2018年6月6日

遠くへ。3

神居古潭を出て、国道12号を行き、旭川市の市街地を大きく迂回するバイパスに入った。
まだ7時台。空いているバイパスは、車が80km/h程度で流れている。
道路状況に合わせた運転をしている中、信号が近くで二つ並んでいる、交差点が立て続けに二つあるところに差し掛かった。
うっかりした僕は、これは一つの交差点で、前の信号は予告信号のようなものだと、ぼんやり、思っていたのだ。
しかし、近づいてみると、それぞれが交差点であることが分かった。
減速はまだ先だと思っていた僕は、恥ずかしながら気を抜いていた。
信号は赤に変わった。
あっ、ここも交差点か!!
と気づいて、後ろに車のないのは確認済みだったので、思わず、急ブレーキをかけてしまったのだ。

すると、一瞬でフロントがロック。
キュッ!と嫌な音がして、フロントが左に切れ込もうとする。
僕のV7ゆきかぜ号は、2013年モデル(正確にはイタリヤで2012年モデル)。
まだABSはついていない。
とっさに右手を緩める。
直後、タイヤは回転を回復。車体は倒れることなく直進状態に戻った。
そこから改めてブレーキング。今度は慎重に強く。
結果、停止線にちゃんと止まれたのだが、少し肝を冷やした。

驚きのひとつはまさかロックするとは思っていなかったこと。
新品に履き替えたばかりのタイヤだが、ここまで130km以上走って来たのだ。その直進部分―つまりタイヤのセンター部分はさすがにひげもだいぶ取れて、もう滑りにくくなっていてもいいはずだった。
さらに、かつて一度も、ゆきかぜ号でフロントロックまで持ち込むブレーキングをしていなかったから(直前まで追い込んだことはあったが)、ここで「簡単に」ロックするとは考えていなかった。
もう一つ言えば、パニックブレーキに近いとはいえ、僕はレバーに指2本しか掛けていない
ので、シングルディスクのV7にそこまでのストッピングパワーがあるとは思っていなかったから。
2018/6/3 7:40 旭川市、郊外国道40号。
しかし、原因もはっきりしている。
それは半分パニック状態でブレーキを掛けたので、なにもない状態からいきなりギュッとかけてしまったことが原因だ。
今まで、僕はもっと強いブレーキングは何度もしてきた。それでも一回もロックしなかったのは、かけはじめをじわっとかけていたからだ。俗にいう「二段掛け」というやつだ。
始めにごく短い時間、弱くじわっと掛け、それでパッドがディスクに食いつく感覚を確かめ、同時に荷重前に移って、フロントフォークが沈むのを待つ。そしてフロントタイヤに十分荷重がかかってから、2段目のブレーキング、ぎゅうううううっっと、締め上げて減速する。
この一段目にかかる時間は、1秒もなく、たぶん、0.5秒もかかっていないと思うのだが、それでもフォークが沈み、荷重が前にかかってフロントタイヤが路面に強く押し付けられる状態になるまで待つことが重要なのだ。
これによって、クルージング時よりもはるかに高いグリップ力を、フロントタイヤは発揮する。
それを、
今回いきなり強くレバーを引いてしまったので、タイヤが路面押し付けられる前、グリップ力が上がる前に、ブレーキ入力はフロントホイールの回転だけを停めてしまったのだ。

ためしてみるとわかるのだが、例えばセンタースタンドを立てた状態で、バイクの前方にしゃがみ、フロントタイヤを回転させようとすると、意外と軽くタイヤが地面をこすりながらも回すことができる。これは、センタースタンドで立った状態でも、フロントタイヤに殆ど荷重がかかっていないからだ。タイヤのグリップ力は、タイヤにかかっている荷重によって大きく左右される。

今回は、いきなりで、グリップ力が高まる前に回転が止められてしまったというわけだ。

2018/6/3 7:48 石狩川を渡る。
今回、不注意だったが、幸いに転倒することもなく、無事止まれた。
わかったことはいくつかある。

1 ゆきかぜ号(V7)のブレーキ能力は、街中のバイパスの速い流れ程度の速度からなら、いきなりなら二本指掛けのレバー操作で簡単にロックに持ち込めるほど、絶対能力は高い。

2 荷重が前にしっかりかかっていないと、比較的簡単にロックする。V7はパニックブレーキは避けた方がよい。

3 交換したばかりのメッツラーの新しいレーザーテック、フロントは、今回ロックしたものの、これもまだ新品の馴らしが進んでいなかったとも考えられる。タイヤ交換後、パーツクリーナーを用いて、タイヤ製造時の型からの剥離剤(これが新品タイヤがすべる要因の大きなひとつ)を拭き取ることも手だが、そこまでしないまでも、タイヤもまた馴らし運転は必要だという認識を、改めて持った方がよい。
(この後の走りでフロントが滑りやすいとか、不安定とかいうことは全然なかった。)

