2014年1月13日

「向き変え」と「ため」1

コーナリングを楽しく安全なものにしてくれる「向き変え」という技術。
それは向き変えの前の「ため」とセットで効力を発揮する。
今日はヘヤピンでの「ため」について前のブログ記事の引用です。

(『ライダースクラブ』№83.1985年9月号.23頁より)ホンダGB400、永山育生氏のライド。
前回の「走行ラインとバリエーション」では、一つのコーナーに対してもいろいろなラインがあり、どれが正しいというよりは、どのようなプランでコーナーを駆け抜けていくか、それによってラインは異なり、また、プランは状況によって修正されながら走られるものであり、その結果としてラインは残るものだという話をしました。



その中で、「向き変え」という言葉が出てきました。
「向き変え」は直進時から旋回状態へ、徐々に切り替えるのではなく、一気にスイッチする技術。
コーナーの曲がりはじめを「いつのまにか」とか「あのあたり」ではなく、「ここ」と決められるので、安全マージンを取りやすく、これをマスターすると、ワインディングを走ることが楽になり、楽しくなります。

この「向き変え」もまた、コーナーにより、その強さ、速さを自在にコントロールできるようになれば、ライディングの幅が広がっていきます。

「向き変え」を入れるコーナリング、入れないコーナリング、これも様々ですが、今日は、「ため」の話を右回りのヘヤピンを例にいたします。

実はこれも、以前のブログで書いていたものです。使い回しで申し訳ありませんが、基本の確認をしておきたいと思います。
以下、長い引用です。(『聖地巡礼―バイクライディングin北海道』、「ブラインドコーナーを攻略せよ 右」より。 )



A、Bは見通しがいい場合、C、Dは下りでアクセルを開けると思いの他速度が乗ってしまうので、コーナーの中に何回かブレーキングから向き変えのポイントを取った、お薦めのライン。名づけて「超低速多角形コーナリング」でした。
しかし、その時も書きましたが、田舎道のブラインドコーナーが延々続く道では、メリハリをつけたDラインでの走行が最も安全で結果的に速いことは疑いがありません。
ラインとして一番美しいAラインは、コーナー後半で急に道が回りこんでいたりした場合、破綻するからです。
  
  
しかし、こうもいえます。
実は基本はスピードを押さえてのAライン。
そのAラインで走行中、先で道が回りこんでいるのを発見したら、運任せでさらに旋回するのではなしに、一度車体を立ててブレーキング。道のアウトに寄りつつもさらに減速してもう一度コーナーに進入するようにバンクしなおして向き変え、旋回に入る。
するとラインは、結果的にCラインになり、それをさらに繰り返せばDラインになるのです。
さて、改めてポイントを説明していきましょう。

1 直線部分でより減速。アクセルオンで曲がること。
誰でもコーナーを華麗に駆け抜けていく姿にあこがれます。全然急いでいないふうなのに付いていけないベテランの走り。
それに迫ろうとして速く走らなくてはと思うあまり、全体的に速度を上乗せしてあとは勇気で何とかしようとしてしまう…。
これでは怖くなるばかりで、バイクライディングを楽しめません。
バイクライディングの楽しみ、特にコーナリングの楽しみとは、放っておけば倒れてしまうその傾いた状態でアクセルを開け、後輪の駆動力で旋回加速しながらカタパルトから射出されるようにコーナーを脱出していく、あの駆動感、疾走感だと思います。(もちろんそれだけではないですけれど)
その状態はバイクがとても安定している状態でもあり、安全な状態でもあるのです。
その楽しみを味わうために、コーナー進入ではもうひと減速して、速度を落としておく。カーブに入ってからは加速一辺倒で、コーナー進入前が一番遅いのが安全で気持ちいいコーナリングの基本です。
苦手な右コーナーであるならば、まずはこの基本をしっかり踏まえるところからスタートした方が楽しいし、結果的に速い。

