ゆっくり下っていく。
次第に海が近づき、次第に春の色が濃くなっていく。
そのまま広域農道(通称フルーツ街道)を流した。
お昼が迫り、陽の光も、空気も、暖かく感じる。
すっかり春の景色の中に、春の空気の中に帰ってきた。
ホントは、もう少し、走るつもりでいた。
例えば、積丹半島を一周する。
積丹ブルーの海を、眺めに行く。
そんな走りも、イメージしていた。
でも、僕の中で力が抜けていった。
今日は、これでいい。
これで、帰ろう。
明日も仕事が待っている。
疲れる前に、今日は帰る。
そう思って、小樽の街を塩谷から迂回して朝里に抜け、
そのまま朝里の海へ出た。
2019/4/14 12:10 朝里 |
行き止まりまでいくと、海水浴場。
今日は、踏切を渡らず、反対方向へ。
道幅2mくらいの細い道。
ちょっと広くなったところで、ゆきかぜを停め、背伸びをしていたら、
列車がやってきた。
小樽から札幌へ走っていく列車だ。
線路のすぐそばで列車の通過音を聞くのは、どれくらいぶりだろう。
線路の揺れる響き。
大きな音とともに、列車が走りすぎる。
2019/4/14 12:11 朝里 |
小樽の街の大きなビルも見えている。
鉄臭い線路の匂いが、懐かしい。
2019/4/14 12:11 朝里 |
海の向こう、
水平線ではなくて、石狩湾の反対側が見えている。
大きなタンク、石狩の山々。
ここがぐるっとした湾であることを、思い出させる。
対岸に見える山をカメラのズームで。
雪をいただいた山々が並んでいる。
あの足元にも道があり、北へと伸びている。
その道を、走る日も遠くないだろう。
柔らかい海風に吹かれてのんびりしていたら、
途中で缶コーヒーを買ったのを思い出した。
すっかり忘れていた。
タンクバッグに入れて、景色のいいところで飲もうと思っていたのに。
2019/4/14 12:15 朝里 |
コーヒータイムにすることにした。
ちょうどお昼時。
糖分も欲しくなってきたところだ。
さっきパンは食べたから、缶の珈琲だけど、これでランチタイムの完成だ。
日向がうれしい。
ひなたぼっこが、うれしい。
外にいるのが、昔から好きだった。
寒かったり、暗かったりするとすぐに家の中に入りたくなるくせに、
外にいるのが好きな子どもだった。
どうしてそんなことを、思い出しているのだろう。
2019/4/14 12:15朝里 |
そして今日、今、この場所に流れ着いている。
暖かな日を浴びて、生ぬるい缶珈琲を飲むのも、なかなかいい。
こいつをゆっくり飲もう。
もしかしたら、もう一回、列車が通るかもしれない。
そしたらそれを機に、立ち上がって、
ゆきかぜのもとへ歩いていこう。
そして、缶をつぶしてタンクバッグに詰め、ヘルメットをかぶり、グローブをして、
ゆきかぜにまたがり、一声かけて、セルを回す。
ここのところ、弱りつつあるバッテリーだが、暖かい日中なら、一瞬でゆきかぜを目覚めさせる。
ゆきかぜに火が入ったら、安全な帰還を願って、ゆっくりと走り出そう。
帰る家がある。
自分にそれを言い聞かせながら、帰路という冒険に就くのだ。
ゆきかぜ。
今シーズンの旅は、今、始まったばかりだ。
(春のひかり。完)
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