「村の駅あかいがわ」(4月15日に道の駅の認可が下り、4月24日現在、既に「道の駅あかいがわ」として営業している。)の駐車場に見つけた、黒いマシン。
ジレラ、サトゥルノ!
ジレラは1909年にイタリアに生まれたメーカー。
スーパーチャージャー付きのレーシングマシーンなどを開発、レースで活躍していたジレラが、鬼才、ジョゼッペ・サルマッジを開発責任者にベルギーから招いて作り上げた500cc単気筒スポーツマシンが、「初代」ジレラ、サトゥルノ。
そして、1989年、1980年代後半、ヤマハSRXが火をつけたシングルスポーツブームに、ジレラが日本人デザイナー萩原直起が車体を設計、自社の500ccエンジンを搭載し、登場したのが、2代目、ジレラ、サトゥルノ。
これは新しい方のマシン。
新旧ともに名車の誉れ高いマシンだ。
1990年代の頭に数回広島で見かけたことがあるが、21世紀に入ってからは初めてみた。
すごいな、と思いつつ、しかしオーナーもいないところであまり近づいてじろじろみるのも失礼なので、一枚だけ写真を撮らせてもらって、(それが上の写真)、ゆきかぜのところへ戻ってみじたくをしていると、
ライディングウェアに身を包んだ身長180センチほどの背の高いライダーがサトゥルノのもとへ。
ああ、あの方が持ち主なのか、と思っていると、なんとその方がこちらへやってくる。
「こんにちは」
「こんにちは」
と、ライダー同士、半分照れくさく、半分ぎこちない挨拶を交わすと、続けてその方が
「ST4です。」と。
いや、サトゥルノでしょう、と、一瞬だけ頭の中で突っ込みを入れた…というのは嘘で、すぐに当ブログにコメントを下さるST4さんだと分かった。
「あ、樹生です。」
と僕もぎこちない挨拶を改め、握手なんかしたりしたのだった。
その後、2~30分くらいお話ししたのだが、きっかけを覚えていない。たぶん僕が「サトゥルノですよね」とか言って、見せてもらいに行ったのだろう。
今考えてみれば、随分と厚かましくて自分勝手な行動だったかもしれない。しかし、なんせそこを覚えていないのだ。ジレラに興奮していたのだった。ああ、恥ずかしい。
真っ黒なジレラ。とても美しい。
オ―ナーのST4さんが、手塩にかけてきれいにし、車体もセットアップを進めている。
単気筒500ccは初代と同じ排気量。日本では350cc版も発売されている。これも名車だが、ライダースクラブ誌はインプレッションの中で本来の魅力は500ccの方が担っているとしている。
振動がすごく、カウルにヒビが入るため、その防止にと、タンクから立ち上がってミラーの裏側を結ぶアルミパイプをクランプするステーは、なんとST4さんオリジナルだ。
黒塗装も塗り直したもので、深い艶があり、ただ単に黒いのではなく、その中にあらゆる色を含みこんでいるような、そんな黒色だ。
サイドスタンドでハンドルを左に切って。
ハンドル切れ角はV7に比べるととても小さい。
これはUターンを決めるにも車体を倒さねばならず、しかもある「最適速度」まで出し、それを超えないようにしなければ難しく、相当に街中ではスパルタンだ。
単気筒でもマフラーは2本だし。このスクランブラ―のように跳ね上がった排気管の取り回しがなんともイカしている。
この写真からの印象だと、前輪のキャスターは結構立っている感じだ。
軽量でホイールベースも短く、ハンドリングはかなりクイックなのではないだろうか。
飛ばしてバランスする、相当に硬派なマシンだと思う。
エンジンは3000rpm以下は使えないとのこと。やはりそうだ。
ストリートでの走りに徹した単能特化型マシン。
かなりの前傾ポジション。ST4さんによると、ある程度の速度に載せた時に風圧とバランスして快適になるが、一般道で車列の後に続くときなどは、長時間だと苦痛を感じるポジションだそうだ。
ハンドルグリップのゴムにもジレラのロゴ。フレームも美しい黒だ。
タンクのジレラロゴマークが泣かせる。
このタンクの黒もST4さんによって黒に塗り直されている。アスファルトの小石まで鮮明に映っている、非常に滑らかな仕上がりだ。
