積丹半島へ入っていく。
秋晴れの空。
海が青い。
ここは余市町潮見地区。
ローソク岩展望駐車場に、僕とゆきかぜは止まった。
積丹半島の道は狭く、断崖と海とに挟まれ、狭いトンネルは急カーブがあり、路面は濡れていて、雨のように水が滴っていた。
初めてこの岩を見た時の感動は、59歳の今。
時の流れとともに薄れてしまっている。
擦り切れる心。
崩れていく記憶。
ローソク岩は、海岸からおよそ500m。高さ約45mの岩で、
脆い岩でできているらしく、今でも風化が進みつつあり、つい数年前も、先端部が崩れて先の形がやや尖ったように変わったそうだ。
激しい波と風があったから、風化と浸食がすすみ、今の形となった。
だから、ここからもまた、形を変えていく。
大きな岩でさえ、若い時と今とでは、僕から見る形が変わっている。
それは、言われなければ気づかないものだけれど。
爆音を立てて、バイクの集団が走り過ぎていった。
いわゆる旧車會というヤツか。
70年代後半から80年代の国産バイク。
当時の暴走族車風にカスタムして、ファッションを楽しむ。
少しくらい、好きにしていい。
そう思うのだが、何台も何台も連なって不必要にふかしながら走っては、周囲にもバイクにも、悪かろうに。
もしも、それが1台だったら、僕はむしろ好ましく思っただろう。
同じことをして、一台なら好きで、台数集まるとだめって、僕の基準、僕の気持ちも、いいかげんなものだ。
しばらく、残響と、風を音、波の音を聞く。
そうだ。
ものすごく濃い磯の香が、半島に入ってからずっと続いている。
生き物の匂い、命の匂いなのだが、僕はすこし苦手だ。
だから、昆布やワカメも少し苦手だ。
イカも。カニも。
じゃあ、なんで海に来たんだ。
走りだそう。
滝ノ澗トンネル、豊浜トンネルを越える。
豊浜トンネルを抜けると、セタカムイ道路防災祈念公園だ。
1996年、当時の豊浜トンネルで岩盤崩落事故が起こった。
20名の死者を出した、悲惨な事故だった。
この公園は、事故の記憶を残し、悲惨な道路での事故が無くなることを願って作られた公園だ。
崩れた旧豊浜トンネルは、僕も何回も何回も通っていた。
僕は事故当時、広島県に住んでいたが、ニュースを見て、呆然としたことを覚えている。
僕は事故当時、広島県に住んでいたが、ニュースを見て、呆然としたことを覚えている。
さらにその向こうに見えるのは、古平町の丸山岬だ。
かつて、遠かった古平の街は、近くなった。
アイヌ民族の伝説もある、巨岩。
遥か彼方、水平線近くに石狩湾の向こうの山が見えている。
秋。
その真ん中に僕らはいる。
さあ、もう少し進もう。ゆきかぜ。
(「海へ。」 つづく)
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