2019年4月30日

風の色1 夜明け

2019/4/29 4:16
高校生の頃。

学校が嫌いだった。

休みの日は、自転車で、家からも学校からも遠くへ、走っていった。
まだ暗い早朝に家を出、ペダルをこぎ続けて、
やがて東の空が茜色になり、周りが明るくなって、最後に太陽が山の端から出てくる。
その瞬間を、路上で迎えることが、とてもうれしかった。


2019/4/29 4:23
4月29日。
日の出前に出発。
今日の天気予報は、全道的に晴れ。日中は20℃を越える予想。
着る服に迷うが、真冬装備で出た。

静かな街。
ゆっくり流す。
朝は距離を稼ぎたいが、最初から飛ばしはしない。
自分も、マシンも、暖気運転だ。
旅の空気に、ゆっくり慣らしていく。



2019/4/29 4:40
4℃。
冷たい空気が、凛としている。
札幌の中心部を抜け、住宅街もだいぶ抜けてきた。

もうすぐ郊外だ。



2019/4/29 4:47
太陽が昇ってきた。
朝の空気も、もう1時間くらいで終わる。
札幌から北広島へ、恵庭へ、千歳へ。
下道で距離を伸ばしていく。



2019/4/29 4:53
5℃を下回ると、明らかに体感が変わる。
さらに下がった感覚があった。
見てみると、2℃だ。
四月の終わりで、平地で、ここまで下がるか。
風もなく、よく晴れて、放射冷却現象で下がったのだろう。
千歳のあたりは、いつも朝寒い。

国道36号に出て、新千歳空港の側を抜け、道道10号線にチェンジ、
安平(あびら)町方面へ向かう。

安平から厚真(あつま)方面へ。
ずっと前から僕の好きな町。

前のブログでも何回も訪れている。

  北海道の樹を訪ねて6-幌里小学校跡の春ニレ(その1)
  北海道の樹を訪ねて6-幌里小学校跡の春ニレ(その2)
  北海道の樹を訪ねて6-幌里小学校跡の春ニレ(その3)
  北海道の樹を訪ねて7-幌内神社のエゾイタヤ(その1)
  北海道の樹を訪ねて7-幌内神社のエゾイタヤ(その2)
  北海道の樹を訪ねて7-幌内神社のエゾイタヤ(その3)
  秋のたより
  秋の一日(2) 
  幌里へ
  秋の一日(3)
  幌里小跡で
  冬立つ日に(厚真町幌里)
  冬立つ日に(厚真町幌内)

去年の秋、厚真町は北海道胆振東部地震に襲われた。
それ以来、厚真を通るのは初めてだ。

厚真が近づくと、道がうねり、補修の跡が目立ち、また、崩れた斜面や、山肌も見えた。
そこを整備して今年の田植えに向かっている田んぼもある。
僕の通った道道10号の法面近くはほぼ修復されていた。
しかし、被害は大きく、復興はまだまだこれからだ。
再建を断念した神社もある。
僕の知り合いにも被害に遭った人がいる。
でも、頑張っている人たちがいる。

その町を、ただツーリングで通過していく僕。
写真の一枚も、撮れなかった。


2019/4/29 5:19
厚真の中心部から、道道10号線を、鵡川(むかわ)方面へ。
さらに空気が冷えてきているように感じる。
真冬装備で来ているので、冷え切って凍えるようなことはない。
頸まわり、手首、足首からの冷風の侵入もない。
しかし、手袋の中で指が冷たくなってきている。
今日は長時間走りっぱなしになることも想定して、
いつものジェットでなくフルフェイスをかぶってきたが、
それも防寒には有効だったようだ。
顔がこわばってしゃべれなくなることもない。

でも、ヘルメットの中で鼻水が出だした。

2019/4/29 5:19
0℃。
寒いわけだ。
道道は、丘を越えていく。

寒い。

ゆきかぜを停めた。

2019/4/29 5:21
丘の向こう、朝日が昇り、周りが金色に輝いている。


2019/4/29 5:22
足元の草には、霜が降りていた。



2019/4/29 5:22
金色の光の逆光を浴びるゆきかぜ。
アイドリングでプルプル震える、その姿。

金色の光。
凍った空気。
エンジンの中で、燃焼するガソリン。
震える、シリンダー、ハンドル、テール。君は、
君は何を思うのだろう。
人の営みと、季節の移ろいに。



2019/4/29 5:25
先は長い。
止まっていても暖まるわけでもない。
すぐに走り出す。
途中道道983に寄り道して、鵡川市街、国道235へ。

途中、何か所か、地震被害と思われる風景に出会った。
そう、揺れによる被害があったのは、厚真と札幌市の住宅街だけではない。
鵡川町でも場所により、かなりの被害があった。
全国報道が厚真ほどされなかっただけだ。
でも、人の印象はだいぶ違う。
僕等が見ている他のニュースも、たぶん同じようなことがたくさんある。

もう走り続けて2時間になる。
そろそろ休憩しよう。
鵡川の街を出て、鵡川の橋を渡って、コンビニに入った。

先客が4台。トラックが3台、ワンボックスが1台。
僕の直後にワンボックスがもう一台入ってきた。
運転していた人がドアを開けて降りてきて、オーバーズボンを履き始める。
「バイクは、寒いっしょ」
笑顔で声をかけてきた。
「ええ、寒いっス」
そう答えながらヘルメットを取ろうとして、手がかじかんでいるのに気づいた。

店の中から出てきた人が、今僕に声をかけた運転手に話しかける。
「おやあ、どうしたあ?」
知り合い?
「いや、あんまり寒くってさ、履いたとこだ」
近所同士なのだろうか?
車で行くのに寒くてオーバーズボン履くっていうのも、なんか面白い。
ヒーター故障中なのだろうか。

僕は店内に。
トイレをお借りして、朝食を購入する。

2019/4/29 6:17
ここでも2℃。でも外で、地べたに腰を下ろして、食べることにした。
早く食べないと、すぐに冷めてしまう。
陽の光は暖かい。
海沿いに出るとけっこう風がある。
風は冷たい。

…そういえば、さっきの光は金色だったけど、
風は金色にはならないんだなあ…。
…さっきはやんでいたからか?
なんて、ぼんやり考えても、寒いものは寒いのだ。

かじかんだ手をしきりに揉む。
大分ふつうになってきた。
ツーリングでこういうのも、久しぶりだな。

2019/4/29 6:21
ゆきかぜはひなたぼっこ。
なんか、あったかそうだな。
向こうのコンクリートミキサーの釜がゆっくり回り続けている。
朝イチで現場へ行くんだな。

さあ、食ったら僕等も出発だ。
今日は少し足を伸ばすぞ。
(つづく)

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