2013年6月6日

水無月朔日馴らしに走って(3)


 ズームさんを10:30頃出て、ポクポクと北へ向かった。
 当別町へ。そして当別川を遡って、ゆっくりと走る。
 やがて昨年秋に完成したばかりの当別ダムに行きつく。


 ダムの堰堤の下に黒い石碑がある。水没した地域のことを記念した碑だ。
 この道は、札幌近郊のライダーにとっては近距離の定番ルートの一つで、ダムによって水没した地域も、本当に美しい里だった。僕なんかは何にもしなかった、何の興味も示さなかった無責任な傍観者に過ぎないが、ダム湖の風景はそれとして美しくても、水没した里や川の風景の方がずっと美しかったように思えた。ダムはいつか寿命を迎える。ダム湖全体が上流からの堆積物で満杯になると、それで寿命は終わるのだ。ダムで得たもの、失ったもの。それをいまさらながら考えるのは、あまりにのんきと言うべきだろうか。僕らはすべてのことに誠実にはなれない。すべてのことに親身にもなれない。しかし、傍観者でしかない僕は、この景色の違和感に何を感じ、どう言えばいいのだろうか。自分もダムの恩恵を受けながら、ダム湖に行くたびにそんな思いに襲われる。
 凛としたV7はGPZよりも小さいが、きちっとダムと対峙している。僕は、無益に流れるだけなのか。
 (当別ダムは2012年10月に完成した。ダム建設は、推進と反対の両方の意見が激しく対立し、公共事業の在り方を巡っても論争が長く続いた。)


当別ダムに立ち寄る前、当別町のコンビニにちらっと立ち寄った。
朝、家を出てから何も飲んでいなかったので、喉が渇いたからだ。
ついでに、タイヤの写真を撮っておいた。



約300kmほど走ったスポーツデーモン。こちらはフロント。中央の作製時の継ぎ目の耳もまだ残っているし、表面もアブレ―ジョンと言うほどのものは起きていない。まあ、馴らし運転で速度も低いし、ブレーキングも極ゆるいものしかしていないから、当然といえば当然だ。おとなしい走りで連続30kmほど走っただけでも停止後タイヤを触ると、けっこう熱が入っている。GPZ1100+MEZZLERZ6よりも発熱するタイプだ。温度を計っていないが、風呂よりは熱くなっているが触れないほどではないという感じ。これも本当に最初の時が一番熱が入り、(つまり、ズームさんから引き取って家に帰る時。)そのあと、走る度に徐々に熱の入り方が落ち着いてきたように感じる。タイヤのブリップ感は非常に良好。Z6のようにべたっと強力に貼りついて、「これはグリップするぞ!!」、と感じるようなものではなく、少しずつ接地面が動きつつも、「はい、ちゃんと支えますよ~」と言う感じだ。
馴らし中だから横Gをかけるようなコーナリングは一切していない。車体なりの曲がり方だけだが、エッジ付近まで(本当のエッジはまだためしていない)一定のグリップ感が維持され、信頼感が大きい。スポーツバイアスタイヤの世界ではとても高い評価を受けているスポーツデーモンだが、その片鱗は馴らしでも感じられた。舵角の付き方も自然で切れ込みは一切感じなかった。
 

 

 


 こちらはリヤ。センター部のひげは付け根を除いてほぼ取れたが、サイド部分にかけてはまだまだ残っている。熱の入り方もフロントと似ているが、エンジンパワーがかかる分、ごく最初の頃ははっきりとフロントよりも熱が入っていた。熱い!と感じるくらいだった。しかしこれも少しずつ落ち着き、この時には熱は入っているが、温かいと感じる程度になっていた。
 旋回時には緩やかにアクセルを開けて安定させているが、フルトラクションをかけた旋回はもちろん行っていない。速度域もごく低いものだから、やはり表面も落ち着いた表情だ。
 タイヤサイズはフロント100に対してリヤ130と、現在のラジアルタイヤを履いたバイクたちと比較すると、かなり狭い。昔の感覚では十分広いのだが…。そのため、接地断面の曲線も幅広ラジアルに比べれば半径が小さく、その分、直進から左右へ傾ける動作は軽い。GPZは広い接地面自体を横に移動しながら車体全体が豪快に倒れていく感じで、例えるなら起き上がりこぼしに乗って倒していく感じなのだが、V7のリーンは自転車の感覚に近い。(もちろんGPZと比べれば…の話である。自転車はもっと、別次元に軽いのは言うまでもない)





 

 タイヤは前後両輪ともエッジ近くまで接地しているが、この時点では車体はどこも接地していない。通常の乗り方ならばバンク角不足は感じることはないだろう。もっと旋回効率を上げていったときにどうなるかは、エンジンやサスペンションの馴らしも進行させながら、追ってレポートしたいと思う。





