2022年1月19日

バイク旋回開始の動作について。

 いつも拝読している緒崎松倉さんのブログ「此先松倉」で、「逆ハンのお話」という記事が18日にUPされていました。

元々ライテクオタクだった私にとっては、非常に興味を惹かれる記事。

インスパイアされて、改めて考えたくなりました。


その記事で緒崎さんが触れているのは『体重移動では曲がらない「モーターサイクルの運動学講座・その9』というwebの記事。

その記事の趣旨は、タイトルの通り「体重移動では曲がらない」ということで、MC(モーターサイクル)のリーンのきっかけには「逆操舵」が必ず必要というものでした。

緒崎さんのこの記事への評価は、一言でまとめると、「操作の方法は一つじゃない。」と。
その他、緒崎さんの評価に、私も同意でした。

ここからは、私自身、今回の『体重移動では曲がらない「モーターサイクルの運動学講座・その9』を考えて行きたいと思います。

体重移動では曲がらない「モーターサイクルの運動学講座・その9』は「Motor-Fan」のHPの中の「TECH」=テクノロジーの項の中にある記事で、筆者はJ.J.Kinetickler氏。
機械工学エンジニアの方です。

プロの方が書かれているのですが、プロの間でも意見が分かれているのが、二輪が曲がる時の「逆操舵」の重要性の問題。
例えば、私がバイク工学、特にライディングに関する知識として最も信頼している人は、和歌山俊宏氏ですが、和歌山氏は『web!ke+』の『世界中で白熱の「カウンター」vs「ボディ」ステアリング論争』の中で、
ライディングスクールやライテク論者には、カウンターステアリング(逆操舵)がコーナーに進入する方法だと説く人がいます。一方、私のように、大切なのはボディステアリング(体幹操舵と名付けます)だと主張する人もいます。

これは諸外国でも由々しき問題のようで、ネット上でも両意見が飛び交っています。
それらの中で、逆操舵論者の最たるはカリフォルニア・スーパーバイクスクールの創始者にして、ライディングに関する著書でも有名なキース・コード氏です。
バイクが向きを変えるための唯一の方法は逆操舵だと言明。身体を移動させるにはマシンに入力せねばならず、結局は逆操舵を使うしかないというのです。そのため彼は車体本体にダミーハンドルを取り付けた(スロットル操作は可能)“ノー・ボディステアリング・バイク”を製作。「ほら、曲がらんだろ」と実演しています。

すると、それに反論する人が、ロサンジェルス北部のワインディングを手放しで走り切る動画“ノー・ステアリング・インプット”をアップ。「キース・コード、見てろよ」とやってのけたのですから、何とも楽しい論争です。
と述べ、外国でもこの話題が出ていると指摘しています。
実際に、上の引用にある、“ノー・ボディステアリング・バイク”実演の動画、そしてそれに対抗した“ノー・ステアリング・インプット”の動画がYouTubeで見ることができました。
下にしるします。

まず、“ノー・ボディステアリング・バイク”実演の動画

続いて、“ノー・ステアリング・インプット”の動画です。両手放しで峠のワインディングを下って行くバイクを追走するバイクのアクションカムで撮影しています。

この動画には、概要欄に長い説明がありました。おそらく、動画の趣旨を理解しないで、「こんな危険走法を自慢げに上げるな!」というコメントが多く上がったためでしょう。
引用しておきます。
IF YOU DIDN'T WATCH KEITH'S "NO BS" BIKE VID, THEN DON'T LEAVE A MESSAGE ON MY VIDEO!!!!!!

Keith Code basically says you cannot initiate a turn and continue through the turn and finish a turn without any manual steering input period...as in only using your body weight to cause countersteer. I set to prove that wrong. NO, I"M NOT SAYING THIS IS HOW YOU RIDE ON THE TRACK. NO, I AM NOT SAYING THIS IS THE BEST WAY OF TURNING. I AM JUST SAYING AND I REPEAT BECAUSE A LOT OF YOU PEOPLE DON'T COMPREHEND ENGLISH 1. TURNS CAN BE INITIATED AND COMPLETED BY JUST USING WEIGHT AND 2. WEIGHT PLAYS A LARGER PART THAN KEITH CODES SCHOOL ADMITS TO. AGAIN IF YOU DIDN'T WATCH THE "NO BS" BIKE VID, THEN DON'T LEAVE A MESSAGE ON MY VIDEO. Removed the comments section since most don't bother to read this description. Keith's school also updated to a newer video where they clear up what they meant by no body steering.
日本語訳がこちら。(グーグル翻訳に下訳をしてもらって、私が手を加えました。)
キースの「NOBS」バイクビデオを視聴しなかった場合は、コメントを残さないでください!!!!!!

