2016年1月24日

梨本圭選手の戒言から

月刊誌『Motorcyclist』2016年2月号の特集は「リターンライダー」。その特集の中の記事、「『リターンしてから』を決定づける定着するバイク、しにくいバイクその違い」の中で梨本圭選手は、次のように述べている。

 実はリターンライダーにとって本来アドバンテージであるはずの「経験則」がデメリットとなっていることが多い。「あのころ」の自分をベースにして物事を判断するほど危険なことはない。40代ともなれば日々肉体は退化し、しかしマシンは進化し続けている。あれほど速いと言われたNSR250Rでさえ、せいぜい実測60馬力足らず。しかし昨今のSSは200馬力が当たり前。あなたが今従事している仕事に置き換えて考えてみれば答は明らかだろう。10代、20代のころの自分が、今接している物事を果たして正しく判別し、こなしていくことができたろうか。これはバイク選びもまったく同じで、オンタイムではない経験など、早く捨ててしまったほうが効果的に先に進めることも多い。(45頁)

僕自身は22歳からバイクに乗り始めて、途中、バイク事故(単独転倒事故)や、子育てのために年間の走行距離が1000km程度の年も何年かあったが、なんとか走り続けてきてはいる。
しかし、ワインディングを飛ばすことに関しては、かなりのブランクがあり、「あのころ」のイメージが体に残っているくせに、現実はそうは動かなくなっているという点はたしかにある。
しかも、走り続けてきたという思いが、そのギャップを自覚させなくしている。
これは、非常に危険だと思った。

それは、今回話題にしている弾丸ツーリングでも一緒だ。
昔の経験は、昔のマシンと昔の体力、昔の道路状況と交通文化によって可能となっていたのに、その変化を見ずに、今もう一度できると踏むと、悲惨なことになる。

ワインディングでは転倒と事故として、
弾丸ツーリングでは良くて予定通りツーリングを運べない事態として、悪ければ疲労による事故として、しっぺ返しを食う。
しかも、公道でのバイクの場合、多くの場合、自分が痛い目を見るだけでは済まない。

リアルであること。
今・現在の現実に根ざしてライディングすること。

若い頃、僕がバイクで生き残るために学んだ根幹の方法論は、それだった。
現実を正しく理解し、それがどんな状況であろうと、その現実に根ざして今行うことを決める。

その覚悟をしっかり決めていること、それを自分がライダーであることの最低ラインとして課していたのだった。

22才だった僕も50代の半ばになった。
特に去年は自分の身体の老化の進行を思い知らされた年だった。
そして、心もまた、若さを失って来ていることを悔しさとともに、自覚せざるを得ない年だった。

なのに、プライドだけは残っている。
たぶん、ワインディングでは、昔の、いちばん攻めて走っていた時のあの感覚、あの手ざわりを基準に考えてしまっている。

あぶない。

今は、そんな状態では動けない。
自分のイメージが、自分の今のリアルな身体と一致していないのは、命取りになる。

一番いいのは、毎日走って、ワインディングでも、安全を確認、周囲に迷惑を掛けないようにして、自分のリミットラインを確認するように、日々練習しておくことだろう。
でもこれは毎日はもう、今の僕の暮らしでは不可能だ。

実際に走っていて、限界の遥か下と思っている、マージンを大量に残していると感じ、また車体からもそのサインが潤沢に伝わってくる状態でも、それがライダーとしての現在の自分の「限界」(=リミット)に対してどれくらいのマージンなのかをイメージできなければ、とっさに何かあった時には対処できない。

その「リアルなイメージ」は、地道にバイクの上で、各操作をフィードバックし、身体にしっかり刻み付けなければ維持できない。
人は記憶を自分の望むように書き換えてしまうからだ。
これはわざとではなくても、そうしたことは起こってしまう。

だから、現実で上書き、更新し続けなくてはならない。

自分にできることが少なくなっても、今のマシンはライダーをサポートして、かつてよりもずっと速く「安全に」走ることを可能にしてしまう。(僕のV7はそうでもないかも。ABSもTCもついてないからね。)
しかし、それで自分の昔のイメージと今・現在の自分の状態を重ねるのは危険なのだ。

安全のため、走りに「実感」を持つため、
現実をリアルに把握すること。

それが、今年の僕の走りの目標になりそうだ。
もう1月も終わり近いのに今さらという感もあるが、シーズンインまでは3か月くらいある。
それまで、もう少し、思索の日々が続くのだ。

6 件のコメント:

  1. 若い時とは体力が相当ダウンしているので
    休息が必要ですよね。精神的にはまだまだ大丈夫なんですが・・
    体と心がシンクロしない時は無理は禁物なので直ぐ休みましょう。
    もう若く無いし、無理してもたかが知れてますよね(笑)
    乗せられてしまうバイクは心して乗らんとね~危ないです!

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    1. いちさん、こんにちは。
      いちさんお元気ですね!昨年もよく走られてますし。
      私は体もですが、仕事で疲れ果てて精神までやられてしまうのが、
      かなりきついです。
      無理せず。休憩取って、楽しく走りたいと思います。

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  2. takaです
    こんにちは。
    私もリターン組ですので、良く理解出来る話です。
    私の場合、原2からリターンをスタートしたので、SR400で、満足しています。
    原2に乗っていないと、確実に大型からのリターンになっていたと(^_^;)
    SRを選ぶ時、限定解除したプライドが邪魔をしましたが、プライドに打ち勝ってSRを楽しめてます。
    今ではSRを手離せないです(笑)
    それでも、ワインディングになると、つい楽しんでしまいます。
    なので、ステップ、ブレーキはカスタムせずに、自分へのブレーキ(警告)にしています。

    このテーマは、仲間内でも話すことがあります。
    身の丈のバイクが良いか、乗りたいバイクに乗るのが良いかってね。

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    1. takaさん、こんにちは。
      リターンに原二からというのは、もしかして理想的かもしれませんね。
      SRは、その味わいや存在感だけでなく、ハンドリングにおいても昨今再評価されていますね。
      SRをきれいに乗るって、すごくかっこいいと思います。
      身の丈か、弩級かというのは楽しくも難しい選択。
      よく分かったうえで弩級を選ぶというのもありだと思いますし。
      僕はV7と、しばらく走ります。
      本当になじむには、もう少しかかりそうですが、徐々に間隔が詰まってくる感じも楽しいです。

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  3. こんにちは。梨本圭さんを調べててこちらに行きつきました。ブログの内容、全くもってその通りだと感じ入りました。私もバイクに乗って30年のアラフィフですが、日々体力の衰えを痛感しております。それなのにバイクに乗るとしばしばそのことを忘れそうになる。無事これ名馬を肝に銘じこれからもバイクライフを楽しみたいと思います。

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    1. 匿名さん、こんにちは。ご訪問、そしてコメントありがとうございます。
      お返事が遅れて申し訳ありません。
      「無事これ名馬」は本当にそうですね。
      今年は2022年。この記事を書いてからもう6年が過ぎ、私自身、還暦となりました。さらに身体の衰え、変化を感じています。
      同時にライディングも変わってきました。
      だんだん、教習所乗りに近くなってきています。飛ばすことも殆どなくなりました。
      それでも、モーターサイクルに乗って走ることの本質は、なんら変わらないと思います。
      バイクで死なない、バイクで人を殺さない。
      を胸に、走っていきたいと思います。
      匿名さん、よろしければまたおいでください。
      お待ちしております。

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