2020年10月24日

やさしい時間へ。(5)

 石狩川の河口は左岸を行くと日本海を望むが、右岸は石狩川を挟んで手稲山系へ夕日は沈んでいく。
堤防の上を行き、適当なところで停まる。

さあ、ここで夕日を見送ろう。




ヘルメットを脱いで、堤防の道の上、アスファルトの横に芝生というか、草の帯が続く、
そこに立ったり、座ったりして、夕日を眺めた。

風がゆるやかにとまり、
鳥たちが時折鳴き、
時々、静かに滑空する。

堤防の上、
一台、車が通り過ぎていった。

自転車の女の子が静かに走り過ぎた。



空気の冷たさを、なぜか感じない。
風が完全にとまったからだろうか。

石狩川の河口、時にふと、風が動き、川面を波紋がゆるやかに流れていく。

静かに、日が沈んでいく。





夕日に濡れるゆきかぜ。
総走行距離 3万5千キロ。



8年目のシーズンが終わろうとしている。

来年はもっと、走りたい。



ヘルメットに夕日が写っていた。
このRX-7Ⅳも、買ったのが2007年、もう13年使っているのか。
これはいくらなんでもあんまりだ。

普段の通勤やツーリングではジェットヘルをかぶるので、このRX-7の出番は、年に10回ずつくらい。

内装のへたれもあまり見えないのだが、でも、もう買い替えなくてはならないだろう。


額には、昔の「RIDERS CLUB」のステッカー。
右耳に、2011年に交通事故で亡くなった当時のRIDERS CLUB編集長、竹田津さんのステッカー。

あごと額の細いラインは、ホームセンターで買ってきたキラキラテープを貼っただけ。

20年くらい、僕のヘルメットのグラフィック(?)はこのテープラインだけだ。




いよいよ日が沈む。

一日が終わっていくこの時間が、子どもの頃から好きだった。

今では人に売ってしまった僕の育った家の僕の部屋は西向きで、窓から夕日が見えた。

海から500mのところにあった家。

子供の頃は、夕日が沈むのを見に、ひとりで海に行くことも多かった。

大人になり、忙しさの中で、夕日を見る機会がなくなって行って…。

忘れていた やさしい時間。



日が沈む。

そして沈んだ後、名残の光が空と周囲に残っている。

この時間。

子供の頃から、ずっとこの時間の空気が好きだった。



わずか3時間のライディング。

いや、走っていたのは、2時間くらいか。

あとは、停まって、佇んでいたり、歩いていたり。

この時間を路上で迎えるための、ゆるやかな時間だった。

顔の痙攣はまだある。

頭痛も治まってはいない。

明日からのストレスも、仕事の山からも、逃げられはしない。

でも、今、この夕暮れの中にいることの幸せを、
全身で感じている自分に、
とても心地よさを感じている。


さあ、帰ろう。

旅の良さは、帰るところにある。

堤防の上を走り、黄昏の街を走り、やがて夜へと変わっていく空気と灯りの中を、
ゆきかぜと走って帰っていく。




街に住んでいる。
不思議な感じだ。
幼いころから結構田舎が好きだったのに。
十勝の田舎暮らしもかなり好きだったのに。

秋田の田舎生まれ、育ちの僕にしてみれば、札幌は大都会だ。

その大きな街の中に住んでいることが、どこか不思議な気がする。

そんな人生になることなんて、幼い頃は考えてもみなかった。


まだ5時半くらいだが、風は夜の風。
日は本当に短くなった。

夜の街を走って、家までたどり着く。




5時40分。
99.5km。

小さな、短い走り。
でも、大切な、走りだった。

(やさしい時間へ。  完)

2 件のコメント:

  1. 美しくも、どこか物悲しい。

    浜田省吾さんの楽曲「防波堤の上」を思いました。

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    1. tkjさん、こんにちは。
      夕暮れの、さびしくてあったかい感じが、
      昔から大好きでした。

      浜田省吾、懐かしいです。

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