今日は、ブレーキについてです。
「V7ブレーキ効かない」とか、「フロントフォークがやわすぎてフルブレーキングができない」
なんて声も時に聞きますが、僕の(あくまで僕の個人的な感覚ですが)感覚では、そんなことはない。
これもまた、V7と付き合うためのコツの一つだと思うのです。
今日はその話を。
誰もが知る、イタリアのブレーキトップブランドメーカー。
レースシーンでおなじみのあの「ブレンボ」が!というわけなのですが、
その効き目はV7の場合いたってマイルド。
「えっ、もっと利くブレーキなら、別に高くないそこら辺の国産にたくさんあるぜ」
「ひでえ、ブレンボ、だましたなあ。廉価版だと思ってなめやがって」
なんて声も聞こえてきそうですが、それはちょっと言い過ぎだし、ちょっと違うのでは。
まず、ブレンボと言えば、モトGPでも採用されるホントにトップブランドですが、何もレーシング用ブレーキばかり作っているわけではない。
レースではF1、NASCAR、WRCなどにも提供し、2輪でもモトGPでも圧倒的な搭載率を持つ、トップパフォーマーであることは確かだが、商用のトラックなどにもOEM提供しているブレーキ総合メーカーだ。そしてイタリア車のモトグッツィにとっては、そちらが国産。
信頼のブレンドではあるけれど、すべての商品が超高性能、超高額…というわけではないのです。
ではV7のブレーキはどうかというと、これは何度かもう書いていますが、シングルディスク、対向4ポッドのブレーキで利きは総じて穏やかで分かりやすい。
街中で、例えば赤信号での交差点ストップへのアプローチでも、緩やかに減速していくことがとてもたやすく、しかもその利かせ方を細やかにコントロールできるので、安心、かつとても面白いです。
ブレーキレバーはゆるやかなドックレッグ形状。
人差し指、中指の2本がけにも、中指、薬指、小指の3本がけにも対応した形で、もちろん、4本がけも、人差し指の1本がけも、中指、薬指の変則2本がけもOK.
それぞれが好きな掛け方をすればいい。
ただし、レバーの開き角調整機構はついていないので、レバーの遠さを変えることはできません。
このレバー、完全開放から効き始めるまでの遊びは標準的だと思うのですが、効き始めてからのストロークがあります。
つまり、効き始めるとレバーが止まる感じで後はレバーを引いていく力を筋肉の張りと指先の圧で感じてコントロールしていくタイプというよりは、さらに握りこんでレバーがどれくらい引けているかでブレーキ入力を測るタイプ。
といっても、さらに引き込むには当然力をさらにこめなければならないのですが、その力に応じてレバーも中に握りこめるタイプ。
もちろんそれは空気を噛みこんだようなスポンジ―なものではなく、きちんとした手ごたえがあります。
V7は初心者もターゲットにしたエントリーモデル。
街中やツーリング先でのパニックブレーキでいきなりロックしての転倒を避けようと、こういう分かりやすい設定にしているのだと思います。
60km/hくらいまでからのブレーキングでは、制動力の不足を感じることはまずなく、レバーに入力する力と効力とがきれいに比例し、離す側のコントロールも分かりやすく、微速からの微妙なブレーキングもやりやすい。
後輪のブレーキも踏み幅があって、これもレバー比が大きいような感覚。強めたり弱めたりがしやすく、わかりやすいので、交差点での小回りなどの時や、渋滞坂道などでの微速走行でリヤを弱く踏んだままアクセル操作する…というのもやりやすいです。
街乗りやツーリングで走っている限り、実に使いやすく、有効な効き目を示し、不足に思うことは全然ありません。
もしV7のブレーキを不満に思うとすれば、それは高速道路でなんらかの事情で前方に危険を発見し、フルブレーキをした場合とか、ワインディングをかなり攻め込んだ時。
ワインディングでもリズムのいい、快走域では、ブレーキングに不満はあまり感じないはず。
相当に速度を上げ、一気に殺速しようとするとき、確かにV7のブレーキ効力には不満を感じるかもしれません。
この場合、「お前、何様のつもりだ」という批判を恐れずにあえて言えば、
不満を感じる方には、
「そのとおりですね。高速域ではそこまで強力には利きませんから、どうぞ、スピードの出し過ぎにには気をつけて、また、その利かなさを前提に、かなり手前から減速してください。」
というのがお答えです。
そして、これが正解です。
もう一つのお答えは、
「実は、V7のブレーキはもっとレバーを引きこめます。握力は必要ですが、相当に減速できます。
ただし、ABSがついていない現行型の場合、高速域からのフルブレーキだと、相当に力を込めた状態からのブレーキロックのコントロールになります。かなり力を込めた状態から少し緩めたり、また締めたりの繊細なコントロールは、練習と慣れが必要です。慎重にトライする必要がありますが、高速域からのフルブレーキも、軽い車重と相まって、相当に勝負できますよ。ただし。レーサーレプリカや、最新のリッターSSにはかないません。」
というもの。
V7のフロントホイールは幅110mm。現在のスポーツバイクのフロントは大抵120mmですから少し狭い。しかし、V7のホイール径は18インチ。17インチホイールのスポーツバイクの履くタイヤよりも接地面積は縦に長い形状になります。
フロントの標準装着タイヤはピレリスポーツデーモン。バイアスタイヤですが、グリップ力は必要十分。
