2016年11月1日
5℃以下でのV7+メッツラーレーザーテック
10月19日、23日、30日と、気温の低い日に走ってみて、V7ゆきかぜの走りやすさをまた再認識しました。
まず、こうしたコンディションでは、凍結に対して最大限の注意が必要であることは言うまでもありません。
私の場合、広島で16年間くらしていたために、5℃以下で走る経験が豊富であったこともここで申し添えておくべきかもしれません。
広島市で5℃でも、上根峠を越えていくとマイナスに気温になることなどは、冬の早朝ではよくあることでしたし、朝の通勤時間帯に(当時は4輪は持っていなくて、移動手段はバイクだけでした。)、ドライの路面からいきなり凍結しているところに出たり、逆に、道路の両側に雪がかなり積もっていても路面温度はプラスで凍結していない状況まで、かなりの冬季路面を走ってきた経験があるのです。
北国の人はそういう人が多いと思いますが、感覚的に、5℃を切ったとき、0℃より高いときと低いときは大体わかります。
空気の感じが変わるからです。
30日に走ったのも、近所の感じを見て、まず大丈夫だと確信したことと、無理なゾーンには踏み込まないと決めていたからでもありました。
支笏湖線へ行かなかったのは、高いところの日陰の橋の上での凍結が怖かったため。
…とはいえ、一度GPZ1100で通勤中に凍結路面で転倒した経験のある私には、あまり大きなことは言えません。
ただ、今回の走行に関しては、安全性に関しては実は相当に慎重だったのです。
さて、言い訳はそれくらいにして、V7の低温時の走行性能についてです。
まず、メッツラータイヤについて述べなければならないでしょう。
今履いているレーザーテック、特徴的なトレッドパターンは、1980年代から継続しているものですが、内部構造、コンパウンドなどは、格段の進歩を遂げていて、バイアスとはいえ、従来とは比較にならないほどの高性能です。
その安定性や、雨天時のグリップ、ハンドリング特性などについては、今までも何回かレポートしてきました。
「メッツラーレーザーテック タイヤテストラン1」
「メッツラーレーザーテック タイヤテスト 2」
「雨のメッツラーレーザーテック」
「ヘビーレインでのV7とレーザーテック」
「V7ブレーキング時の車体姿勢とメッツラーレーザーテックレポート3」
総じて、安定性の中に素直さがあり、ドライでも十分なグリップやハンドリングを示しながら、条件が悪くなるほどにその安定性の高さを発揮して、非常に高い能力を発揮する、というものでした。
これは、気温が低い状況でも変わらなかったのです。
気温が5℃を切って、1℃になり、しかも路面が濡れている状況でも、メッツラーの「わかりやすさ」は非常に安心感をライダーに与えてくれました。
もちろん、ドライと同じ感覚ではありませんが、あの路面からインフォメーションがなくなってしまう、嫌な感じはほとんどかんじさせることがなく、かすかにトレッドゴムが変形しつつ、しなやかに路面をつかんでいる感じをライダーに伝え続けてくるのでした。
とはいえ、それは凍結していないから。その安心感に油断して凍結路面へそのまま走り込んでしまったら、悲惨な結果になります。
だから、周囲の様子と前方の路面状況には、全身全霊を注いでいなければならず、それで神経がすり減ってしまうことは、これは避けられませんし、避けるべきではない。
しかし、だからこそ、現在の路面をつかんでいる感じを、穏やかながら常に送ってくれるレーザーテックは、こうした状況で信頼に足る、すばらしい「靴」と言えるのです。
もともとメッツラーはドイツを中心に開発をしてきたメーカー。(今やピレリと同じ工場で、でも、違うテクノロジーで作られているという、変わった関係を、ピレリとメッツラーは維持しています。)
BMWに長くOEM提供されてきたメッツラーは、状況が大きく変化するヘビーなスポーツツーリングの走りを研究し続けてきた歴史があります。
今回の寒空の下での走行でも、その技術の積み重ねを、しっかり感じることができました。
さて、V7本体の走行性能について行きましょう。
寒いとき、体が冷え切ったり、かじかんでしまうと、操作に影響が出て、ブレーキが遅れたり、微細なコントロールが利かなかったりして、転倒や事故の可能性が上がってしまいます。
だから、冬季の走行に関しては防寒性能もまた、安全性能のひとつなのですが、ゆきかぜ号はご覧の通り、ネイキッドで防寒装備はなにもないので、それはもっぱらウェアリングが担うことになります。
今回のウェアリングはかなり成功。これはまた稿を改めて報告します。
ゆきかぜについて言っておきたいのは、寒い時期でも非常に走りやすい、アクセルのツキと、トラクション性能についてです。
寒い中、ずっと走っていると体も硬直しがちで、運転も大味になりがちです。
だらーっと走って、加速、減速も、その境目が唐突になりがちなのです。
