いったい、速いのか。
それとも、遅いのか。
そんなことが気になる方もいるかもしれません。
レーシングライダーの伊丹氏は、雑誌『ライダースクラブ』の連載の中でV7カフェクラシックを担当し、実際にレースに出て、曲がらないし、パワーもあと1.5倍ほどあれば、勝負になっただろうと述べていました。
V7カフェクラシックのパワーは日本仕様で40ps。
ドゥカティとかを相手にするのですから、サーキットではこれは確かにアンダーパワーでしょう。
またフルバンクで旋回するも、ラインが内側へ入ってくれないことに悲哀をかんじてもいたようでした。
根本健氏のように、1972年型のV7スポーツをフルチューンしてデイトナで走らせる(最高速は270km/h以上)となると、これは、別世界の速さということができるでしょう。潜在能力はあるわけです。
では、ノーマルで公道ではどうか。
雑誌『バイカーズステーション』誌の佐藤編集長は、十分速いと言っていました。
1000ccクラス、150ps以上のマシンも、例えばヘヤピンで全開にはとてもできない。
狭くきついカーブの続く日本の峠道では、最新のスーパースポーツは持てる力の半分も発揮できない。せいぜい使えて40psぐらいだから、それならV7クラシックは全開で追える、というのでした。
同じペースで峠を走っても、片やタイヤのグリップと相談しながら、探りながらそろそろと開けていくことしかできず、片や全開でマシンの力を解放しながら走るのでは、楽しさはV7の方が勝っている、というのが、『バイカーズステーション』の言い分です。
V7のコーナリング速度自体は、決して遅い方ではなく、箱根付近のいつもの撮影コーナーで、新しいV7(50ps)で走る小澤氏(『OZAWA R&D』の代表にして元レーシングライダー)にカメラマンが「速かったですよ」と言ったというのですから、最高速や、加速度に関してはそれほどではなくても、峠のトータルではかなりイケるマシンであるようです。
僕自身、まだV7の旋回力を十分に解放した走りはできていませんが、例えばGPZなら40度くらい傾けて、だいたい法定速度くらいのスピードで旋回していく回り込んだコーナーでも、V7は、同じようなバンク角なら速度はあと10km/h程度速くなってしまいます。
左の写真は去年の6月9日、ニセコ近辺の道で馴らしの運転をしていた時のものですが、タイヤの両端を少し残すようなバンク角、速度域、荷重域で走った場合、そのコーナー通過速度は、GPZ1100に比べると、平均して5~10km/hほど高くなる傾向にありました。
この状態でも車体はどこも接地せず、バンク角はたぶん30度くらいから40度くらいの範囲で旋回していたはずです。
フルトラクションでの旋回はこの時は試していませんが、コーナーで遅いバイクではない、ということはまず、言えます。
でも、ただ通過速度が速いだけだと、別に楽しくはありません。
V7の場合、コーナリングにかなりの楽しさがあります。
それは、V7の場合、確かに限界バンク角で速度に乗って旋回状態に入ってしまうと、意外と安定性重視のハンドリングでフロントがややアンダーステア傾向になり、旋回半径を小さくすることは難しくなりますが、バンク角に余裕がある場合、フル旋回に入っていない場合などには、道の先を見てとっさにラインを内側に入れるとか、外側にずらすとか、そうしたことが右手のアクセル操作でかなりできるという、そういう楽しさです。
同じバンク角からでも、ライダーの荷重を内側にさらに積極的に落とし込むと同時にアクセルを開けてやると、V7はそこからしゅっと内側に向きを変え、ビートに乗って路面を蹴り出しながら旋回を強めていきます。
最高出力は6200rpmで50psですが、2速、6000rpmでほぼフルバンクの状態でも、V7は全開を許します。(もちろん、路面状況によります。)
GPZで2速でフルバンク、9000rpmでいきなり全開にしたら、どこかへ吹っ飛んでしまったでしょう。
そのV7の全開も、開度ゼロから全開に至るまでの途中途中で、その開け方によって力の出方に表情があり、右手のひねり方次第で、カーブを如何に抜けていくか、ということをコントロールできる、その幅の広さは、GPZ1100をはるかにしのぐものがあります。
滑らかに開けていくもよし、ある程度の回転数、アクセル開度からならばいきなり全開にして、ストッパーに当て、そのままエンジンが吹け上がって来るわずかの間を「待つ」という楽しみ方もできます。これもGPZではできなかったことです。
また、最大トルク、60Nmを2800rpmという低い回転数で発揮するので、2500rpmとか、3000rpmとかの低い回転数から、コーナーに入って、そこから1/4開度とか、ぱっとアクセルを開けた時のその反応が、アクセルにエンジン、または後輪までが直結しているような感じで、ぱっと付いてくれる、その信頼感は、コーナーに飛び込むときの精神的ストレスをかなり小さくしてくれます。
