2013年6月15日

新しい緑、薫る風(4)


 新見温泉まで下ってきたら、さっきの快適交通量皆無の道を、もう一度パノラマラインの下の方に合流するところまで帰る。
 行きは誰もいなかったが、帰りは何台かの車と、山菜取りに歩いている人に会った。
 パノラマラインを離れ、ニセコの街の方向へ。
 スキー場、温泉、観光施設が点在する山麓の道。ここは既に交通量も多い。片側1車線、観光の車や、時々バス。車列に従い、一台も追い抜かずに走る。


 
 
 バイクをネタにブログなんかやってると、特にライテク記事なんかを一生懸命書いていると(前のブログがそういうブログだったんです。)、きっと速いんでしょうとか、飛ばすんでしょうとか、そういうふうに思われてしまう場合もあるのだが、僕の平均走行ペースは、かなり遅いのだ。
 どれくらい遅いかと言うと、ツーリングに出かけて、車を一台も追い抜かずに帰ってくることがしょっちゅうある。一度、中山峠でGPZ1100で、バイクを2台積んだ軽トラックに抜かれたことがある。
 200km/h以上の長時間巡航も現実的に十分こなせるGPZ1100はある意味では宝の持ち腐れでもあったのだ。ごくたま~に、誰もいない道の誰もいない時間帯を狙って、飛ばしに行くこともあったが、その時の速さだって、まあ、たかが知れたものである。
 たぶん、一般的に初心者を名乗る女性ライダーよりも、僕のツーリングペースでの走行ペースは遅いと思う。

 どうしてかと言うと、一つには違反切符が怖いという、情けない事情もある。本当はこれが、速度の遅い理由の大部分を占めているのだ。ああ、情けない。

 もうひとつは、ツーリング中に出会う風景を眺めたいからでもある。
 ドライブ、ツーリングの楽しみの一つとして、美しい風景との出会いがあると思う。正しくは風景は安全なところに停まってゆっくり眺めるべきである。しかし、走りながら、眺める風景、その風景の中を走っているという実感の中で眺める風景も、これはツーイリングならではで、捨てがたい。もちろんよそ見運転になってはいけない。そうなるところでは停まって眺めた方がいい。そうなるまで行かないが、風景を全身で感じながら流す、その気持ちよさは、格別だ。
 僕の場合、田舎道を繋いで走ることが多いことと、雄大な風景のみならず、小さな田舎の川の流れや、狭い里の風景なんかも大好きだから、そういう場所を走るときには、必然的に走行ペースはかなり遅くなる。
 

 それから、飛ばす走りはそれ自体が非常に楽しい走りではあるが、本当に走りに集中しきる速さで走ると、長時間は集中力が続かない。僕の場合、基本的にだらだら男なので、ダレてくると、本来高度に集中すべき速度を惰性で出してしまうことにもなりかねない。それが怖い、ということもある。
 
 だから、風景を眺めるツーリングのときは、幹線道でも最初から車を縫って飛ばしたりはしない。おとなしく走っていることの方が圧倒的に多いのだ。

 
 たぶん、一般的なバイク乗りの人は、僕と一緒に走ると遅くてイライラすると思う。

 おおっと、またまた脱線しましたな。
 そうしてニセコの山麓道を走っていると、ちょっと思い出したところがあり、また寄り道をした。
 


 ほんの短いダートの道。
 畑の向こうに羊蹄山が見える。
 喜茂別側から見るのとは少し違った表情。
 こちらの表情の方がやさしく、女性的に見える。
 羊蹄山の名前は、元々は当然アイヌ語だった。エベレストがチョモランマだったように。その名は、これもエベレストのように、山を見上げる場所によって違うのだが、「マチネシリ」とも呼ばれていた。日本語に訳すと「女山」。近くの尻別岳がピンネシリ(=男山)と呼ばれるのと対をなしている。

とても美しい山だと思う。




 この羊蹄山は1998m。コニーデ型の火山で、現在は活動していない。山に降る雨は石灰質の地下を通り、麓から泉として噴き出す。その水は名水と呼ばれ、非常においしく、札幌の喫茶店で、この名水を汲みに来てその水でコーヒーを淹れる店もあるほどだ。(ちなみに札幌の水道水もおいしいことで知られている。)
 上の写真は、ニセコ町が最近名勝として町も推しているようで、2013年6月15日現在、ニセコ町のHP、TOPページの写真にも使われている。

(ニセコ町HPの写真より借用。桜の満開の頃)
写真愛好家や、僕のような観光客には人気のスポットだ。
 周囲は個人所有の畑。決して畑に入らないように、注意が必要だ。



 ゆきかぜも一緒に、一枚、記念撮影を。
 さあ、もう時刻は11時半前。 早く帰ろう。

 
 