キースコードは基本的に、手からののステアリング入力区間がないと、ターンを開始し、ターンを続行し、ターンを終了することはできないと言っています...カウンターステアを引き起こすために体重だけを使用する場合のように。 私はそれが間違っていることを証明するためにこの動画を作りました。
いいえ、私はこれがサーキットを走る方法だと言っているのではありません。
いいえ、これが最善のコーナリング方法だと言っているのではありません。
多くの人が英語を理解していないので、私の言っていることを繰り返します。
1、 ターンは、体重を使用するだけで開始および完了できます。そして、
2、体重は、キースコードスクールが認めるよりも大きな部分を果たします。
もう一度、「NO BS」バイクビデオを視聴しなかった場合は、ビデオにコメントを残さないでください。
ほとんどの人がこの説明を読まないので、コメントセクションを削除しました。キースの学校も新しいビデオに更新され、ボディステアリングがないことの意味が明確になりました。
確かに、危険そうに見えますし、今日的には公道でやるのは「コンプライアンス」上、問題ですね。まあ、それでも、ハンドルに入力しなくても、コーナリングはできるし、切り返しもできるということはアピールできたとは思います。

そうまでしなくても、公道でない場所で、時速30㎞で直進しながら両手をすぐ掴めるようにわずかにハンドルから浮かせ、そのままステップワークやタンクを膝で押したりすることなどを連動してバイクを小刻みに右左に揺らしてみれば、(絶対に無理はしないこと!公道でしないこと!すぐにつかめる状態ですること!少しずつ5度くらいしか揺らさないこと!)車体のゆらゆらと左右に揺れる=傾くのに従って、ハンドルがこまめにゆらゆらと切れることが実験できるでしょう。

だからといって、逆操舵を一切使わないというのも、極端だし、非現実的。
和歌山氏は、先に挙げた記事の中で、
「ただ、一切の逆操舵なく、正確かつ安全に速く走ることができないのも事実です。」
と述べています。

和歌山氏は、逆操舵も使用するが、それは補助的なものとして、体重移動(「体幹操舵」)を主体とすべきと言います。

さて、では体幹操舵とは…、となると、話が長くなります。
また、大きくなりますね。今日はこの辺りでやめておきましょう。



ここからは最近のライテク議論…ライテクに限らず、最近の社会の議論の面白くなさについての愚痴になってしまいますが…。


ライテク議論は、追い求めていくこと自体が楽しいものですが、理論や現実の理解を求める以上に、相手の間違いを否定してやっつけることに力を入れる人たちが現れて、せっかくの議論をつまらなくしてしまいます。

「逆ハン」議論しかり、「背中を横から見た時の姿勢、S字vsC字」議論しかり、「向き変え」しかり、「ライン」しかり……。

何が正しいのかの結論のみを急ぐのではなく、少しずつ積み上げ、時にせっかく積み上げたものを崩したりしながら、楽しく追い求めて行けばよい。

私たち素人は、ああだこうだと言って楽しんでいればいいと思うのですが、
バイクジャーナリストや、エンジニアなど、プロの方々には、それ相応の「もの言い」をお願いしたいものだと思います。

いろんな分野で「都市伝説」という言葉を聞きますが、プロがある説を「都市伝説」と言い切るには自説の正しさ、妥当性のみでなく、相手の説の正しい可能性をきちんと吟味してから言うべきでしょう。「都市伝説」はいつの間にか広まったものですが、バイクの逆操舵、体重移動などは、提唱しているプロの人(たち)がある程度はっきりしていて、それぞれ明確に発言していることが多いです。ざっくり「ああ、それは間違っててね…」と言うのでなく、相手側の理論をしっかり理解して反論することが大事だと思います。
例えば、プロとして体重移動による操舵を否定するのであれば、和歌山俊宏氏の『図説バイク工学入門』『タイヤの科学とライディングの極意』を吟味したうえで、その過ちを証明してから(あるいはしながら)にすべきでしょう。(もちろん、表面上は触れなくてもいいのですが、その内容を凌駕していないと、否定したとは言えません。)