絶対制動力は超強力とまでは言えないものの、扱いやすいフロントブレーキと合わせて、コーナーに入れてしまえば、なんとかできる感覚が、V7にはあるのです。
もちろん、過信は命取りになります。あくまで安全マージンを大きく取り、そのマージンの中で、いかに自在にマシンを導くかを、コーナーごとに楽しみ、トライすることができるのです。
高速道路で速度が3ケタに乗るくらいまでなら、加速性能もそんなに劣るわけではありません。
軽い車体を力強く蹴り出す力で、V7はワインディングをかなり速いリズムでダンスできるのです。
V7のクランクは縦置き。
ジャイロ効果はリーン方向に関しては高回転まで回しても、意外なほどに軽さを保ちます。
しかし、ヨー方向に関しては、弾丸が回転して直進性を保つように、エンジンが回るほどに安定感が強くなります。
モトグッチが昔から超高速巡航が得意で、まさしく弾丸のようにまっすぐ走って行く、というのは、この縦置きクランクの特性も大きくものを言っているのでした。
従って、直進からリーンでコーナーに入っていくときも、横置きクランクのインラインフォーエンジンとは趣が違います。
GPZ1100の場合、エンジン全体の塊の重量を股下に感じましたが、V7の場合は、後輪の接地点からクランク中央をとおるような、縦長の「軸」の存在を感じます。
この軸を、バイクを傾けるにつれ、ただ直進しながらバイクを素早く寝かせるのではなく、軸をヨー回転させながらロールしていく感じで倒していくことができれば、かなりコ―ナー初期でラインの自在さが広がります。
それには、今時の前荷重乗りではだめで、この車体のディメンジョンが最初からそうなっているように、後輪主体の、リヤタイヤに舵を切らせていくような、「古典的リヤステア」が最も適した乗り方です。
フロントの舵角を如何に入れるか…などには気を使わず、後輪と車体で方向性を決め、前輪はそれにあくまで追随して転がってくるように乗る。
それがV7のコーナリングの醍醐味のようです。
再掲したこの写真、和歌山氏はシートのベルトにお尻が触れるくらいに腰を引いて着座、アクセルが大きく開けば、ライダーの荷重はそのまま後輪にかかっていくように乗っています。
今、右手はブレーキレバーから離れてこれから開けていくところ。
その段階では、特にフロント荷重を大きくしようとしているわけではないのですが、コーナリングGによって前後サスが相応に沈んでいます。
前後のタイヤグリップを十分に生かしつつ、しかし不自然な無理は強いることなく、華麗にかけていきます。
和歌山氏は荷重の受け渡しが非常に美しく、メリハリが効いて、バイクの特性を生かしたライディングをすることで定評があります。
こんなふうに走ってもらえたら、V7もとてもうれしいことでしょう。
ということで、V7、峠の快走能力、そのポテンシャルは相当に高いと言えるようです。
後は、自分で、安全に、一歩ずつ、決して一足飛びにしないで、少しずつその可能性を試して行けばいいのですね。
こんシーズン、少しずつ、ゆきかぜ号の走りを詰めて行きたいと思っています。
樹生さん、お身体の具合はいかがですか。
返信削除仕事をしていると、どうしても無理をせざるを得ないことはありますが、大事になさってくださいね。
今回の記事も興味深く読ませていただいています。
パワー特性やエンジン形式、車体の構成からくるコーナリング能力(コーナリング快感能力?)の高さは、MOTO GUZZIがそれたる所以ですね。
僕のsportにも似たところがあるので、樹生さんの記事を拝見して、お気に入りの山道を走っているかのような気分になっていますヨ^^
Hiroshi Mutoさん、こんにちは。
削除ありがとうございます。風邪は抜けたようです。
大事にしたいと思います。
それにしても、一番上の写真の伊丹氏、2番目の和歌山氏。
ポジションは違うのですが、二人とも美しいですよね!
こんなふうに走らせたい!と、思う私です。ああ、練習したい!
ポジションに関するパーツにも興味が尽きないこの頃です。
先立つものが問題なのですが^^;、カスタムも視野に、ゆきかぜと走って行きますよ!
楽しく、たまに・・・極たまにヒヤッと・・・
返信削除これが、「ツーリング・ワインディング」の楽しみ方じゃないかなあ と思います。
tkjさん、こんにちは。
削除サーキットと違い、初体験の道も多いツーリング。
ワインディングでは先を読む力、そして読みが外れても、安全に的確に対応できる力が必要とされ、
それはやはり、経験がものをいう世界でもあります。
楽しく、上手く、なっていきたいです。