 それから、羊蹄山の今度は南の山麓を回った。
 少し肩が凝って、頭痛が始まってきている。

 僕はかなりの肩凝り、頭痛持ちで、一度、あまりの痛さに脳溢血かと勘違いして夜間救急へ駆け込み、いろいろ検査した結果、肩凝りだったという、申し訳ない騒ぎを起こしたこともある。(ああ!恥ずかしい。)ここのところ、仕事が詰み、嫌いなコンピュータの前に座っての仕事や、連続する寝不足、運動不足、強いストレスなどにさらされてきたから、このコンデジションは予想できた。まして昨日の就寝時刻は1時。もともと体の弱い僕、特に最近の僕には、きつい状況だった。
 だから、この肩凝りをV7のポジションのせいにすることはできないと思う。
 むしろ、初期のGPZ1100の1時間も連続で走れなかったポジションの合わなさ(のちにハンドル変更で解決)に比べれば、相当にいい感じである。

 V7のライディングポジションは、前めで高い位置にあるステップ。幅広で絞りのやや少ないハンドルバーなどから、ごくゆるい前傾(ほぼ直立)のネイキッドポジションでありながら、日本車のものとは少し異なる。普通のオンロードバイクと、モタードバイクの中間的なポジションだと言える。

 
 例えばCB1100みたいに、もう少し安楽なというか、手前にというか、自然なポジションにできなかったのか、と思っていたのだが、今日、ちょっとだけ飛ばしてみて、少しわかった気がした。
 コーナーでペースを上げていったとき、基本的にリヤ乗りしなければならないのだが、さらに体をイン側に落として旋回力を増し、上体を低くしていこうとすると、この位置よりハンドルが手前に来ていると、ハンドルバーが邪魔になるのだ。幅の広さも、荷重が軽くなるフロントまわりにあえて荷重をかけつつ、振られを抑え込むには、この幅がいい。
 実際、今まで僕が乗ってきた数少ないバイク歴(DT50⇒GPz400F-Ⅱ⇒ZZR400⇒SRV250⇒GPZ1100)の中で、一番ゆきかぜにハンドリングが似ているのは、DT50なのだ。SRVとも違うのが印象的だった。

 なんだか変な感じのポジションは、実はV7で飛ばした時に都合がいいように作られていたのだ。
アップライトでゆっくり走るミドルネイキッドの文法でいながら、ぶっ飛ばす走りを捨てていないどころか、かなり本気でそこに行っているところが、イタリアンということなのだろうか。
 楽しんで作ってやがるな。
 ゆきかぜに乗ると、これを作った人たちの、楽しんでいる様子が浮かぶように感じられる。(もちろん、僕の自分勝手な思い込みです。)

 さてさて、肩も凝ってきたので、留寿都の道の駅でアスパラを買う前に、真狩の道の駅に寄り道をした。
 そこでトイレ休憩をして、肩をほぐす。
 トイレに入ったら鏡があった。自分の姿をパチリ。
 
 ジャケットはクシタニのプレセプトジャケット。綿中心のジャケットだ。 背中、肩、肘にプロテクターが入っている。
 ズボンはマクレガーのジーパン。ジーパンの下にラフ&ロードのニーシンガードを装着。
 
 足元はクシタニの18年前のレーシングブーツ。ジーパンの裾を外に出している。
 ジャケットの下は普通のボタンダウン、その下はクールマックスのTシャツ。首には『アウトライダー』誌のおまけの…なんて名前だっけ?かなり伸縮性のある筒状の布を巻いて、首を冷やさないようにしている。真夏でも、僕は首を冷やすとすぐ肩凝りに直結してしまうので、よほどのことがない限り、首回りは冷やさないように何かしら巻きつけている。
 安全性は重視したいが、できればあまり突出した格好はしたくない…などという、わがままな僕。
 クシタニの革製ジーンズ、カントリージーンズが欲しいところだ。

 休憩が済んだら、またのんびりと走り出す。真狩から留寿都の道の駅までは10数キロ。のどかな田園地帯をゆったりと道が行く。制限速度で、後ろからくる車に左端に寄って道を譲りながら、ゆっくり走った。

 留寿都の道の駅ではアスパラを購入した。近くの農家が直接納入するこの道の駅の野菜は、とにかく安くておいしい。信じられないくらい、おいしい。
 これはニセコの道の駅も同じで、ニセコの道の駅はそれが有名になり、いつ行っても駐車場は満杯で多くの人で賑わっている。あまりに混んでいるので、僕はパスすることが多い。7、8年くらい前まではよく寄っていたのだが。留寿都の道の駅も賑わっているが、駐車場がニセコのものより広く、全体にゆったり作られているので、僕は立ち寄りやすい。