今、最も丁寧に、客観的にライディング理論を述べる人といえば、やはり和歌山俊宏氏でしょうか。
根本健氏は「教えるモード」の語り口になり、それは、山田純氏もそうだし、柏秀樹氏もそうです。
ベテランのプロと超初心者しかいないかのような言論世界は、一般の言論のモデルが欠落するため、巷では乱暴や言い切りや、その場限りの言辞操作で論破しただのなんだのと、幼稚で派手な言説のみが幅を利かせ、社会全体の議論を後退させていきます。
自身もも学びながら書く、という姿勢を貫いているのは、バイカースステーションの佐藤康夫氏。氏は73歳ですが、そこらの50代40代よりも精神的にいい意味でずっと若い感じがします。
技術、学術論文は一般人には手に負えませんが、もう少し本気で読み込めるような議論をバイク業界には期待したいと思います。
それが、商売的に成り立たなくなったのが今日だと言われてしまいそうですが、次の世代を伸ばし、育てていくことはとても大事なことのはず。

本気の記事には、実は需要はあると思うのですが…。

8 件のコメント:

  1. インターネットの辺境から引き出されてしまいました緒崎です
    どうもお忙しいなかお騒がせしてしまったようで。


    逆操舵と体幹操舵に関してはどこかにあったはずだと思って探してきました
    リーンインを考える(2)
    https://blog.goo.ne.jp/takkikazuhito/e/166ffac78896deda6ae416a08b5f6a5f


    需要はございますよ?



    オートバイにたくさんのセンサーがつけられて、全てが解明されて最適解が出るまで、我々はあーだこーだと言いながら楽しみたいと思います。

    ”正解は、どれも正しい。ただし、何のために、どのタイミングで、どれくらいの力をどの方向に、どれだけかけるかを、状況に応じて適切にすれば、である。”  という文章に同意を込めて。

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  2. 緒崎さん、ありがとうございます。
    勝手にこっちの記事にしてすみません。我田引水ですね。
    「本気の記事」の一例として私の拙論を取り上げてくださいましたか?
    ありがとうございます!感謝です。
    最後の引用も私の旧ブログの記事からですね。
    本当に読み込んでいただいて、
    書き手として、ありがたい限りです。救われる思いです。

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  3. 後半に賛成です。最近某「プロフェッサー」なる人物(おそらくこのJ.J.Kineticklerなる人物と同一でしょう。実名も含めてどこの誰かまでおよそ分かっていますが晒しが目的ではないのでここでは伏せます)が体重移動で曲がるなんてあり得ない、そんなことも分からんのか的なことを断定口調で言ってるのを見て少々腹が立ちました。論争ではなく建設的な議論にしてほしいものです。

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  4. 匿名さん、同意してくださり、うれしいです。ありがとうございます。

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  5. 以前から思っているのですが、体重移動と逆操舵は実はバイクに対してほとんど同じような入力をしているという事はないでしょうか?
    バイクの挙動が全く同じであれば、同じ入力がされている、と考えることは出来ないでしょうか?

    まずバイクの挙動 = 結果が同じなのかどうか。違う場合はこの比較自体が成立しておらず、例えばサーキットのラップタイムやタイヤの摩擦力に対するマージンで優劣が出ます。

    結果が全く同じである場合は、逆操舵と体重移動でバイクに対しての入力が同じなのでは。

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  6. 匿名さん、コメントありがとうございます。

    おっしゃる件も、体重移動のみ、逆操舵のみの入力というのはほとんどなく、入力の度合いがケースごとに違うというのが実際のところだと思いますので、単純には語れない問題です。
    しかし、逆操舵メインの入力と、体重移動メインの入力とでは、バイクの挙動は同じではない、というのが私の認識です。

    最終的にバイクが傾き、ステアリングがイン側に切れてバランスし、旋回状態に入る、というゴールは同じですが、その過程が違います。

    端的に言うと、逆操舵メインの操作では、フロントを軸に車体が「ねじれ」を生じてそれが治まる傾向が強く、フレームとフロントタイヤ、Fフォークに大きな力が加わることからリーンが始まります。
    体重移動メインの操作では、倒れていく車体側に遅れることによって一瞬逆操舵状態になるので、フロント周りにそこまで強いストレスはかからず、車体に生じる「ねじれ」も異なるものになります。(ねじれが生じないわけではありません。)

