2022年1月8日

『RIDERS CLUB』が面白くなっている。


「RIDERS CLUB」から根本健氏が去って、もうすぐ2年。

根本氏は『RIDE HI』を、YouTubeと紙雑誌の両方で連動させて展開。編集長にはRIDERS CLUBから小川勤氏が移籍してそのまま就任。

1977年の創刊年以来、『RIDERS CLUB』と言えば、『月刊根本健』と言うべきカラーが、比較的早くに編集長を退いた後も、残っていたのだが、『RIDERS CLUB』から根本健色が、彼の残した遺産「ライディングパーティー」その他諸々…を除いて消えることになった。
そして『RIDERS CLUB』は、2年前よりもずっと面白くなってきている。

それは、河村聡巳編集長をはじめ、編集部員の力も大きいのだと思う。
決して根本健氏や小川勤氏がよくなかったというのではない。根本氏がプロデュースし、小川氏が編集長をしている『RIDE HI』は、これもまた、面白い。

根本健が去ったライダースクラブ、その編集方針は難しかったことだろう。
根本氏と小川氏をフューチャーしたライテク記事が目玉だったライダースクラブから、メインが抜けたのだ。

しかし、ライディング指向を変更することは、『ライダースクラブ』としてはあり得ない。
日本で最も硬派なバイク雑誌だったかつてのライダースクラブ。新しい読者も多いだろうが、ライテク記事を求めた層は現在も主流だと思われるからだ。



河村編集長率いるライダースクラブ編集部がフューチャーしたのは、なんと中野真矢氏、青木信篤氏、原田哲也だ。
GPライダー、しかも、原田氏は元250㏄クラス世界チャンピオン。信篤氏、中野氏も、スズキ、ヤマハ・カワサキでMOTOGPへ参戦し、表彰台を含む活躍をしていた記憶も鮮烈だ。




中野氏は毎号、二輪に関わる重要人物たちとの対談を行い、ライテクに関しても毎号、担当を持つ。ライディングパーティーにも毎回参加し、インストラクターを務める。

信篤氏も中野氏と並んで、毎号のライテク特集では、そのライディング理論を披露。
信篤氏は、スズキのMOTOGPマシンの開発を長年手がけてきたこともあり、その速く走らせるための方法論(テクニックというよりも、ストラテジーに近いか)は、根本氏をはじめとした他の二輪ジャーナリストとは内容も、述べ方も一味違う。

信篤氏は、「ライディングパーティー」では「タンデムコークスクリュー」を担当。そう、これは根本健氏の「タンデムジェットコースター」の企画を引き継いだものだ。
レーサーならだれでもできるというものではないこの企画は、信篤氏はまさに適任。信篤氏以外では、辻本聡さんくらいしか思いつかない。




原田氏は、ライテク・レッスンなども展開。
「RIDE HI」でも活躍する原田氏。丁寧で気さくな仕事ぶりは、とても好評のようだ。

昔、根本健という強烈な個性で、唯一無二の高みへ二輪雑誌を引っ張り上げた『ライダースクラブ』。
いい雑誌は、編集長の個性が光っている。
菅生雅文氏の『アウトライダー』、
佐藤康夫氏の『バイカースステーション』。

この新生『ライダースクラブ』は、この人!という『一つの顔』がない。
その代わり、単独でも「顔」になり得る中野氏、信篤氏、原田氏が3人も、活躍する。

そして、例えば2月号の難波恭司氏のような、元ヤマハファクトリーの開発ライダーであり、解析能力がとてつもなく高いゲストのインプレッションに6ページも割くやり方だ。
この原稿がすごいのは、難波氏自身の手による原稿だということだ。
走れて、書ける人というのは、実は希少だ。


そう、新生『ライダースクラブ』は、編集長が表に出ていない。
ひたすら黒子に徹して、面白く、深く、意義深い紙面を作ろうと縦横に駆け巡っている。
へたをするとぶつかり合って両立しなくなる可能性のある、個性の強いスターをフューチャーし、しかも、相乗効果を生みだしながら魅力ある記事に仕上げている。

この多様な個性のぶつかり合い。慣れ合うことなく、しかし、いたずらに否定しあうことなく、強烈で多様な個性が、素晴らしく響きあっているのが、今の『ライダースクラブ』だ。
その指揮者が編集長ということだろう。

実は、僕が考えるに、もう一つ、ライダースクラブが面白くなった大きなファクターがある。
それは、ライターだ。


高橋剛氏である。
中野氏、青木氏、原田氏のインプレッション原稿、インタビュー原稿などは、ほぼすべて高橋剛氏が文章にまとめている。
2年前までのライダースクラブと、現在のライダースクラブで決定的に違うのは、文章の力。
目立たないが、高橋氏の文章の力が、ライダースクラブのこの強烈で多様な個性を、混ぜ合わせて濁らせることなく、懸架させることなく、見事に多様な輝きとして、表現している。

高橋氏もライダーであり、古くからバイク雑誌のライターとして活躍している人だ。
その文体は、掲載される雑誌のコンセプトに合わせ、また、時代に合わせて、硬派から軟派風まで自在に操っていたのが印象的だった。

が、ここにきて、例えば中野氏、青木氏、原田氏の表現のニュアンスの違いを、大げさな言葉に置き換えることなく、むしろ抑制のきいた表現で書き、しかも当人たちの個性を大事にしながら、述べていることの核心を外さないよう、細心の注意を払って書き分けるなど、その文章は円熟味を増している。
しかも、テロップを読まなければ、その原稿が高橋氏のものだとは意識させないほどに、余計な癖を消しつつ、語り手の味を出していくという高みにまで達している。

現在の『ライダースクラブ』と、1980年代初頭の『ライダースクラブ』、どっちが面白いかと訊かれれば、残念ながら昔の方が、はるかに面白いし、今読み返しても、読みごたえがあり、しかも、今日でも発見が多くあり、面白いだけでなく、有益で、刺激を受ける。

しかし、現在の『ライダースクラブ』は、絞り込んだコンセプトの中で、複数のスターをフューチャーしながら個性を殺さずにまとめ上げ、統一したものとして提出するという、高度な「編集」の技が生きている。

紙雑誌が売れなくなり、部数が減っていく中でかけられる予算も少なくなり、かつて二輪誌のような紙面は作りにくくなった。

しかし、『ライダースクラブ』には、深い文化を掘り下げつつ未来へつないでいく希望が見える気がする。

これからも大事に、伸びて行ってほしい雑誌だ。

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