身で、一人旅を続けながら人と関わり、生きていく幸せがある。
だから、みんながそれぞれの自分の幸せを、「幸せだ」とのろけあい、
それに対して、いいね、と言い合っていくのがとてもいいことだと僕は思います。
幸せのカタチは、人の数だけあるから。
今は、なんでも責める風潮が、ちょっと行き過ぎているように思えます。
さて、ゆきかぜは縦置きV型シリンダー、トラはバーチカル(垂直)ツイン。全然似てないのですが、エンジンがシルエットになってしまった状態で横から見た時の車体のたたずまいが、似てる気がしたのでした。
我ながら意外で、不思議でした。
美笛の湖水もいいですね。今はキャンプ場がやって無いので湖水の近くまで
返信削除行ける様ですね。別の場所なのかな?どちらにしても美しい!
昔は枯れた木があちこちに在ったんですが今は無くなってしまいました。
支笏湖は今も昔もそのままの姿を保ってますね。そこが良いです。
この美しさは残していきたいものです。
アイヌの人達が崇めた自然を目にするとき、祈りにも似た気持ちが湧きますね。
今年は例年に無く多忙だった様で、ごくろうさまです。
来年は、バイクに沢山乗れるといいですね!
いちさん、こんにちは。
削除美笛のキャンプ場ではなくて、道が左に曲がるところを逆の右に折れると、
短いダートで湖畔にでます。
せまい範囲で車やバイクが停められるのですが、写真で見るとその場所も広々と見えますね。
支笏湖温泉郷、湖畔のアスファルト道路、遊覧船。
支笏湖も確かに観光開発は進み、その風景は変わってきているでしょう。
それでも、少しそうした人口エリアからはずれると、太古の雰囲気が感じられるのは、湖畔に平地がほぼなくて、まったく田畑にならなかったからかもしれません。
札幌支笏湖線も札幌オリンピックまではなく、湖の南側の道路が舗装されたのは、昭和の終わりから平成初年でした。
その「開発」の「恩恵」を受けて、僕たちがバイクで走っているんですね。
今年は、忙しくて、疲れ果てて、あまり走れませんでした。
来年、走れるといいなと思います。ありがとうございます。