    この違いはバイクよりもはるかに剛性の低い自転車で逆操舵のみを加えて旋回を開始することと、できるだけハンドル入力をせずに車体を傾ける操作をしてみると、如実に分かります。
    ただし、分かりやすくするには、ある程度スピードを出していた方がいいですし、そうなると転倒の危険もあり、公道上ではすべきではありません。転倒することも前提にし、安全な場所で、速度を出し過ぎないようにしながら徐々に試していくと、その過程の違いが体感できると思います。

    バイクでも、速度が出ていて、路面のグリップが低い場所などでは、同様に違いを体感できますが、それこそ危険ですので、実験は控えることをお勧めします。

    バイクのフレームを含む車体の「ねじれ」や、前後左右の「たわみ」は、ライダーが気づかない場合でも日常的な速度でも微細に起きていて、そのコントロールがハンドリングに大きく作用することが、特に1990年代では明らかになってきました。
    ひたすらフレーム剛性を高めて、サスペンションで荷重を受け流すという発想では、乗りにくく限界も低くなってしまうのです。車体全体のたわみとねじれを設計時から解析してコントロールするようになってから、フレームの剛性も部分的に落としたり、ねじれ中心をどこに持ってくるかなどの複雑な設計をするようになっています。

    逆操舵では主にフロントからストレス(入力による力のやりとり)が生じ、体重移動ではフロントでない車体側からストレスが生じて動きが始まりますので、
    最終的に同じ旋回状態に落ち着いたとしても、その過程での動きが違い、その間の走りも違います。

    理想を言えば、和歌山氏が言うように、体重移動メインの方が車体やタイヤにかかる余計なストレスが少ないので、合理的です。

    しかし、レースにおいては、転倒しないのであれば、過度にストレスを与えても、体重移動だけでなく力いっぱい逆操舵を加えて、素早くマシンの状態を変化させることを選ぶ場合が多々あります。そちらの方が「速い」からです。
    特に昨今の空力設計を駆使し、タイヤのグリップ力も飛躍的に高くなっている状態では、高速S字の切り返しなどでは、ほぼ全力(?)で逆操舵を与えつつ、ステップワークなど、すべてを駆使して膨大な運動エネルギーと闘っている様子が見られます。
    現代のレースでは、逆操舵を全く使わないことは考えられず、使うことによって場合によって危険度は増しますが、設計技術の進歩とライダーの技量によってラップタイムを削っています。

    しかし、遥かに運動エネルギーの低い公道で、同じ割合で操作を再現していくことには、必然性もないし、グリップの低い状態ではフロントからグリップを失うリスクが増すということは十分に考えられることです。
    (日常的、常識的な、逆操舵ではそこまでのリスクは生じませんので、やっても大丈夫です)

    …というのが私の認識です。もちろん、これが正解だというつもりはありません。
    匿名さん自身がお考えになる際に、少しでも参考になれば幸いです。

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  7. 真摯に回答いただきありがとうございます。

    私も日々自分のバイクで色々試す中で、同ように感じています。
    簡単に倒れないバイクをねじ伏せて曲げたいような場面では、重宝するテクニックかと思います。
    また、初期のきっかけ作りでマージンの範囲内で使い、バイクを倒しつつ体重移動に移行するのが自然なので、本来は対立軸ではなくお互い補完し合う関係でしょうか。

    リスクとして、おそらく大袈裟に逆操舵をすると、クルマで言うステアリングの切りすぎによるアンダーステアと同様に、瞬間的に実舵角が必要以上に大きくなり、摩擦円を外れてスリップダウンしやすいのではないかと思います。
    体重移動では急激に倒して無理やり向きを変える事は出来ないので、自然な舵角・横力の立ち上がりになる。
    逆に言うと逆操舵は、急激かつ限界を超えてステアリングを切りすぎる事が出来るテクニックなのかなと考えています。

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    1. 匿名さん、「対立軸ではなくお互い補完し合う関係」というのは、実用上、まさにそうだと私も考えています。
      ライディングを「どのように行うか」…という実際のことと、その現象に対して、「どうしてそうなるんだろう」…という理論上の探求。どちらもただ自分の正当性を主張し、相手をけなして優位に立とうとするのではなく、より総合的で深い理解と実践を目指して、楽しみながら高めていくようなスパイラルを作っていけたらいいなと、考えています。コメント、ありがとうございます。

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