ゆきかぜ号は、こうした場面で、アクセルを1/16開けた状態から、1/8までさらに開けていくと、開けた分だけ、開ける速度に応じて、後輪が路面を蹴る強さにちゃんと反映して、それで穏やかでも確実に加速するところが素晴らしい。
開けて一瞬無反応で、直後にドン、とくるようなドン付きがないのです。
また、1/8開度から1/16開度までゆっくりアクセルを戻すと、その戻し方に応じて、加速パワーがすっと下がってくる。
低い開度でのこのアクセルと後輪が直結したかのようなリニアリティが、操作を非常に楽しくするとともに、走行実感を与え、運転に安心感も与えてくれるのです。
このリニアリティは、開度を1/4にしても、1/2にしていっても、一定のまま開けた分だけ力が湧き、絞った分だけ力が絞られるという、よくある例えですが、高級なオーディオの大きなボリュームつまみを回して、スピーカーからの音量をコントロールしているかのような感じです。
これは気持ちいい。本当に気持ちいい。
ただ速いとか、そういうのではなく、マシンと対話している感じ、マシンと人間が意志を合わせて前へ進んで行く感じ…、そういう感じがするのです。
超強力とは言い難いブレンボのブレーキングシステムも、フロントタイヤに与えるマイナストラクションをやはりレバーの引き代でボリュームのようにコントロールできるのが、こういう時に役に立ちます。
思ったよりも効いてしまうことがなく、思ったよりも効かないこともないので、信頼してブレーキレバーを握れるということが、どれだけ素晴らしいことか、こういう条件の悪いときほど身に沁みます。
GPZに比べるとやや低めのロール軸も、こういう時には安定感として感じられます。
ジオメトリー的にもフロントから掬われるように転倒することが起こりにくい(あくまで比較的です。転ぶときは転びますので過信は禁物)設定で、ブレーキングで神経が過剰に疲れることがないのも助かります。
また、フロントフォークのセッティングも走りやすさに効いています。
アクセルを開けると、すっと伸びるのです。直線でいろいろな開け方をしてみると、フロントフォークがよく動き、その特に伸び方がアクセルを開けて後輪にトラクションがかかり、その力が一瞬たまって発揮されるという人の感性になじみやすい挙動を作っていることがわかります。しかも、フロントが伸びて姿勢変化は始まっているので、前述のように、開けた途端に車体が反応して後輪が路面を開けた分だけ蹴るという感覚がつかみやすいのです。
これを限界までハードに攻め立てると、「Fフォークは踏ん張りが足りない」とか「柔らかすぎる」という感想になるかもしれません。しかし、元来、ガンガンに攻めるようにはできていないのだから、相応の扱いをすべきなのです。
柔らかいと言っても、めったなことでは底付きしたりはしません。
いたずらに、必要以上にFフォークの動きに加速度がつかないように、荷重のかけ方、タイミングなどを少し工夫してやればよいのです。
ブレンボのブレーキも、ハードに効かせるには、相応に握力を必要とするタイプですが、それとて、強く握れば、きちんと効くのであって、触ったとたんにドカンと効いてしまうようなブレーキでは、Fフォークが瞬時に沈み込んでしまい、姿勢制御によくないのです。
最初に荷重を前に移してFフォークをある程度沈めてしまい、そこから強く締め上げれば、「まさか!」というくらい、V7のブレーキは効いてくれます。
やはり、走りのことを考えたバイク。
操作実感を豊かに与えることで、安全性を確保するタイプのバイクがMOTOGUZZI、V7なのだと、改めて思ったのでした。
この特性をしっかり理解し、生かせれば、もっと安全マージンを増やしつつ、楽しく走れることでしょう。
そして、行動上での現実的な速度域内の条件下では、もっともっと「速く」もなれるはずです。
足回りを、この特性を生かしたままグレードアップできたなら、さらに戦闘力は増すでしょう。
なかなか底が見えない。そんなレディ、ゆきかぜです。
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takaです
返信削除今回も、『奥深い』内容ですね。
年数を重ね、走り込んだライダーなら、同感できるでしょうね。
パーツ構成やセッティングを否定するのではなく、理解することが大切で、理解出来れば、どの様にアプローチすれば良いのか。
これが解ると、バイクの楽しさは速度に依存することが、なくなるんだと思います。
私も、SRで知りました(^_^;)
CBR900RRの頃なら、判りませんでした(笑)
takaさん、こんにちは。
削除もしもV7をサーキット専用にするなら、足回りをもっと固めてもいいと思います。
でも、街中や田舎道で、ふっと開けた時のふわっとした加速の気持ちよさを味わうには、
フロントの伸び側減衰をあまり締め上げてはいけないでしょう。
