2019年4月19日

春のひかり。6 朝里

冷水峠から余市へ。
ゆっくり下っていく。
次第に海が近づき、次第に春の色が濃くなっていく。
そのまま広域農道(通称フルーツ街道)を流した。
お昼が迫り、陽の光も、空気も、暖かく感じる。
すっかり春の景色の中に、春の空気の中に帰ってきた。
ホントは、もう少し、走るつもりでいた。
例えば、積丹半島を一周する。
積丹ブルーの海を、眺めに行く。
そんな走りも、イメージしていた。

でも、僕の中で力が抜けていった。
今日は、これでいい。
これで、帰ろう。
明日も仕事が待っている。
疲れる前に、今日は帰る。

そう思って、小樽の街を塩谷から迂回して朝里に抜け、
そのまま朝里の海へ出た。

2019/4/14 12:10 朝里
踏切を渡れば、朝里の駅。
行き止まりまでいくと、海水浴場。

今日は、踏切を渡らず、反対方向へ。
道幅2mくらいの細い道。
ちょっと広くなったところで、ゆきかぜを停め、背伸びをしていたら、
列車がやってきた。
小樽から札幌へ走っていく列車だ。
線路のすぐそばで列車の通過音を聞くのは、どれくらいぶりだろう。
線路の揺れる響き。
大きな音とともに、列車が走りすぎる。

2019/4/14 12:11 朝里
後に静かな海と架線と線路の風景が残った。
小樽の街の大きなビルも見えている。
鉄臭い線路の匂いが、懐かしい。

2019/4/14 12:11 朝里
反対側は札幌方面だ。
海の向こう、
水平線ではなくて、石狩湾の反対側が見えている。
大きなタンク、石狩の山々。
ここがぐるっとした湾であることを、思い出させる。


対岸に見える山をカメラのズームで。
雪をいただいた山々が並んでいる。
あの足元にも道があり、北へと伸びている。
その道を、走る日も遠くないだろう。

柔らかい海風に吹かれてのんびりしていたら、
途中で缶コーヒーを買ったのを思い出した。

すっかり忘れていた。
タンクバッグに入れて、景色のいいところで飲もうと思っていたのに。

2019/4/14 12:15 朝里
ベンチも何もないけど、崖の土の斜面に腰を掛けて、
コーヒータイムにすることにした。

ちょうどお昼時。
糖分も欲しくなってきたところだ。
さっきパンは食べたから、缶の珈琲だけど、これでランチタイムの完成だ。

日向がうれしい。
ひなたぼっこが、うれしい。
外にいるのが、昔から好きだった。

寒かったり、暗かったりするとすぐに家の中に入りたくなるくせに、
外にいるのが好きな子どもだった。

どうしてそんなことを、思い出しているのだろう。

2019/4/14 12:15朝里
時は流れ、秋田生まれの僕は、いろんなところで暮らし、今は札幌。
そして今日、今、この場所に流れ着いている。

暖かな日を浴びて、生ぬるい缶珈琲を飲むのも、なかなかいい。

こいつをゆっくり飲もう。
もしかしたら、もう一回、列車が通るかもしれない。
そしたらそれを機に、立ち上がって、
ゆきかぜのもとへ歩いていこう。
そして、缶をつぶしてタンクバッグに詰め、ヘルメットをかぶり、グローブをして、
ゆきかぜにまたがり、一声かけて、セルを回す。
ここのところ、弱りつつあるバッテリーだが、暖かい日中なら、一瞬でゆきかぜを目覚めさせる。

ゆきかぜに火が入ったら、安全な帰還を願って、ゆっくりと走り出そう。

帰る家がある。

自分にそれを言い聞かせながら、帰路という冒険に就くのだ。

ゆきかぜ。

今シーズンの旅は、今、始まったばかりだ。

(春のひかり。完)

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