2013年6月13日

新しい緑、薫る風(3)


 パノラマラインを下っていくと、右手に新見温泉方向へ向かう分岐が見えた。
 
 しかし、工事中で、1.7km先は未舗装だと書いてある。さすがに馴らし中にダートを延々走る気はないが、行き止まりまで行っていようと道を逸れた。
 それが、路面がよく、中速からやや高速よりのコーナーが続く道で、標識のためか、僕が走った時は交通量がほぼゼロ。結局行き止まりにはならず、舗装路のまま新見温泉へと続く道に合流していた。
 だれもいなく、見晴らしもよかったので、ちょっと飛ばした。
 バイカーズステーション2013年5月号では、新しいV7について、クラシックと比べるとトルクもパワーも上がり、レスポンスも速くなっているが、のんびりした雰囲気が薄まり、「攻めたときの車体の振れの出方が、ステアリングヘッドに集中したシャープなものになりました。」(p56より)と書いている。これは、佐藤編集長と一緒に試乗した小澤氏(オザワR&D)のコメントで、佐藤編集長も速いがやや硬質になったと評している。
 距離の積算が700kmを越え、回転自主規制値も4.500まで上げることにした。しかし、まだ全開はくれないようにし、しかし各ギアでトラクションをかけながら回転上限まで引っ張るように心がけて見ると、下りの左高速コーナーで車体が揺れ始めるのを体感した。
 GPZ1100もスチールフレームだが、ガチガチの高さは感じないものの、安定感、安心感は、サーキット走行でも揺るがなかった。(当然、僕の腕では、ということである。)このV7スペシャルは、もう少し(いや、けっこうかな…^^;)フレームが柔軟な感じがする。もちろん、ふにゃふにゃではない。揺れ始めてもその揺れは唐突にではなく、徐々に表れ、しかも深刻なものではないため、安心していられる。だが、それ以上に変な負荷はかけられないな…と感じる。限界はまだまだ先にありそうだが、運動エネルギーの大きさを、ちゃんと比例的に体感させてくれ、揺れもコントロールでき、車体もむしろ「しなやかさ」を感じるのだから、この設定は非常に好みだ。
 バイカースステーションの記事の通り…ということになるのか、確かにステアリングヘッドを中心に横に振れはじめた感じで、観ていない人には申し訳ないが映画『キリン』でチョースケのカタナのフロントが振られている、あの感じに近い。



 
 しかし、…と僕の体とカンが答える。
 この振れは、ライダーがへたくそだからで、ちゃんとゆきかぜの乗ってほしいように乗れば、振れはもっと小さいし、起こるのはもうちょっと先の荷重域からになるはずだ。

 どこかに無駄な力が入っている。力でバイクを抑えようとしている。だから応力を逃がすことができなくなって、どこかが振れ出すのだ。

 へたくそ!

 
 いや、楽しくなってきたね。


 新見温泉と蘭越を結ぶ道路は、ちょっとまえまで全線1~1.5車線の狭い超低速ヘヤピン続きで直線は少なく、見通しの悪い崖に近い山肌を登っていく、そんな道だった。ここ10年で工事は一気に進んだ。そういう区間も残っているものの、新見温泉まではほぼ全線、往復2車線の快適な山岳ワインディングになっていた。

 負荷を駆けすぎないように、でも甘やかさないように…。
 徐々に徐々に、負荷を掛けながら、V7と駆け登る。

 新見温泉を過ぎると昔からの狭いくねくね区間に入る。

 実をいうと、こういう道が大好きだ。広島に住んでいた頃、大きな街道を外れて山里を結ぶようにツーリングしていたら、中国地方でも、四国でも九州でも、こんな道だらけだった。