確かに、最新ラジアルスポーツハイグリップタイヤに比べれば、絶対グリップは落ちますが、ブレーキング時のグリップはタイヤのグリップ力だけで作り出しているわけではないのです。
例えば波打つ路面でのブレーキングでは、凹凸の路面のどの位置を通過するかでブレーキ入力をコントロールしないと、安定してフルブレーキはできません。
そうした限界域に近いところでの繊細なコントロールが必要とされるのがフルブレーキングです。
その意味でいうと、V7ゆきかぜ号のブレーキは確かに少し効かない。
絶対的制動力は実は持っているものの、それを発揮するところがかなりレバーを強い力で引きこんだところ。
かなりの力で、引き込んだところで繊細な制御を行わななければならないのがV7のフルブレーキングです。
もう少し、楽なところでコントロールできれば、もっと高速域からのフルブレーキを楽しめるのですが…。
「やさしく奥まで。」
ぎゅう、と引き込んでそこからリリース方向でのコントロールをする…というのがV7の攻めるブレーキングの基本です。
ちなみに、V7のフロントフォークが柔らかすぎてすぐ前のめりになってブレーキングが怖い、という声もネットで見かけました。
僕のV7は2013年モデルで、2012年までのモデルから改善された可能性があるのですが、僕の場合、フロントフォークが柔らかすぎるとは感じません。
(これは個人の好みの問題も大きいと思います。)
これも巡航状態からいきなりガツーンとブレーキレバーをわしづかみすれば、フォークは勢いを付けて沈み込んでしまい、本来のバランスポイントよりも入り込んでしまってグリップも失われがちになります。
フルブレーキでも一瞬の「じわっ」を入れ、最初にレバーを引いて荷重を前に移しフロントフォークを沈めておいて、バランスポイントに来たならすぐさま第2段の本来の減速の為の強いブレーキ入力をする…。
いわゆる2段がけを必ずすること。
そしてV7はリヤブレーキもよく聞きますし、扱いやすいので、リヤを一瞬先にかけてからフロントを掛けることでさらに車体が安定し、フルブレーキできるようになります。
ここでもフロントフォークの奥の方をやさしく扱うことができれば、V7は雑に扱う時には信じられないほどの安定性や制動力を発揮するのです。
なんて、偉そうに書きましたが、私がすべて完璧にできるわけではなく、むしろ、そうした特性に気付き始めたところ、と言った方が正確だと思います。
ただ、V7は理に適った正しい扱いをしたときは、まさに気持ちのいい動きをしてくれ、そうでないときは、それでも破綻はしませんが、どこか「そうじゃないんですけどね」という感じを返してくるのです。
「あっためて」、「丁寧に奥まで」。
まず、この二つから始めてみても、V7との距離が縮まり、ただのシティコミューターだと思ったV7の奥に、相当なポテンシャルが潜んでいたことを発見できると思います。
見かけはキレッキレではないのですが、本当は奥に情熱の炎が燃えている。
いつもおっとりしてやさしく、丁寧だが、本気にさせると、ぶったまげるような力と技を見せる。
そのギャップ。
これもV7の魅力の一つです。
こんにちは、takaです。
返信削除解りやすい説明ですね。
「理に適った正しい扱い」
まさに、その通りです。
SSではないのだから、鋭い効きのブレーキではなく、ストロークの少ないフロントフォークでないのは当然ですよね。
大切なのは「なぜか?」
なぜ、フロントブレーキの効きが穏やかで、ストロークが多いか?
なぜ、リアブレーキが良く効くのか?
なぜ、フロントフォークが柔らかいのか?
を考えて、理解することが大切ですよね。
ってか、それを考えないのは「勿体無い」と思うんです。
それは、モトグッィからのメッセージだと。
だから、理解して、「じゃあ、どう乗るのが良いのか?どう扱うのが良いのか?」を、考えるのが楽しいんですよね。
これは、どのバイクにも言えると思います。
メーカーは、何年も何十年もバイクを製造しているんですから、理由があるはずなんです。
工業製品メーカーで20年程、設計・開発の仕事をしていたので、その様な考えになるんですけどね。
みんな、考えるとバイクがさらに楽しくなるんですけどねぇ(*^_^*)
takaさん、こんにちは。
削除「なぜ」そうなっているのか。そうなる「理由があるはず」。
それを「考えるのが楽しい」。
そうだよなあ…と思います。
どんな人にでも快適で高精度、高能力を堪能できるように作る方向で進歩してきた技術は
いい意味ではユニバーサル・デザイン化の進行であり、みんなが幸せに科学・技術の恩恵を等しく享受できるようになってきたことの表れでもありますよね。
しかし一方で道具とは、まず目的があり、その目的を実現するために作り出されるもの。
目的とその手段としての道具があるのだということを意識できるかどうかで、道具の扱いにもその行為の成果にも大きく差がでるのは、それは今も昔も変わらないものだと思います。
ねじ回しにしても金づちにしても、もちろん、モーターサイクルにしても、どう扱うのがもっともふさわしいのか、
それを探っていく楽しみは、とても大きいですね。
何かに出会うということは、自分がほんの一部にしても変わるということ。
自分を全く変えないままで成果だけを届けさせるような道具や物との付き合い方は、実はあんまり楽しくないし、出会いの楽しさには触れられていないのかもしれません。
V7ゆきかぜ、イタリアのデザイナーや開発ライダーたちが、どんな発想で、どんな風に使ってほしくて作ったのか、その対話はなかなか面白そうで、来シーズンもまだ続きそうです。