2 ラインはアウト⇒アウト⇒センター。
ラインを決め込まず、Dラインのようにコーナーの中でも臨機応変にするのがいいのですが、そのDラインに至る前の段階での心づもりとして、ラインは一応頭に描いておくべきでしょう。そのラインがブラインドの場合、アウト⇒アウト⇒センターがいいと思います。

(ブラインド右でのライン、アウト⇒アウト⇒センター。) 
ただし、ここでの「アウト」には注意が必要です。
右コーナーのアウト側は道路のヘリ、路肩。そこには砂が浮いていることも多く、また、路面がかまぼこ型の断面をしている場合、逆バンク状態になっていたりして道路の端付近は危険なことが多くあります。
ホントに目一杯アウトに寄らず、少し荒れた部分を回避する感じで外側(この場合は左側)に余裕を持ったラインでアウトから進入します。
さて、アウトから進入したらすぐにセンターに寄って行きたくなるのが人情ですが、ここは我慢して、本格的なバンク、向き変えを控えたまま、今できる旋回の50%くらいの旋回力だけで、ゆるゆるとアウト側をしばらく進みます。
もちろん、このときまで減速を続けるようではいけません。
あくまで、旋回加速に移れるけれどちょっと「ためる」感じで、遅い速度のまま曲がっていきます。

(右側は旋回状態。左側、バンク角が浅い方が旋回のために「ためて」いる状態。
この状態でアウト側をなぞっていく。いつでも旋回に移れるようにしながら 
なぜか。
ブラインドコーナーの向こうで道の外側が崩れていた!とか道に穴が開いていた!とか、道がさらに曲がり込んでいた!という場合、今の状態からさらにグイっと曲がりこんでイン側に逃げなくてはならないことがあるからです。
その時にぎゅっと曲がれるように、本格的な旋回には入らないでおきます。
センターを進む方が道の外側のトラブルから逃げやすいように思えますが、
アウト側を行った方がより先までの見通しが利くため、前方の障害を早く発見できることと、
アウトからセンターに寄るような向き変え、コーナリングを始めてしまうと、「ため」の状態でなく、安定した旋回状態に入ってしまい、そうするとそこからのライン修正には「ため」状態からの修正よりもずっと手間がかかり、さらに本格的な旋回に入ると加速状態にしないとバイクが安定しないので、コーナリング速度が上がってしまい、とっさの危険回避を難しくするからです。
出口が見えてきたら、「ため」の状態から脱出に向けてバイクを倒し、コーナー内側に向けて向き変えをし、本格的な旋回加速に入ります。
結果、立ち上がりでラインがふくらみ、ガードレールに突っ込みそうになることもなく、コーナーの中でセンターラインをカットして対向車線にはみ出すこともなく、アウト⇒アウト⇒センターのラインを描けると言うわけです。

3 フォームはリーンウィズか、ややリーンイン。バンク角は浅く。
このように、ブラインド右コーナーでは、「コーナリング」をするのは、コーナー出口が見えてから。それまではコーナリングの準備段階と割り切って、安全に、ゆっくり、ラインをトレースしていくのがいいと思います。
ブランドコーナーの中の通過速度が時速10㎞違っても、そのために立ち上がり加速ができずにかえって立ち上がりでアクセルを閉じたり、ブレーキをかけたりするよりは、ブラインドはゆっくりやり過ごして、コーナーの先が見えたら旋回加速から脱出加速とつなぐ方が、トータルでは「速い」のです。
そのための準備期間中のコーナリング(?)フォームは、これから倒しこもうとして、そのまま「ため」ている、そんなフォームのままになります。
多くの場合、それはリーンウィズか軽いリーンイン気味のフォームになるはずです。もちろんそうした「ため」を残していれば、リーンアウト気味でもいいわけです。