バッテリーや配線もオーナーのST4さんが載せ替え、やり替えている。
こうして手を掛け、改善していくことで、工業製品からその人だけの相棒マシーンへと変貌していく。
ヘルメットを左に切った前輪の足元に置くのは、ここが一番人に蹴られにくいからだ。
これはたしか神奈川県警の女性白バイ隊員さんがやっていたことだったと思う。
まあ、持ち歩けば一番いいのだが、置きたくなることも多いものだ。
地面に置くことは、僕ら50代の人間が若い頃までは、頭を守るものを地べたに置くな、と言われもしたものだが、そこは各自の流儀でいいと思う。
ただ、地べたに置くメリットとしては、「そこからは落ちない」というのがある。
デメリットとしては置く場所によってはアリなどの虫が入り込むこともあるので注意だ。
フレームワークはスチール管トレリスと、リヤスイングアームとエンジンをホールドするアルミパネルのものをボルト止めするという、最新のビモータ等と同じ構成だ。
さすが萩原氏。
そしてアルミのフレームよりもスイングアームの方が外側を通るという、この独特の構成。
車体の全体としてのねじれ剛性をしなやかにするように考えれているのだと思われる。
200km/h超での剛性よりも、ワインディングで飛ばした時のバランスを最優先。
リヤのアクスルシャフトとスイングアームをつなぐ部分は偏心(エキセントリック)アジャスター。
かっこいい。
よこから見た姿も美しい。
エンジンはドライサンプ。
それからそれから…。
語り尽くせない魅力にあふれたマシーンだ。
ST4さんのサトゥルノを眺めながらあれこれ話していると、通りすがりの男性が話しかけてきた。
「きれいなバイクですね。」
「本当にそうですね。」僕が返す。
「シンプルで、美しい。潔いというか。」
「走るという目的に徹して作られていて、余計なものがないですよね。」
「ごてごてしてない。」
普通の格好の紳士だったが、今日は車だが、家にバイクを忍ばせているか、または昔、相当に走った人か、どちらかではないだろうか。
ジレラ・サトゥルノを囲んで、バイク馬鹿の楽しい会話は続くのだった。
さて、僕はそろそろ帰る。
ST4さんは国道を倶知安方向から来て、毛無峠を越えていくとのこと、僕は僕で、毛無峠を越えてもう自宅へ向かう。
「では、お気をつけて」
僕が先に出た。
しばらく行くと橋の上から小樽川の流れが望めるところがあった。
一昨年まではここは細い古い橋が架かっていて幅も1車線しかなく、それはそれで僕の好きな端だったのだが、去年には完全に新しい橋に架け代わり、カーブもゆるく、幅も広くなった。
橋の上で止まるのはあまりよくないのだが、状況から危険性はないと判断。ポケットからカメラを取り出して写真を撮った。
すると、車が1台。その後ろにサトゥルノのST4さんが走って、小樽方向へ駆けて行った。
僕も再出発し、しばらく行くとST4さんに追い付く。
道の左端をややゆっくり流すST4さん。
これは先にどうぞのサインだな、と勝手に解釈し、挨拶して右側から追い抜いていく。
しかし、僕も今日は(も)そんなに飛ばすつもりはないし、そもそもこの先はよくレーダーパトとか、ネズミ取りとかで速度取締をしているところだ。
追い抜いたはいいが、そのあと徐行するという、なんとも間抜けなことになってしまった。
あやややや、かっこわる。
まあ、そういうとほほな部分もバイク乗りの楽しみのひとつなのさ、と、変にとほほ愛を自分でかみしめたりして、毛無峠を走った。
比較的空いていたが、そんなに飛ばすこともなく。途中で車の車列に追い付いたので、車間をかなり広めにとって、カーブでのメリハリを車とは違うように、自分で作れるように調整しながら走った。
毛無峠を下ったところで、僕は札幌方面へ、ST4さんは道道1号線を朝里峠の方向へ曲がって。
手を振って別れた。
本当に速い人というのは、走りも上品だが、一方で速い遅い、上手い下手とは全く別に、走りが上品な人と下品な人がいる。
