2017年10月19日
約束。5
2017年8月。10年毎に集まる約束の、北海道開陽台。その30年目の年。
果たして、仲間たちはたどり着けるのか。「約束」ツーリングが始まる。
約束1
約束2
約束3
約束4
そして、第5回。
8月10日、午後1時。
白井と中谷は、日高道の駅を出発する。
日高と十勝をつなぐ日勝峠は、昨年の台風の大雨でがけ崩れが数十か所起こり、一年経ついまでも通行止めが続いている。
そこで、国道237号線を北上して、狩勝(石狩と十勝の峠だから)峠を越えるルートを取る。
最短は占冠からここだけ無料区間になっている高速に乗ることだが、もう少し北上して、空知川にかかる金山ダム、かなやま湖畔を抜けて南富良野から狩勝に向かうルートを選んだ。
かなやま湖畔は、ダム湖沿いということもあって、高低差のあまりないワインディングになっている。低速のワインディングロードは、北海道では実はあまりない。
バンバンに飛ばすのではなく、切り返しや細かな旋回、コーナーの組み立てを楽しむライダーにはおあつらえ向きの道だ。
中谷のモトグッツィV7が先頭で、白井のヤマハTT250RAIDが続く。
二台ともツイスティな道は得意な方だ。
リズムに乗って、くるくると楽しく走り、かなやま湖森林公園の駐車場までやってきた。
曇天の下、見頃を終えたラベンダー園と、ダム湖が目の前に広がる。
午後2時。まだ雨に降られないのはラッキーだ。
停車すると白井が中谷にすぐに話しかけてきた。
「どうして右折の時にウィンカーださなかったんだ?」
「え?」
「いや、さっきから右折が2回ほどあったが、どっちも出さなかったから。お前にしちゃ珍しいと思ってさ」
「いや、出したぜ。おかしいな」
中谷がウィンカーを見ると、右後ろのウィンカーボディが付け根から折れてプラプラとぶら下がっている。
「これ、折れたんじゃなくて、ボルトが緩んで外れてぶら下がって、ナンバープレートの裏側に隠れて見えなくなってたんだな」
「ああ、それでか…。中谷、こういうの初めてか」
「いや、後ろの左で1回、前の左で1回、外れたことある。」
「今度は後ろの右か」
「う~ん。この後ろの右はこないだウィンカーボディをはめ込んでるリヤのランプハウジングが割れて落ちたんだ。それで修理してもらったんだよ。」
「じゃあ、また割れてる可能性があるか?」
「わからん。でもまあ、応急処置しておこう。」
「ビニールテープでぐるぐる巻きだ。」
「いいけどさ、中谷」
「なに?」
「どうして黄色なんだ?普通黒にするだろう」
「あ、いや、どうして黄色かったんだったかな。まあ、目立っていいじゃないか」
「そういうものなのか」
「いや、適当だけどな」
「まあ、テープないと困るけど、細かいところは適当な方がいいことも多い」
「そう、年取るとそういうことも学ぶわけだ」
「むしろダメになったと取る人もいるだろうぜ」
「一向にかまわんね。思わせておけばいい」
「はは…」
「まあでも、気持ちのいい公園だ」
「あれ?白井はここ初めてか?何度も通ってるだろう?」
「いや、このルートは通ってなかった。ここは初めてだ」
「へえ、てっきりよく通る道だと思ってた」
「いや、そうでもないさ。」
白井は曇り空のダム湖をずっと見つめている。
「さて、ぼちぼち行こうか。中谷、帯広の街でホーマック(*ホームセンター)でもあるだろう。そこでボルト買って直せばいいんじゃないか」
「そうしようか。じゃあ、ちょっと急ごうか。」
中谷のV7がまた先頭で、走り出した。
南富良野町で国道38号線に合流し、東へ向かう。
落合を越えて峠に入ったとたんに雲の中に入って、視界が100mくらいになり、霧雨が降ってきた。
霧ならそんなに濡れる前に峠を越えられる…。
中谷はそう判断して進むも、霧雨は濃くなり、視界は悪くなり、二人は徐々に濡れそぼっていく。
中谷はバイクを停める。
「白井、合羽着ようか」
「いや、着るならさっきだった。」
白井が答える。
「たぶん、峠の向こうは降っていない。合羽を着るよりも峠を早く越えて走りながらかわかそう。」
大学時代、天文研だった白井の天候予想はよくあたる。特に道東は白井が10数年住んでいたところだ。
「OK,じゃ、突っ切るか。」
再び走り出し、3kmほどさらに走って峠を越える。峠の視界は50mもなかった。
覆道の多い下りを下っていくと、確かに雨は降ってこず、雲の下に下りると、やはり厚い曇天の下ではあるが、雨の気配はなかった。
(すごいな、白井。相変わらずだ。)
中谷は心の中で舌を巻く。
国道38号線を南下。走りながら右を見ると、日高山脈が雨雲の中に隠れている。相当に降っているようだ。
時刻は3時を回っている。
二人は、清水町からいったん国道274号に入り、十勝川を渡って道道75号線にスイッチした。
殆ど渋滞のない北海道だが、国道38号線の芽室から帯広の間は、車線も多いのだが信号が多く、よく引っかかって停められる。交通量も多いので、ツーリングライダーはここで消耗させられることが多い。
裏道になるが、道道75号線を音更町木野まで行き、国道241を南下して帯広に入った方が断然疲れない。
夏とは思えない暗い空。
気温も15℃と相当に寒い。
木野までの快走路、道道75号線は、時々裏道で飛ばす車を狙って取り締まりが行われているから注意が必要だ。
なんといっても道東地区の国道や道道は、車の流れ自体が時速90kmくらいのところさえある。
ロングツーリング中に取り締まりにあうのは、なかなかにキビシイ。
気を付けながら走行する。
午後4時。
音更町木野で大型ホームセンター店による。
中谷は反対のウィンカーから固定ボルトのナットを外して、それを持って店内へ。それにあうボルトを買う。
いろいろてこずって、帰ってきたのが4時15分。
5時には帯広駅にいたい。直すのが間に合わないかもしれない。
中谷は同時に買ってきた新品の黒のビニールテープで応急処置をやり直し、待っていた白井に礼を言って、再び二台で帯広市内を目指す。
もう十勝川を渡れば、そこは帯広市の中心街だ。
目の前に十勝大橋の斜張橋を支える主塔が見えてきた。
1996年にかけ替えられたこの橋は、斜張橋としては日本有数の大きさらしい。
橋を渡って、二人は帯広市の中心部へ入り、JR帯広駅の北側すぐにあるホテルにバイクを入れてチェックインした。
ここは駐車場の係のおじさんが名物だと聞いたことがある…と白井が言う。
たしかに、バイクはホテルの正面雨のかからないエントランスすぐ右の屋根の下の広いスぺ―スに案内された。これは一等地ではないか。車よりもいいところに優先的に駐車させているようだ。
駐車場のおじさんは、にこやかに、手際よく案内してくれ、雨で大変だったろうとねぎらってくれた。
さて、5時にはあと10分。
白井と中谷は、部屋に荷物を放り込むと、ライディングウェアのままでどかどかと帯広駅へと急いで歩き出す。
そう、4時58分に着く特急で、曳地と広田が来るはずなのだ。
(つづく)
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