2014年1月16日

「向き変え」と「ため」3

コーナリングを楽しく安全なものにしてくれる「向き変え」という技術。
それは向き変えの前の「ため」とセットで効力を発揮する。
今日は再度、「ため」について考えます。


さあ、そろそろ「昔の使い回しで楽すんな!ちゃんと書け!」という声も聞こえてきそうですが…。
すみません、今日も引用行きます。
今日の「ため」は、
「コーナリングの入るのを少し遅らせながら様子を見る」感じ、
または「ゆっくり(スローイン)コーナーに入りながら、向き変え地点を待つ間合い」のような感じです。
まずはまたもやなが~い引用ですが、ご覧ください。

『峠を楽しく9 ポイントDその2「ため」』より、引用です。

今までのお話で、峠のコーナーを安全に楽しく走るには、向き変えを前提としたライン、組み立てがよい、ということを言ってきました。その理由は、 安全マージンが多く取れる。(事故になりにくく、こわさも感じない) 旋回後期からコーナー脱出時のトラクション旋回が気持ちよく安全にできる。なりゆきで走るのではなく、自分の意志でバイクを操作する実感が持てる。などでした。
それが、下の図1のラインです。
図1
Dがブレーキを完全に開放し、バイクをリーンさせる向き変えポイントです。
さて、 具体的に、ポイントDを特定し、向き変えを取り入れた走りを可能とするためには、2つのことが必要となります。
1つは、向き変えを取り入れた走りのイメージを、全体の流れとしてしっかり持つことです。そしてもう1つは、ここぞというところで車体を傾けていく、リーンの方法論です。
運転技術論としては、「リーンのしかた」の方が華やかで、面白いのですが、実は、傾け方は、無理なことをしないように気をつければ、テキトーでも、なんとかなったりする方が多いです。もちろん、安全マージンを削りながらペースアップしていき、タイヤのグリップを使い切る寸前まで追い込んでいくような走りでは、このリーンの方法論は絶対的な重みを持つことになります。だからこそ、この部分はライテクの花形として諸氏が様々な論を張り、ライテクの話題の中心になっています。 本ブログでも、何度かリーンの仕方については取り上げています。この冬も、もう一度、詳しく取り上げるつもりです。
しかし、しかし、方法はどうであれ、最初のうちは、とにかく傾ければそれでいい側面もあるのです。 教習所のS字や8の字の練習の時、またはパイロンスラロームのときにバイクを倒した、そのやり方で、とりあえず倒せば、バイクはそんなにひどいことにはならずにしっかりリーンし、旋回に入っていくれます。
今回は、このライテクの要とも言える「リーン」は敢えて飛ばして、「向き変え」のポイント「Dポイント」の決め方について話を絞ってお話します。
「向き変え」とも呼ばれる、あらかじめ決めたポイントで狙い済まして鋭くリーン、コーナーにカットイン。それの出来る人と出来ない人との違いには、ある共通点があります。
それは、「ため」の有無。
図2
上の図2は前回の記事で取り上げたカーブ。ここで、陥りがちなよくあるパターンと、向き変えする場合とを比べました。下の図3がそのラインを比べたものでした。
赤のラインが向き変えを意識せず、なんとなくコーナーに入ってしまった場合。自分では自然に、滑らかにコーナーに入ったつもりでも、実はコーナーの半径よりも大きな半径で旋回を開始してしまっていたのでした。
図3
対して、青のラインが向き変えを入れたライン。
赤ラインがイン側に入っていくずっと先まで敢えて直進を続け、出来るだけコーナーの奥まで行って、車線幅を十分使うように、あらかじめ定めたリーンのポイント、D地点からコーナリングを開始。車線を横切ってアウトからインへと切り込んでいきます。
この、赤線がインにつくあたりからDポイントまでの間が、リーンする前の、「ため」の区間です。
別の図で見てみましょう。下の図4です。
A区間はブレーキングのはじめ。ごくゆるくブレーキングして荷重を前に移動させ、フロントフォークが縮むのを待ちます。 0コンマ数秒から長くても1秒未満です。 B区間はブレーキング区間。ここで速度を落とします。A区間を持つと、すでにバイクは前荷重で安定していますから、かなりのハードブレーキングが可能です。もちろん、無理にハードに減速する必要はありません。必要に応じて速度を落としていきます。
道のカーブはB区間の終わりから始まっています。 向き変えを意識しないと、ここから道なりにリーンして、コーナリングに入ってしまいますが…、

図4
ここで我慢。 C区間はブレーキを軽く残してそのまま直進しつつ、コーナーに切り込むタイミングを測ります。これが、「ため」。 C区間のためにコーナーの奥までまっすぐ進入でき、しかも軽く減速は続けていますので、「ため」のないときよりも速度が落ち、さらに小さな半径で旋回に入れるようになります。
下の図5にあるように、奥に行くほどコーナーの先が見通せるようになりますから、ここで必要ならばブレーキを再び強めて更に減速することも出来ますし、先が開けたコーナーなら、減速を速めにやめて旋回に切り替えることも可能になります。

図5
先に述べたように、このポイントD、ためたあとの「リーンポイント」(L.P.)で、いかに効率よく、バイクを傾け、同時に向きを変えるかこそが向き変え技術の醍醐味なのですが、今回は、この『「ため」て、倒す』、これがコーナリングの余裕を飛躍的に向上させ、安全度と快走度を増す何よりの方法だというところで留めておきましょう。

