2015年2月11日

「classic」(4) (下)

*この物語はフィクションです。



 ミラーの中の一台。フルカウルのマシンは最初には写っていなかったような気がした。
 僕を追いかけるバイクたちを、さらに後から追いぬいてきたのだろか。

 道幅が狭くなるまで、後1kmくらい。中速コーナーが連なる登り。
 定常円旋回のまま大きく回り込むカーブをいくつもつないでいく。

 GSRをバンクさせ、路面とタイヤとの摩擦状態を感じながら旋回していく。深いカーブなので、同じような速度のまま延々旋回し続けることになる。それでも、路面の状態はところどころでうねっていたり、へこみがあったりするから、円盤の上を回っている感じではない。タイヤがブレークしそうな予感を感じ取ろうとしながら、アクセルを開けて続けるのは、ペースが上がりすぎると、なんだか運試しのような気になってくる。
 カーブの終わりが見えてくると、GSRを起こしてアクセル開度を上げていく。それでも外側に飛び出さないように、まだイン側へ引き込むような気持ちのまま、加速していくのだ。
 立ち上がり、少しの直線の後で、今度は反対の方向のカーブ。
 次の立ち上がりではそのままS字になっている。
 できるだけ出口をタイトにしてラインを大きく振らずに次のカーブのアウト側に位置するようにし、また、倒しこんでいく。

 走っているとミラーの中の画像が次第に近づいてきていた。赤いマシン。
 4つめのやや小さなカーブを立ち上がった時には、もう僕との距離は100mを切っていた。

 僕より速い。

 立ち上がった後は浅いS字がまた3つ、その後に少し直線があって、ヘヤピンになる。

 後ろのバイクはカーブの度に近づいてくる。3つ目のS字を立ち上がった時は、もう10mほど後ろに迫っていた。次の直線の後は左ヘヤピンだ。
 ヘヤピンを立ち上がると、そのあと、道は急に右へ90度折れ、その先、少し走ったところで道幅の狭い、路面の荒れた区間に入る。
 そこでの追い抜きは無理だ。

 僕より速い人なら先に行ってもらって問題ない。
 この直線で抜いてもらおう。

 僕立ち上がりのラインを左端に寄せ、アクセルを少し緩めて、ヘヤピン前の直線で抜かせようとした。

後ろのバイクは、僕の動きに少し驚いたように、しかし、前へ出た。

赤と白に黒の塗り分けのフルカウルマシン。ライダーはレーシングスーツを着ていた。
僕を右側から抜くと、ヘヤピンにアプローチ。
かなり奥までハイスピードで突っ込み、ブレーキングしながらカーブに入って行った。

僕はアクセルを少し緩めた分、進入速度が遅くてブレーキングが楽だった。
直線部分でほとんどの減速を終え、ヘヤピンに続いて進入する。
速度を落としてくるっと回るのは、GSRの得意とするところ。気持ちよくタイヤで路面を掻きながら旋回し、立ち上がろうとしたら、今度は今、抜いて行ったバイクが速度を押さえている。
それだけでない。振り返って僕の方を見、左手をハンドルから離して手を振っている。
手のひらを下にして、上から押さえるように、何度も振る。
「止まれ」のサインか?


右の直角カーブが近づいてきた。
僕は速度を落とし、先行するバイクも減速しながら、ゆっくりとカーブを曲がり、曲がり終えると、一度ハンドルに手を戻して左のウィンカーを点け、道幅の狭くなる直線、路肩が左に広く広がり、車2台くらい止まれるようなスペースに入って行った。

僕も後に続いた。
「なんだろう?」

先行のバイクは路肩にバイクを停める。しかし、僕はまだ彼が誰か、何があるかも知らない。彼から間を置き、道の手前に鼻先を道路の前方に向けて停車した。
まだ、エンジンは切らない。

先方に停まったライダーはエンジンを切り、サイドスタンドを掛け、バイクから降りた。
僕はまだエンジンを切らない。

するとライダーはグローブを外し、ヘルメットを取った。
ヘルメットの下は、白髪交じりの短髪、歳の頃は50代か、やや精悍な感じのする、中年の男性だった。
彼は僕に向かって笑顔を見せると、片手をあげ、会釈した。
バイクにはタンクにホンダのウィングマークがあり、サイドカウルにCBRとあった。

彼が僕に近づきながら叫んだ。
「すみません。停めたりして。」
友好的な声だった。
危険な匂いはしない。
昔のくせか、僕は近づいてくる人間にはいつも警戒心を解けない、
しかし、危険な香りがするかしないかは、一応のところではかぎ分けられるようになった。

今はあまり危険な匂いがない。

僕はGSRのエンジンを止め、僕もバイクから下りた。

50代と思しき彼は、僕に近づいてきたが、僕の2m前で止まり、改めて普通の声で
「すみません。」と言った。
そして、彼の話したことに、僕は少し驚ろいたのだった。(つづく)

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