2013年11月30日

らしくない

初めてのバイクはヤマハの原付、DT50だった。
ずっと自転車だった俺は、車にも興味を示さず、田舎が好きで、「エンジンは似合わない」とみんなに言われた。
「バイクなんて、らしくないな」
そう言われたものだ。


DT50には1年乗った。
いろんな経験をして練習もした。
次のバイクはカワサキ、GPz400F-Ⅱだった。
DT50ではことあるごとに林道へ走りに行っていた俺が買ったのがオンロードバイクだったので
「らしくないな」と言われた。
GPzで俺は峠やツーリングに走り回り、それこそ毎日走っていた。昼に走れない日は夜に走った。
林道にも踏み込んだ。
広島の十方山林道、横川林道、四国の瓶ヶ森林道、剣山林道、九州の内大臣林道…とにかく林道へも踏込みまくった。
「らしくないところへ行く」
そう言われた。

次に買ったのはZZR400。GPz400F-Ⅱは盗まれてしまったのだ。
水冷、フルカウル。
「らしくないな」
それで1年後、単独転倒事故して長く入院してしまう。
両鎖骨、右肋骨7本、右肩甲骨の骨折、頸椎と腰椎はズレ、肺は破れて血気胸になった。
死にかける大けが。
見舞いに来てくれた友人が言った。
「事故るなんて、…らしくないな」


1年後、どうしても我慢できずにバイクを買う。
ヤマハの空冷Vツイン、SRV250。小さくて馬力も少なく、最高時速で120kmくらい。
ハンドリングはすごく良くて、車重は軽くて、リハビリにはちょうどいい感じ。
GPz400F-Ⅱの頃の俺は、誰もいない峠に行くと、本気で飛ばしていたから、
それを知ってた奴らは言った。
「らしくないな。もういいって思ったのか」


3年後、限定解除してカワサキGPZ1100を買った。
フルカウル1100cc。高速ツアラー。とても林道には踏み込めそうもない。
「もう、お約束通りのツーリングにするのか。…らしくないな」

GPZとは18年過ごした。
高速も、サーキットも、田舎道も、林道も走った。ジムカーナも。
転倒もしたし、バトルもした。旅もした。


今年、GPZを手離して、モトグッチのV7スペシャルを買った。
カウルなし、50馬力、イタリア製。
GPZ1100時代しか知らない何人かから、「らしくないな」と言われた。

らしくないか。

「自分らしさ」にこだわりすぎるのは、変わることを怖がることへの言い訳のことも多い。
かといって、流行やお仕着せの価値観にすべてをゆだねられるほど、お人よしでもないのだ。

そういうのから自由になるのって、なかなか難しい。
少なくとも、俺には。

6 件のコメント:

  1. 僕がバイクに乗ることを初めて知る人は、ほぼ100%「意外!!」って言います^^;
    >>「自分らしさ」にこだわりすぎるのは~
    自分もまったく同じです^^

    返信削除
    返信
    1. Hiroshi Mutoさん、こんにちは。
      Mutoさん、いわゆる「バイク乗り」系というか、「キリン」系には見えないですものね。
      でも、ホントに走っちゃう人って、「いかにも」って人よりそういう人の方が多い気がします。

      それにしても、自分の見栄やら、色気やらを越えて自由を掴むのは、なかなかに厳しい道のようです。

      削除
  2. 樹生さん おはようございます。
    ほんとに寒くなりました。バイクも冬こもりしてしまいました。

    らしくない、、はワタシにはほとんど感じませんでした。
    GPZクンもゆきかぜさんもらしいです。
    どれも旅を起点として目指すものは普遍のテーマのまま、
    年齢や嗜好のステージでベストマッチなものを
    熟慮して想定して選ばれています。
    それはきっと若い時からの走ってきた時間と経験の
    積み重ねから自然とわきでてきた清水のようなものだと
    思います。

    ワタシはZから軽量のW3に乗り換えて、
    肌にあって気楽に乗れることの
    オートバイの原点の一つに触れて
    懐かしい感覚とともに、不思議に走る元気も
    湧いて出てきました。
    年齢を考えれば女性としては、身体負荷が
    高いのですが、気になりません。
    50ccで自宅から坂を登って通った学生時代を
    思い出してしまい、おもわずヘルメットの中で
    微笑んでしまいました。
    オートバイってちょっとした魔法の乗り物ですね。




    返信削除
    返信
    1. kaori さん、こんにちは。
      ありがとうございます。
      kaoriさんにそんなふうに言っていただけると、とてもうれしいです。

      「モノ」と「ヒト」との関係は、一方的なものではなくて、
      どんなものをどのように使うかでその人も変わっていく、
      そういうものだと感じます。
      オートバイはまた、感性に訴えるところが大きく、
      「原バイク」的感覚は、何時になっても忘れられないものなのだと思います。
      kaoriさんのW3、kaoriさんならではの関係性がありますね。

      オートバイライフ、来シーズンも、その先も、できるだけ長く、楽しみたいと思います。

      削除
  3. 少し次元が異なりますが、
    会社の同僚には「えっ!バイク乗るんですか?」と。
    そして、
    バイク乗りには「スーツ姿が想像出来ない」。特に女性から。

    「らしさ」は自分ではなく、周りが形成するのですね。
    (その「らしさ」は、自分では思い付かないねw)

    返信削除
    返信
    1. tkjさん、こんばんは。
      あ、なるほど。どちらもわかる気がしますね。
      そうですね、「らしさ」は自分ではなく、周囲が形成するもの。
      いつの間にか自分が纏っている、というか、自分にまとわりついているイメージ。
      それも逆手にとって楽しんじゃえばいいのでしょうね。
      意外って言われるのって、どこか気持ちよかったりする私です。

      削除