(写真は『ライダースクラブ』№91.1986年1月号、96、97頁。根本健氏のライド。)
最後に、「ため」と向き変えのよくわかる例として、『ライダースクラブ』誌、1986年1月号(96、97頁)から、当時の編集長根本健氏のコーナリングアプローチを見てみましょう。
以前も一度御紹介した写真ですが、再度見てみます。マシンはTZR250です。
写真のキャプションには「リーンインへ体を預けるようにもち込む一例」とあります。
左側が「ため」ている場面です。すでに道はカーブに差しかかっています。根本氏はブレーキング開始前に腰を右にずらし、この体勢を作ってからブレーキングにかかっています。この左側の写真、ブレーキランプがまだついていますね。写真からいまだ残っているブレーキングGと、それを支えて腕が突っ張らないようにしている下半身、特に左足のホールドと背筋の支えを想像してください。
車体の向きにも注目してください。このままだとガードレールに突っ込む向きですね。
この写真、ポイントDの位置は、写真の根本氏のヘルメットのすぐ右にあるガードレールの柱、その柱の下の路面に樹の影が差していますよね。その影と、左側の根本氏の右ひざの向いている方向との交点のあたり。そこがポイントDです。
右側の根本氏の写真はすでにブレーキランプは消え、旋回加速状態に入っています。ポイントDで根本氏がしたことは、ブレーキの開放と、減速Gに耐えて体をホールドしていた各所の筋肉の脱力です。すると、それだけでバイクはかくっと倒れながら右に向きを変え旋回状態に入ります。 根本氏は左の写真、「ため」の状態のときもすでに右側に体重移動は終えていましたから、ブレーキ荷重で直進性が高まっていたとはいえ、かすかに右に傾いたバイクはゆるやかな右曲線を描いてはいました。
その荷重が強くかかった状態からブレーキの開放とライダーの脱力が一気に来たのですから、バイクは瞬間的に不安定になり、内側に倒れこむと同時にステアリングが右に切れ、一瞬で旋回状態に入ります。このコーナーは曲がりの浅い中速コーナーだったため、かくっと旋回状態に入って向きが変わった直後、今度はアクセルを開けてリヤに駆動力を与え、その加速荷重で安定性を増してリーンの倒れこみを止めています。
そして右側の写真では、すでに力強いトラクション旋回に入っており、加速しながら更にラインをイン側に入れていくという、バイクならではの旋回加速をしています。
これが、「ため」と向き変えの効果です。この根本氏の走りで注目すべき点は、倒しこむときに、力を入れてねじ込むのでなく、「ため」の間に蓄えたエネルギーを、ブレーキの開放とともに脱力することで解き放ち、それでリーンしている点です。リーンを止めるのも、アクセルで止め、どこかを蹴飛ばしたり、力を込めたりしていません。どこも車体をこじっていないので、タイヤには無理な力が入りません。 無駄な力が込められないので、効率的で無理のない旋回への移行が出来ます。 無駄のない分、タイヤは持てる力を素直に発揮でき、浅いバンク角でも、確実で、素早く、華麗なコーナリングを可能にしているのです。
バイクライディングの奥の深さを思い知らされる連続写真です。
このリーンのマスターこそが、向き変えマスターの目標なのですが、まずは、 「道なりにリーンするのではなくて、一瞬「ため」、道の奥まで行ってから小さく曲がるように走りのイメージを持つ。」そこから始めていくことが、峠を楽しく、安全に快走するためには重要なことだと、私は考えています。
☆注意☆☆☆☆
当ブログの記事は、当ブログ管理人が先達のライテクに学んだことや自分自身の経験から書いたものであり、正しさが保証されているものではありません。また、当ブログと異なる考え方を否定するものでもありません。読んでの判断はあくまで読者の方御自身がなさってください。
また、言うまでもなく、バイクライディングにおいては、ライダーが自己の誇りと責任を持ってライテクを考え、実践すべきものであり、当ブログをお読みになった方の実際のライディング上のあらゆる事態について、当ブログはその責任を負いません。公道では特に気をつけてセイフティライドで。



さて、「ため」については、二つ前の記事『「向き変え」と「ため」1』をもう一度お読みいただければと思います。

左が「ため」の状態。右が旋回状態。

もちろん、この「ため」と「旋回状態」もデジタルに二つだけあるのではなく、両者の間には中間的なバランスが無数にあります。
また、直進からバイクを倒していく速度、
フルブレーキからブレーキを解放していく過程、ゆるめる速度も、
瞬間的に切り替えることもあれば、1秒~数秒かけるときもあり、道、速度、バイクの姿勢など、非常に多くの要素によってその都度バランスを選びながら運転しています。

いちいちすべてを言語化し、理詰めで走るのではないのですが、そうしたバランスは、誰でも感じられるものです。
向き変えをする、しないではなく、
コーナーに対してどんなアプローチをするのか、トータルでのイメージがあるか、そこから変更のオプションをいくつ持っているか、引き出しを増やしつつ、常に安全マージンを大きくとりながら自分の操作の結果をフィードバックしていく。それをもとに、さらにバイクに働きかけていく。

そうしたスパイラルが限りなく楽しい、バイクライディングです。

0 件のコメント:

コメントを投稿