その上でもしもペースアップするなら、それなりの扱いをしないといけない…ということですね。
ノーマルの思想を理解したうえで、自分の走り方に合わせて、セッティングをいじっていくのも
ひとつの楽しみだと思います。
来期はそういった領域にも、少し踏み込んでいければと思います。
レーザーテック良さそうですね��試したいけどはけないんだよな~。やっぱり17インチはいいですね。
返信削除いろいろ選べるし、ラジアルを使える。バイアスしか無いので、昔ながらの乗り味なんですよね。
トラクションがと云うかトルクの出方がグッチは常用スピードでリニアなんで非常に楽しい!よく解ります(笑)
これがドカティとかBMWだと直ぐ回転が上がってよく解りません。端的に言うと粘りが無いんですよ。
鼓動感と相まって車体を押し出す感じは883ハーレーなどの比じゃないです。
雪が付着した画像見ましたが、寒くありませんでしたか?自分の場合、夏も冬も上下革なんで、ハイテクの
ウェアに、凄く興味有ります。バイク用では無く、アウトドア用のモノの流用ですかね。手袋は解りました(笑)
いちさん、V7はフロント18インチ、リヤ17インチなんです。リヤはシャフトの関係もあって、130が限界。僕自身、それ以上太いタイヤはいらないので、バイアスで別に問題ないし、いいや…って感じです。ZZR400の時からラジアルタイヤの恩恵には授かってきました。特にGPZ1100の時は、サーキットにも通ったので(スポーツ走行のみでレースには出られませんでした)、ラジアルタイヤの能力の高さには舌を巻く思いでした。
削除タイヤ選びの幅はV7で狭くなりましたが、バイアスの進化にも驚かされました。
記事にはしていませんが、タイヤのグリップ限界に近づくトライを何回かしてみて、その限界の高さと、いきなりブレークしない特性に、これも驚かされています。GPz400F-Ⅱを走らせていた昔の記憶と、そう簡単に比較はできませんが、ピレリにしても、メッツラーにしても、V7での公道走行ならなんの不足も感じません。
さて、ドカティ、BMW、H.D883は走らせたことはないので(一緒に走ったことはありますが)よくわかりませんが、アクセレーションとのリニアリティはそれぞれ個性はあるものの、どれも優れていると思っています。クランクマスの大きさからくる慣性力を粘りというのなら、それは裏を返せば鈍重ということにもなりますし、エンジンだけピックアップが鋭くとも、車体とのセットでないとこれは語れないので、(BMWはシャフトでMOTOGUZZIと同じく後輪までセットになっていますし、ドカティはトラクションのレスポンスを崩さないために、クランクケース後端にスイングアームピボットを付けていました)一概に語るのは難しいと思います。
たとえば、このリニアリティを1980年代に最も重視して登場したのが、ビモータのdb1で、それがエスカレートしていくハイパワー競争へのハンドリングからの一石となったでした。
MOTOGUZZIにはグッツィ流の、リニアリティへのこだわりがあり、
ドカティにはドカティの、BMWにはBMWの、ハーレーにはハーレーの、こだわりがあると思います。
ハーレーはあえてダルなところを残し(最近は少し幅を広げてきていますが)、人の感性とのシンクロを愚直に追い求めてきたメーカーですから、そこには社の命がかかっていますので。
ちなみに私は、これも記事にはあまり書きませんでしたが、GPZ1100の脱出加速でフルパワーを解放した時の、普段とは全く違う咆哮を上げなら路面をかきむしり、怒涛の加速をする、リッターマルチならではのあの感じや、トップ1600rpmで滑るように流す、「ベルベットクルージング」もこよなく愛していました。どちらもV7には望めないものです。でも、それでいいのだと思います。だからいいのだとも。愛車と別れ、別のバイクに乗るということは、そういうことだと、どこかで思っています。そして、V7を理解し、その能力を気持ちよく発揮させ、長く走っていくことが、僕とバイクとの付き合いの、「今のところの」スタイルですので。
ウェアは、また記事にしますね。(できるかな…^^;)
KEI Cさん、こんにちは。
返信削除空気圧を上げると、リーン方向が軽くなる傾向が出ますよね。その分、舵角が入るのが若干遅くなったり、舵角の入りが小さくなったりすることもあり、バイクってホント、バランスの乗り物だなあと思います。
レーザーテック、ツーリング能力としては、季節、気候を越えて走っていくときに、その信頼性では非常に高く〝買える〟と思います。
ただ、ハンドリング性能としては、ピレリのスポーツデーモンの方が若干上だったと、僕の感覚では思っていて、どちらもトータルではいいタイヤだと思うんですが、どっちをとるかは悩ましいところ。僕自身は、今度の交換では、第3のタイヤにトライしてみようかなと思っています。