2015年12月9日

エディー・ローソンのライディング(1)

エディー・ローソン選手は、僕のヒーローです。
もう、たわいもない、いちファンとして、ローソン選手のライディングを、あくまでファン視線で、語ってみようと思います。
今日は、コーナリングアプローチの、荷重コントロールについてです。


前も載せたこの写真、美しいといいましたが、どんなシーンなのか、少し話してみます。
見ての通り、左コーナーの入り口です。
下って来てのボトムか、上りながらのS字か、路面にカント(外側が高く、内側が低い)もついていますね。
ブレーキングから倒しこみの一瞬。マシンが倒れかけている場面です。

ローソンはフルブレーキ時も人差し指1本です。そしてそのレバーストロークは、極小さく、傍目にはいつレバーを握り、いつ入力を解放したか、非常に分かりにくい。
停止の写真画像だとややわかります。まだ、レバーにはかなりの入力が残っています。

減速時、姿勢安定とグリップを稼ぐため、ライダーは自らの体重の後ろの低いところに置くようにし、いたずらなジャックナイフ(後輪の浮き上がり状態)を防ごうとします。

そのため、カーブに備えて身体を左にオフセットしていても、両足のステップを前に蹴り出すようにし、タンクに当てたヒザと内腿とを合わせた下半身で自分の体重を支えています。
カーブに備えて減速させなければならないのは、バイク+自分の体重の総計だからですね。
そうして自分の体重をできるだけ、後方、低い位置に置くようにしつつ、強い減速Gに耐えてきた入力を、倒しこみの瞬間に合わせて、力を抜き、自分の身体を慣性の法則に任せるようにします。
フルブレーキングは終了しているとはいえ、まだブレーキ入力し続けている(減速Gが掛かり続けている)状態でホールドを緩めると、当然、身体は相対的に前に行こうとします。
その、身体の減速Gをバイクにかけ続けていたのをやめた瞬間、減速Gでフルに後ろから押され続けていた感じのフロントタイヤは急にライダーの体重分のエネルギーから解放されます。
つまり、例えばGP500の車体+ライダー、130kg+70kg=200kgの質量に減速Gがかかっていた状態から、ライダーの体重分が抜重され、130km+α程度の質量×減速Gの荷重に減るわけです。

その結果、バイクの車体自体の動きやすさ(運動性)は、約1,5倍くらいに高まることになります。
その動きやすい瞬間に、バイクをリーンさせ、しかもバイクの方向を変換し、一気に旋回状態までもっていってしまうのが、ローソンのライディングです。

5、6年前くらいから、モトGPでも直線でのブレーキングのラストパートでほぼ浮いているリヤタイヤを意図的に外にふりだし、マシンを倒したときにはバイクの向きも変わっている、というアプローチを誰もがやるようになりましたが(特に2~3ねん前のMOTO2クラスはその走法のオンパレードでした。)、それは現代のタイヤの圧倒的に高くなったグリップ力と、いきなりブレークしない優れた過渡特性があってこその技です。

それを、この1980年代からローソンら一部のトップライダーはやっていました。
上の写真のステアリング、かすかに逆ハン気味になっているのがわかると思います。
これは倒すための逆操舵ではありません。強い減速Gにより、ほとんどすべての荷重がフロントタイヤに乗り、リヤタイヤはただ接地しているだけでほとんどグリップしていない状態なのを利用して、リヤを外に振り出しながら倒しこんでいるのです。
しかもこの動作、リヤを外へ降り出すというよりも、直進状態での荷重を急に抜重したのと同時に上体すべてを丸ごと、伸びあがるようにイン側へ倒れ込むようにし、そのわずかな反力で、自然とリヤが相対的に外に出るような、微妙なバランスを保っています。
ステップを外側に蹴ることでマシンをアウトに自分をインに力技でもっていくのではなく、
減速Gに耐えていたホールドを弱める抜重の瞬間、その自分に掛かっている運動慣性を利用してマシンの向きを変えつつ、倒しこみを行っていくという、なんだか日本武道的な動きです。

しかも、ここでまだレバーが完全に解放されていないことに注目してください。
完全解放し、同時にライダー、マシンがこれだけ動くとフロントの面圧が瞬間的にかなり下がります。そしてその下がった面圧は、バンクし終わった時に一気にバイクの重量+ライダーの重量としてのしかかってくることになります。
その激しい荷重落差はタイヤのグリップを不安定にし、一気に限界を超えることもあります。
そこで、ローソンは減速Gが抜けていくのと、それが向きを変え、バイクが傾いて、旋回Gに変換されていくエネルギー総量の波が大きく変わらないように、別の言い方をすると、フロント面圧をできるだけ変化させないようにリーンの過程にシンクロさせてブレーキを徐々に解放する操作をしています。

この精度が高いのが、AMAスーパーバイクで戦っていたころからのローソンの特徴です。
フロント面圧を無駄に上下させず、フロントフォークも無駄に伸縮させず、常に限界一杯のタイヤのグリップ力を使いながらも、タイヤを長持ちさせ、安定していて派手に見えないのに、なぜかものすごく速いという、独特の走りを武器としていたのでした。

そう、「ステディ・エディー」という呼び名は、彼のその一見とてもスムーズなライディングから人々がつけた彼の二つ名でした。

4 件のコメント:

  1. takaです。
    こんにちは。

    ローソン、ファンでした(^^)v
    この頃のライダーとしては、バイクの挙動がスムーズでしたね。
    その分、繊細なコントロールを行なっていたという訳ですかぁ。
    ガードナーとは、対象的なマシンの挙動でしたよね。

    個人的には、サロンのライディングも、好きでした。

    ライディングは、ライダーの性格、メンタルが垣間見れるのが、レースの見どころでもありますね。
    綺麗なライディングではないですが、シュワンツとレイニーのバトルは、メンタルを超えた闘争心のバトルで、今だに動画やDVDを見返してしまうレースです。

    ライディングって、奥深いですね(*^_^*)

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    1. takaさん、こんにちは。
      クリスチャン・サロン、美しいフォーム、雨のホッケンハイムでスペンサーを差し置いて優勝してましたね!ゴロワーズブルーがよく似合っていて、僕も好きでした。

      レイニーとシュワンツのバトル、すごかったですね!!ラインが違って、抜きつ抜かれつ。
      どうして転ばないのか、どうしてそこまで攻められるのか、本当にすごかったです。

      電子制御のない時代のライディング、ハイサイドが多くて、ぶるぶる震えるマシーンと格闘しながら攻めまくっていた、そんな時代でしたね。
      青春期と重なって、熱く思い出します。

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  2. 小五郎です。
    ライテクとは関係ないですが、こんなの見つけました。
    油圧クラッチ・・
    http://kaneban.txt-nifty.com/blog/2015/07/motoguzzi-2091.html

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    1. 小五郎さんこんにちは。
      情報ありがとうございます!
      油圧クラッチ化、V7のクラッチが特別重いとは思わないのですが、油圧化のメリットは十分あると思います。なかなか!魅力的なカスタムですね!
      もしもお金が無尽蔵にあったら、カーボンホイールも履かせてみたいし、プッシュロッドとバルブをチタンにして、OHVのままもう少し回せるエンジンにして…、なんて、夢は膨らむばかりの私です。

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