(上の図、左は直進時。右は旋回時。真ん中が右旋回に向けての「ため」の状態。
この、これから倒すぞという「ため」の状態を維持したまま、若干バイクをバンクさせ、
ブラインドコーナーのアウト側をなぞっていく。)
この「ため」は当然、コーナー出口が見えたときの旋回加速に向けて、または、道が曲がりこんでいたときや、障害物を内側に避けるために旋回半径を小さくする向き変えに向けて、バンク角を浅く保ったまま、待機している状態です。
できれば10~20度以内、倒しても30度以内のバンク角にとどめて、そこからぐいっとバンクして旋回していく余裕を持たせることが大切です。

(『ライダースクラブ』№83.1985年9月号.23頁より)
上の写真、ライダーの永山育生氏は、バンク角を30度以内に収めて右コーナーを旋回中。この写真では前後なサスが沈み、バンク角は浅いままですがアクセルは大きく開けられ、旋回加速に入っていることがわかります。
写真から推測するに、右ブラインドの中速コーナーです。
バイクは既に旋回加速による安定状態に入っていますが、もし、この先で障害物など何かがあったなら、一瞬アクセルを閉じたり、ブレーキをじわっとかけたりして安定状態を瞬時に崩し、同時に車体を起こして減速しつつ外側に逃げることもできるでしょうし、安定状態を崩して深くバンク、向き変えをし直して内側に逃げることもできるでしょう。
ここでの永山氏は先のラインA~Dで言えば、状況によっては即座にラインC、Dにするオプションを確保しつつ、ラインAでコーナーを楽しんでいる。そういう状態なのだと思います。
ライディングの上手さとは、単にバンク角が深いとか、速く走るとかいうものだけではなくて、状況に応じてどれだけ「引き出し」を持っているか、ということだと思います。
何気ないコーナーをゆっくり走っていても、上手い人はしびれるほどに上手いのです。そしてそれを歯を食いしばって頑張っているのではなく、実に状況を楽しみながら走って行きます。
私が公道で目指したいのは、そういう走りです。(『聖地巡礼―バイクライディングin北海道』、「ブラインドコーナーを攻略せよ 右」より。 )

以上、引用でした。

上の記事でフォームは「リーンウィズかややリーンイン」と書きましたが、これも速度や曲率によってリーンアウトでもいいわけです。
大切なのは、どれが正しいと固定的になるのではなく、自分のマシンと、道路の状況と、走行状態からいつもフィードバックして、怖くない速度で走りを積み上げ、自分の引き出しを少しずつ、増やしていくことだと思います。


私は例えば、「たった○○だけで飛躍的に上達」とか、「あっという間に仲間に差をつける」というような方法論を好みません。そうしたコツが自分の状況にヒットして今までとまったく違う世界を見せてくれることは確かにあります。しかし、「それが自分とマシンにとってどういうことなのか」、どのような状況下ではそれは有効で、例外になるのはどういう時か」、「今。目の前のコーナーにそれはどのくらい有効か」などは、やはり自分の経験を積みながら少しずつ上達するしかないのです。
そして何十年たっても、そうした新しい発見が、毎回必ずあるのがバイクライディングのおもしろさです。
加齢とともに反射的な動きや筋力は落ちてきます。体重が変わったり、バイクが変わったり、そうでなくても、路面状況は同じ道でも毎回新しいのです。バイクライディングは必然的に常に新しいことへのチャレンジです。
向き変えのやり方も、ための作り方も、その組み合わせは無限にあり、自分の体調によっても変わります。
自分が今使えるわざの中で、「今」「この」コーナーへのベストをつくす。
失敗したら転倒、運が悪ければ事故。自分だけでなく他人の命をも危険にさらしてしまう公道でのバイクライディングにおいては、安全マージンを保つことは大前提。その枠の中で、いかに無駄な力を抜き、あるいはタイヤに負担を駆けず、またはタイヤの能力を引き出し、または旋回力のコントロールを自在にして、駆けていくか。
そのチャレンジが、少しずつ、自分の限界を広げていきます。
自分の引き出しを増やしていきます。
そうして、少しずつ、自分が分かっていきます。

次回、「向き変え」について、もう少し述べます。

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