 GPZ1100には本来小さ過ぎるそんな道でも、GPZはコツさえつかめば面白いようにくるくる向きを変え、たいていのモタード仕様のバイクにはついていけたものだ。

 イタリア生まれのV7はどうだろうか。
 

 やはりホイールベースが短く、1435mm(GPZは1500mm)軽い(装備198kg)分、動きは軽快だ。しかし、ハンドリングは安定志向で、クイックな部類ではない。
それでも、この軽さは武器になる。
 くねくねを繋いで一日400km行けと言われたら、正直いえば今日の僕なら、GPZ1100の方が速くて疲れないだろうが、もう少しV7に馴染めば、圧倒的にV7の方が楽しめてかつ疲れないだろう。(速いかどうかはやってみないとわからない)

GPZがコーナリングの度に重いナタで薪を叩き割っていくのに対し、V7は大型ナイフで若枝の柔らかい木身をすぱっすぱっと削いで行くような、そんな感覚の違いがある。(…わ、わかりにくいですよね。すみません…。)



 道は新見峠を越えて、岩内側のニセコパノラマラインに向かって下っていく。
 残雪と暖かい日の光が気持ちよかった。
 本当にこの時期の新緑は例えば同じ日でも朝と夕方では大きさも色も変わっていて、新鮮だ。
 やわらかい若葉は、しなやかで、陽の光を少し通して明るく輝き、山に今だけの華やいだ表情を与える。自転車で来れれば、それは本当に最高なのだろうが、都会に住み、時間も体力も根性もない僕は、バイクでこの景色の中に入れるだけで、心のこわばりが少しほどけたような、呼吸が楽になるような、とてもいい気持ちになる。
 またバイクを停め、ヘルメットを脱いで休憩してしまった。




 ゆきかぜ、どうですか、日本は。どうですか北海道は。
 そして僕は君の声をちゃんと聞き取りながらナラシ運転ができているだろうか。
 

 エンジンを切ると、キン、キンを音を立てながら熱く燃えたシリンダーや排気管が冷えていく。その空冷独自の音もなつかしい。
 シリンダーだけでなく、全身から発しているようにも聞こえる。

 君は淑女(レディ)だな。
 僕は思う。それも小娘じゃない。
 峰不二子とまでは言わないが、(不二子みたいにボン、キュッ、ボンじゃないもんね。)簡単に男に媚びたりすることがない。
 (媚びてるように見えたとしても、それは演技だ。例えば不二子は表面的には媚態を使っているが、決して誰にも媚びていない。 独りで屹立している。)

 シャフトの癖も、走っていれば全くと言っていいほど感じない。ブレーキも唐突さがなく、初期は優しく、でも握り込むとかなり強烈にFタイヤを路面にこすりつけることができる。リーン方向は動作が軽いけれど、運動慣性が大きくなってくると、リーンと同時に旋回を始めるには、直4とは違うコツが要りそうだ。
 でも、気まぐれわがままレディじゃない。芯がしっかりして、君を僕がちゃんと理解して、君に合うように、僕が走りを組み立てられれば、君は気持ちよく応えてくれる。

 その時の気持ちよさは、それはもう、逸品だ。

 ゆきかぜ、日本人の書いた漫画で「コブラ」ってのがあるんだ。寺沢武一さんの作でさ、なんていいうかバタ臭い漫画なんだが、僕は大好きなんだ。
 その主人公、一匹狼の流れ宇宙海賊「コブラ」の相棒に「レディ」っていうアーマロイドがいるんだ。君は、そのレディに少し似ているね。


 この話はまたいつかしよう。
 ゆきかぜ、君が僕の思った通りのレディなら、僕には過ぎた相棒だろうね。でも、僕はとてもラッキー(幸運)だったということになる。
 いまはまだ、君を知り、僕を知ってもらう、そういう期間だ。




 ビューンと走っては、景色のよさ、気持のよさに停まり、休憩しながら深呼吸し、また、ゆきかぜに跨ってビューンと飛ばす。そんか繰り返しをのんびり過ごした。
 新見峠からパノラマラインに合流したところでUターン。今日は留寿都の道の駅で、アスパラを買いたいから、もう一度新見峠を越えてニセコ側へ戻る。