 
 当別ダムから上流へ。のんびりとV7を走らせていく。
 V7の取り扱い説明書には、馴らしの大切さは書いてあるが、何キロまで何回転とかいう記述はない。
 
 日本語に翻訳した別冊版ではこんなふうに書いている。
エンジンの慣らし運転は、エンジンの寿命を伸ばすことや、適切な作動を実現するために重要です。できればカーブや起伏の多い道を選んで走行すると、エンジン、ブレーキ、サスペンションの慣らし運転に最適です。慣らし運転中はさまざまな速度で走行してください。これにより、エンジンの各パーツに「負荷」を与えたり、逆に「無負荷」にして冷ましたりします。
【注意】
初めて乗車するとき、クラッチから少し焦げ臭いにおいがすることがあります。これは正常な現象で、クラッチディスクが締結するとすぐに消えます。
慣らし運転中にエンジンパーツに負荷をかけることは重要ですが、やり過ぎないでください。
【注意】
慣らし運転の後に整備をしないと、車両の性能を十分に発揮できません。
以下の注意事項を守ってください。
 ・慣らし運転中、またはその後でも、エンジンが低回転の時にはスロットルを急激に全開にしないでください。
・はじめの100kmはブレーキを慎重に操作し、急ブレーキあるいはブレーキをかけ続けないでください。これはブレーキディスクへのパッド摩擦材の調整を適切にするためです。
今日の慣らしツーリングに来るまで何回か、家の近くから往復30km程度の峠を二つ越える道を、穏やかに通行して徐々に慣らしを進めてきた。速度を変えるのは各ギヤになじみをつけるため。登りでは負荷状態を、下りでは無負荷状態を経験させつつ、サスやエンジン、タイヤなど、じっくりと馴染ませていく。
  300kmまでは自主的に3000rpmを上限とした。2000rpm以下では登りだと少々ぎくしゃく感がでるので、できるだけ2000rpm~3000rpmで走るようにした。振動も、2500rpm~3000rpmのあたりが、一番自然な感じに感じられた。
 100kmを越えたあたりから、既に馴らしの進行が感じられるようになった。エンジンのガザガザ感がやや薄まり、回転の上昇がスムーズになった。前述のようにタイヤの熱の入り方は落ちつき、ブレーキの感覚もしっとりしてきた。
 300kmを越え、回転上限を3500rpmとした。5速2000rpmで時速60km手前、3000rpmで約80km/hのV7では、3000rpmからの500rpmの上乗せは、結構な幅の広がりを見せてくれる。エンジンは3000rpmから上はさらに軽く回り、しかも、回りたがる傾向が見え始めた。モトグッチといえば、ハイウェイを弾丸のようにどこまでもぶっ飛んでいくイメージが僕にはあるが、このエンジン、低回転では穏やかではあるものの、ただの定速巡航用ではないみたいだ。開けるか、閉めるかを好む傾向を若干感じる。これは、バイクジャーナリストの試乗記を読み集めたりしたことを総合すると、同じV7でも「クラシック」ではもう少し落ち着いてツーリングペースでの豊かな味わいがあり、新しい「V7ストーン」と「V7スペシャル」では、少しではあるが硬質でスポーツの方向に振ったとのことらしい。どうやら、そのことがこれか。
 しかし僕はひそかに、もっと馴らしが進めば、ゆっくり定速も味があり、加速もいける、そういうバランスに到達するのではないかと、期待もしている。
 とにかく流していても乗っていて楽しいバイクなのである。(つづく)

2 件のコメント:

  1. 遅ればせながら、納車おめでとうございます。
    白赤のツートンといえば好みのせいか、ボンネヴィルを連想するのですがV7でもあるのですね。
    V7といえば昨年の根本健のデイトナレースの優勝を思い出します。

    空冷二気筒、しかも縦置きVツインにバイアスタイヤのハンドリング、軽快なようですね。興味が尽きません。
    僕も一次旋回のハンドリングの素晴らしさにボルティーに惚れた次第です。二次旋回まではなかなか馬力的に望めませんが…。
    実は前回のタイヤ交換前に僕もチューブレス化を検討したのですが、パワーとフレーム剛性を勘案してチューブのまま行くことにしました。
    バイク屋さんに相談したわけではないのですが、デメリットも大きいのですね。

    新たなブログ、楽しみにしています。
    例の件も、よろしくお願いします…^^

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  2. かねしんさん、こんにちは。ありがとうございます。

    V7はスリムで、ツインで、ドゥカティよりはちょっとのんびりしている感じです。

    1次旋回、2次旋回という言葉がこの5,6年で広まった感じですね。これは、大出力のリッターSSが高い剛性と凄まじいタイヤのグリップ力を生かして、ブレーキを残しながら入り口からクリッピングまで来て、くるっと回ると使いきれない圧倒的なパワーで立ち上がっていく…というパターンを取るようになると同時に、広がって行った用語のように思います。
    絶対的パワーの少ないマシンでも入り口から頂点までを1次旋回、頂点から出口までを2次旋回と呼ぶことはできますが、比較的アンダーパワーで軽量なマシンの場合(V7はどっちか微妙ですが)、1次、2次というよりも、全体をひとつの連続して変化していく過程ととらえてコーナリングをプロデュースする、しかも、出口のイメージを予め持ち、そこから逆算したパターンを、前から描いていく…そんな走りのイメージの組み立ての方が、楽しめる感じがします。

    ライトウェイトには、重量級にできない技があり、独自のパターンがあり、厳密には車種ごとにそれは違うし、さらに言えば個体ごとに違う。自分の愛車の特性に一番マッチした乗り方、しかもバイクはライダーの体格や技量によってもコーナリング特性が変わりますから、それを探していくのが、ライディングの楽しみの一つだと思います。

    私もまだまだV7の特性を探っている状況です。

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