…なんて偉そうに言うほど自分が立派なわけでもないが、走りを見ると、時々、うわあ、これは下品だなあ…、と思うこともあるし、なんて上品に走るんだろう、と思うこともある。
ほんのちょっと後ろを走り、その後はやはり僕からの車間をかなり広くとった(いきなりの初対面で、申し合わせもなく、いきなりランデブーでしかも後ろにピッタリ…というのを遠慮なさったのだと思う。)ST4さんの走りをミラー越しに時々ちらちらと見ただけだから、全然分かってないのかもしれないが、ST4さん、とても上品な走りをなさる方だなあ…と感じた。
驕ったところがない。
やたら人に見せびらかして悦に入ったり、優越感に浸ろうとするところがない。
(僕には両方ある^^;)。
そしてジレラサトゥルノ、やはりハンドリングはクイックにして頑固。(に見えた)
ST4さん自身、入力を正しくすればそれにこたえてくれ、間違うと気持ちよくない、楽しいマシンとおっしゃっていた。
ST4さんはサトゥルノの他にもバイクを所有なさっているが、どれもそうした傾向のある、単気筒ないし2気筒のマシンなのだそうだ。
潔いハンドリングマシン。
ツーリングもできるが、マシンとの対話を、山々のワインディングを駆けながら存分に味わうマシン。
そんな感じだ。
僕のV7スペシャルはもう少し「ゆるい」。
基本的にはブレヴァ750以来のシティ・コミューター的万能マシンだ。
一台で通勤・買い物からツーリング、ワインディングの走りまで楽しんでしまおうという
どこにもとんがっていない日常バランスマシン。
どれもすごくない。どれもふつう。
でも、楽しい。ぱっと跨って、さっと走りだせる。
Uターン苦手なら(僕です…)、さっさと降りて押してUターンしてしまう。取り回しが軽くてハンドル切れ角が日本車並みにあるV7なら、気軽にそれができる。
でもって、ワインディングでは、走り手によってはその潜在能力を引き出して、相当に走ることも可能。
1台だけ所有し、長く乗る。
それが今までの僕のバイクライフのスタイルだ。
別に主義があるわけじゃない。ないのはお金なのだ。
だから、このバランスは、長く乗るのに僕にはいい。
やっと3シーズン目に突入。
まだまだ君のことが分かっていない僕だけれど、
今年もいっぱい走って、君の走り方を理解していきたいと思ってる。
12:45 自宅 |
同刻 同所 |
もうすぐオイル交換。そしてタイヤ交換だ。
途中で雨に打たれ、塩化カルシウムの白い粉が撒かれた跡のある路面を走ったので、
エンジンを冷ましてから軽く洗車した。
首の痛みは最後まで大丈夫だった。
ただ、頸から左腕に確かに違和感はある。
無理はできない。僕はできるだけ長く、バイクで走り続けたい。
リハビリを続けながら、我慢強くやっていこう。
それにしても、久しぶりの心地よい疲労感。
走った後の高揚感、幸福感。
ST4さんと出会えたのも、とてもラッキーでハッピーな出来事だった。
やっぱりバイクが好きだ。
そう思った日曜日だった。
(赤井川早春 完)
takaです。
返信削除こんばんは。
ジレラ サトゥルノですか。
珍しいバイクですね。
私、大好きです。
今のバイク界で、忘れられているジャンルですね。
パワー、電子制御の固まりが騒がれる昨今ですが、シンプルなバイクが少なくなりましたね。
好みは人それぞれなんですけど、上記のようなバイクを好まないライダーって、サトゥルノの様なバイクが好きな方がいると思うんです。
国産であれば、グース、SRX、SDRが近いのかな?
シンプルで軽く、スリムなバイクって、それなりの走りをするにはコーナー進入スピードや、コーナリングスピード、それらを生かすライン取りといった技量が必要だと思います。
要するに、パワーで「ごまかせない」んですよね。
その難しさが、面白さでもあるんですよねぇ。
バイクメーカーも商売を考えると難しいとは思いますけど、バイクが大人の趣味として熟されたときに、ライトウエイトスポーツが復活し欲しいですね。
考え方にもよりますが、エコなスポーツだとも思うんですけど(^_^;)
どう、思われますか?