 やっぱり何度か休憩しながら新見温泉近くまで下ってきたら、下から白バイが3台、ピタッと連れ立って、けっこうな(いや、本当は尋常じゃないくらい)飛ばして上がってきた。3台ともサイレンは鳴らしていないが、赤色灯は回転させている。新見峠は登山口でもあり、そこには登山客の車が何台もあったが、何か事故とか、トラブルだろうか。山菜取りの人も上の方にはいたようだし…。
 でも、僕はちょっと違うことを勝手に想像してた。
 あ、楽しんでるね!
 すれ違いざま、思わず会釈してしまった僕に、先頭の白バイ隊員が会釈を返して、一瞬、ニヤッと笑ったような気がしたんだ。
 後ろの二人は僕なんか目に入っていないみたいな、むすっとした面で走って行ったけど。
 ああ、もちろんこれは、すぐに空想しがちなセンチメンタルメタボ中年の勝手な想像にすぎない。
 まあ、それでいいのさ。
 事実は知らないけれど、あの3台、一般の飛ばし屋では追尾できないくらいの走り(それでも1、5車線くねくねだから絶対速度は遅い。おまけに制限速度の標識もないのだよ。)で駆け登って行った、その全身から、走りを楽しんでるオーラが出ていたような気がした。
 間違っているかもしれないけど、それでいいのさ。
 今日は、本当に青い空と、風と、白い残雪とそして新緑がきれいな日だからね。
 さあ、ゆきかぜ、今日の走りはだいたいおしまい。ちょっと寄り道しながら、道の駅に寄って、アスパラ買って帰ろう。(つづく)





<<おまけ>>

 さて、約720km走ったスポーツデーモン。前回よりも少し荷重がかかっている。前回は青焼けではないと言ったが、見ると若干青焼けしてるかな…。手を当てているのはフロントタイヤ。エッジに近いところで(本当のエッジでやるにはまだゆきかぜの経験値も僕の腕も度胸も足りない。)中、高速コーナー(これも本物の高速コーナーではなく、本当は中速コーナーと呼ぶべきところだろう)を駆けてみた。
 バンク角を増して行っても、グリップ力の低下はあまり感じない。車体が揺れ始めたのと、少しバンクがエンド近くで重くなるので、その手前でとどめると、こういうタイヤ表面になった。タイヤや車体、ライダーの馴らしを兼ねて慎重にやっているのでここまで倒したが、本来は、もう少し浅いバンク角で旋回すべきだと思う。そのバンク角に留めたうえで旋回効率をいかに上げるか、のチャレンジの方がきっと楽しい。僕も50代に入り、そう簡単には転べない。あくまでマージンをしっかりとって、安全第一でタイヤの性格を探っていきたい。



 こちらはリヤタイヤ。
 深いバンク角でフルトラクションは掛けていないし、下りじゃないと馴らし中のエンジンでは高速コーナーを走れないので、深いバンク角の部分の表情は相変わらず穏やかだ。
 立ち上がって浅いバンク角の部分では、全開はくれていないものの、軽く回るようになってきたエンジンと合わせて、今朝よりも強めのトラクションを掛けてはいる。
 タイヤの溝のエッジが、片方、角が丸くなってきた。フロントとは走行中にかかる路面抵抗が逆(フロントは主にブレーキング時のマイナストラクションがかかる)なので、丸まっていく角も逆になる。
 しかし、摩耗が速いとは思わない。いまのところ、の限定つきだが、ライフはやはり長そうな気がしている。接地面の表面がざらついてきている。そのざらつきや場合によっては寄る皺、トレッドが削れたりめくれたりした跡のことを「アブレ―ジョン」というが、走りが穏やかなせいもあるだろうが、アブレ―ジョンもそんなに激しくないタイプに思う。

 この表面は新見峠の上でのもの。
 この後、下りも楽しんだので、表情はほんの少し変わった。
 非常にしつこく(^^;)、帰路、家の近くでのタイヤ表面の様子を、最後にお見せしたい。

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