 
 ついでに300円でミニラーメンを食べた。
 なかなかおいしかった。



 さあ、V7ゆきかぜのナラシツーリングも、もう終わりだ。
 喜茂別から国道230号線で中山峠を越え、定山渓を経由して札幌市街へと帰っていく。
 途中、中山の下りで眠気に襲われた。連日の寝不足で疲れているところにさっき食べたラーメンが作用しているに違いない。(違うかもしれないけど)
 こんな時は停まるに限る。急な睡魔は本当に危険なのだ。まずいと思ったら信号ストップ。定山渓温泉郷である。信号待ちの間に伸びをし、肩を振り、上体を左右にひねってカツを入れる。
 定山渓を過ぎてあとちょっとで帰るというところでも、やはり眠気を感じた。
 絶対に無理はいけない。眠気だけは気合では克服できない。すぐに停車して、最後の休憩に入った。

 
 八剣山を望む、道の傍。自動販売機で缶コーヒーを買い、大きな看板の日陰でゆっくり飲んだ。
 ウェアを緩めて風を入れ、ブーツも脱いで一度リセットする。
 自宅まではあと40分だけれど、ここで惰性運転は絶対にしない。僕の場合、それは非常にあぶないからだ。

 今、缶コーヒーを飲んでいる僕と、ゆきかぜとの間の距離は、だいたい20mくらい。
 僕らの実際の距離も、今日はこれくらいか。
 距離計とみると、870kmくらいだ。自宅まで約20km。今日の走行距離は300km強。
 ゆきかぜの馴らし第2段階も中間くらいまで来た。

  前後タイヤの表情を確認しておこう。


フロントのアブレ―ジョン。
ピレリスポーツデーモンは新品時、タイヤ製造時にできるヒケが全周全面についているが、中央部分はやっと全て取れた感じ。
中間、エッジ近くのヒゲはまだまだ残っている。
 バンクしてのブレーキングはしていないので、中間~エッジ付近の表面の荒れは、旋回Gによるものだ。
 870kmでこの減り方なら、何度も言うがライフは長そうだ。

 また、中速コーナーでナラシの範囲内での少し攻めた走りをしたところであるが、この表情はそんなにオイリーでなく、しかも乾きすぎている感じもなく、いいバランスだと思う。グリップ感は豊穣で、バンク特性も変曲点を持たず、普通で信頼できる。
 さすが名作と言われるスポーツデーモン。
 タイヤがいたずらに自己主張をせず、縁の下の力持ちとしてライダーとバイクを高い信頼感と優れたグリップで支えている。













こちらはリアタイヤ。
 低回転とはいえ、今日はトラクション旋回もかなりしたので、アブレ―ジョンはこの写真では溝に区切られたブロックごとに、下の角が削れて上の角が残る、そういう感じになっている。
 これはある程度はタイヤの宿命である。
 これが進行すると段減りとなって接地感がゴトゴトしてくるのだが、「空気圧を高めにキープすることで段減りの進行を遅らせることができる」とはゆきかぜを購入したバイクショップ、「ズーム」さんの言葉だ。
 今のところ、接地のスムーズな感じは失われていない。
 フロントよりも乾いた感じだが、しかしカサカサではなく必要な粘り気はしっかり与えられ、保たれていることが写真かからもわかる。
 フロント同様、バンク角が増して行ってもグリップ感に変化はなく、非常に信頼できる。
 このブロックが少し動いて(たわんで)路面をつかんでいる感触を感じるが、そう感じることが起こっている現象を正しく把握していることになっているかはわからない。
 ただ、この「動く感覚」は慣れると疲れないし、不安でなく、かえって安心感につながるのが面白い。
 直進付近のリーンが軽いのは、前後タイヤの素直なラウンド形状と幅の狭さ(F100、R130)に寄るのだろう。むろん、エンジン縦置きツインのスリムさが前提にあることは間違いないが。

 ナラシ後半はさらに中回転域、高回転域を使いながら徐々に全開をくれていくので、その時タイヤがどういう表情を見せてくれるか、今から楽しみである。

 もちろん安全が最優先するから、無茶はしないので、これ以上の大きな変化は見られないかもしれないが、それは、やってみなければわからないところだ。




 この日、約310kmを走って、前回給油からの走行距離は381.5km。
 14.78lのハイオクガソリンを給油して、区間燃費は25,8km/lだった。
 前回の給油から325km走行の時点で燃料残量警告のインジケーターが点灯した。
 ゆきかぜの燃料タンク容量は公称22l。単純計算だとこのペースなら一回の満タンで500km以上走れることになるが、現実には精神的に無理だろう。
 しかし、満タンにしておけば400km程度の日帰りツーリングなら給油の心配をしなくていいようだ。これは助かる。もちろん、開け方や走る道などで燃費は大幅に変化するから、油断はできないが、予想通り、「足の長い」バイクのようである。

 ゆきかぜ、1000kmを越えたら、ナラシ2段階も後半に入っていく。
 今度はどんな顔を僕に見せてくれるだろうか。

 焦らずに、少しずつ、君を知って行きたい。君に近づいていきたいよ。ゆきかぜ。
(『新しい緑、薫る風』 完)

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