takaさん、こんにちは。
削除「素のバイク」その潔さに美しさと魅力を感じる人は、数は少なくとも、必ずいると思います。
バイクの少し危険なまでの魅力って、そういう研ぎ澄まされた部分に大きくあるような気がします。
僕はと言えば、
選んできたのがDT50→GPz400FⅡ→ZZR400→SRV250→GPZ1100、そしてV7と、
どれも中庸的なモデル、最先端でもなく、とんがってもいない、そんなところを結果的には選んでます。
自分の身の丈と、憧れとの妥協点は、人により違う(経済的な面も無視できませんし)のですが、
僕はかなり日常的な部分に振ったところで選んでいるような気がします。
基本、田舎の集落内を通るときに、あまりにも気兼ねをするバイクは選べない…というところ、
これはどんなツーリングをするか、というところと関係していると思います。
しかし、ライトウェイトスポーツ。
素の魅力いっぱいのものが、もっと「来て」ほしいなと思いますし、
今250ccでそういう動きがありますが、400~700くらいでも来てほしい気がします。
樹生様、こんにちは。
返信削除ST4と申します。
サトゥルノの事、記事にして頂き、有難うございます。
とても嬉しいです。
写真も自分が取るのとは違いサトゥルノらしさといえばよいのか、
乗り手贔屓ではなく俯瞰でバイクの雰囲気を感じます。視点が違うのでしょうか。
あの短時間でこんなに分析できるものなのですね。
ハンドリングは仰る通りで、クイックと思います。
慣れない頃は体の切り返しより先に内腿にパタッと当たる事がありました。
本来お尻をオフセットして乗らなくても良い感じはあるのですが、
寝すぎないように速度により調整して乗ってます。
V7は自分の印象は相当に難しそうなバイクと感じました。
人辺りは良いけど実は…、という印象です。
縦軸の特性による曲がり方、基本に忠実な入力による曲がり方等々選択肢があるなかで
曲がり方を決めなければいけないバイク。
でも決めなくても、そこそこ曲がれてしまう、自分のような初心者では、
乗る事は出来るけれど、乗れるまでは時間のかかるバイク。
いつかライディングが上達した時に選びたくなるようなバイクだと思いました。
今の自分ではV7であの2次旋回の脱出速度は引出せない。
人が乗って疾走している姿、時折、太陽光でキラッっとしながらコーナーのブラインドに
気持ちよさそうに消えていく様は「う~ん、綺麗だし楽しそうなだなぁ」と、
あれで軽めのダートにも入っていけるのだから(樹生さんのような熟練なら)、
とても魅力的です。
ST4さん、こんにちは。
削除もう先週ですね。早いです。お世話になりました。
もっと真横から全身とか撮りたかったのですが、駐車してる車が近くて距離が取れませんでした。
V7は、普通に乗る分には、シャフトのくせも動いてしまえば感じることもなく、乾式クラッチも半クラも慣れれば難しくなく、とても乗りやすいバイクだと思います。初心者でも、気軽に乗れると思います。
自転車くらいの低速走行も穏やかにこなしますし、軽いですし。
また、ハンドリングはクイックでなく、ライダーが倒して行くタイプ。曲がる方を見ただけでそっちへ行けるみたいな、そんな感じではありません。
突っ込みで無理しないかぎり、楽しく開けていけるマシンです。
だから、結構幅広い人におすすめできると思います。
難しさというのは、その普通の領域を越えて能力を引き出すように攻め始めると出てくると思います。
でも、バイアスタイヤは何となく滑りが来そうな時とか、いきなり来るのではなくわかりやすいですし、
無理しないで、寄り添うように乗るのに「慣れ」を要求する、ということかなあ…と思っています。
最近のSSのようにフロントから曲がる…というのはできないですね。剛性が不足しています。
昔ながらのリヤ乗りで、車体の軸を感じながら操るのがいいみたいです。
お久しぶりです。かねたです。
返信削除サトゥルノ、カッコいいですね…!見ているだけでわくわくします。
実際に購入して維持して乗りこなすって想像以上なんだろうなって思います。
素敵です。
樹生さんのブログなのにサトゥルノのコメントばかりですみません^^;
札幌、暖かいですね。 今年もバイク、楽しみです。
かねたさん、こんにちは。
削除サトゥルノ、よかったです。オーナーのST4さんのレストアに近いカスタム。
手塩にかけた愛車は、存在感がぴりりと引き締まって、とても美しかったです。
実はフロントカウルは入手時、ひび割れでかなりひどい状態だったそうです。
シングルスポーツ、レストアと維持には、手間と時間と愛情が要求されます。
ST4さん。我が子を見るようなまなざし、それでも、手強いスパルタンなバイク、
またがって走る姿は、とても楽しそうで、180センチほどの長身と、シンプルでスリムなサトゥルノが
とても似合っていました。
素敵だな、と思いました。