4 今回、フロントがロックしたが、とっさにブレーキを緩めると、フロントホイールは回転を回復し、車体も立ち直って転倒を避けることができた。
以前の愛車、GPZ1100でなら転倒していたことだろう。
その違いは、車重、車体の重心位置、そして、フロントタイヤの径も関係しているだろう。GPZ1100は17インチ。V7は18インチ。やはり大きな径の方が、ロックからの挙動が緩やかで、その分対処する時間的余裕ができたと考えられる。

バイクのブレーキ、車体などに関することはこのくらいだ。
2018/6/3 7:58 愛別付近 正面に雪を戴いた大雪の山が霞んで。
一方でライダーとしては、
1 油断だった。
北海道には道路行政で不思議なものが時折ある。(例えば、同じような道幅の十字の交差点で、東西方向には信号機があり、青信号がともっているのに、南北方向には信号機すらない(!!)という道。…さすがにもうそんな道は消えただろうか。20年前、帯広市内であったのだ。)
今回のダブル信号に見える、直近二重交差点も、まあ変わっていると言えば変わっているが、これは通常の範囲とも言え、明らかに油断していた僕が悪い。気を引き締めなくてはならない。いつも緊張しきっていてはへとへとになって走れないし、緊張しきるとかえって危険発見が遅れたりする。リラックスしていながら、油断してはいない状態がベストなのだ。それをできるだけキープできるように心がけよう。

2 意外と身体が覚えていた。
これは運がいいというべきだが、フロントロックからブレーキを緩め、またかけ直して停止するのは、考えてやったのではなく、反射的にそうしていたもので、これは、若かった頃の練習を今でも体が覚えていたからだろう。
前項の油断とは矛盾するようだが、いつでもロックはあり得るという構えが、心のどこかでキープできていたから対応できたともいえる。
やはり、練習は大事だった。今後も無理ない範囲で、意識的な練習はしていこう。
安全へ向けてのスキルの維持は、これから50代後半、さらに60代に向けて、バイクで走り続けるための課題となっていくだろう。

2018/6/3 8:17 層雲峡が近い。柱状節理の崖がせり出している。
3 意外とどきどきしていない。
そういえば、20代の頃は、「ひやり」や「はっと」が多くあった。
それは、交差点での対抗する4輪車との関係だったり、同じく交差点で右側車線から左折して直進する自分が巻き込まれそうになったり、恥ずかしい話をすると、追い抜きで対向車との距離を読み間違い、結構きわどいタイミングになってしまったり、また、眠気が襲い、瞬間居眠りをしていたこともあった。
だんだん、走行中のそうしたどきどき、バクバク体験は減っていったが、この5年くらいはほとんどない。(いや、ゆきかぜで立ちごけした時は結構落ち込んだ。)
今回は、結構危険なレベルであり、猛省しなくてはならないのだが、意外と状況を把握し、落ち込みながらも、冷静で、どきどき来ていない自分がいた。
ロックさせていまったものの、躊躇なくブレーキを引けたのも、前後左右の状況を把握していたからできたので、(特に後方からのブレーキング時の追突は注意が必要だ。)ロックから回復してからは停止線までに止まれることに確信があった。
時の流れとともに失うものも多いのだか、蓄積され、自分の力となった経験も、まあそこそこにはあるということだろうか。
しかし、慢心しないように、引き締めていかなければならない。
2018/6/3 8:31 層雲峡温泉のセブンイレブンで休憩。
チーズバーガーとレギュラーコーヒー。

なんだかんだで、ただ、車の流れに乗り、国道39号を流して、
層雲峡温泉街の入り口についた。
ここでまた休憩を入れる。
疲れがたまらないように、肩と腰の凝り、痛みがこないように、こまめにバイクを降り、少しだけあるき、少しずつ食事を摂る。
ただ長く走るときの、最近のスタイルだ。

これは、ツーリングとしては貧しいあり方かもしれない。
2018/6/3 8:31 チーズバーガーとレギュラーコーヒー。
でも、ただ走ること、遠くへ行くことを優先させるバイクの走りというものも、
また、僕の中では大切なひとつのジャンルとして存在しているのだ。
2018/6/3 8:42 層雲峡温泉
目的の地まで、予定ではあと20分。
これはぎりぎりかもしれないが、遅れてもいいのだ。
約束などしていない。ただの気まぐれで決めた目的地。
なんとなく予想した到達時刻。
それだけなのだから。

奇岩の続く、層雲峡温泉街を駆け抜け、石狩川をさかのぼっていく。
(つづく)

6 件のコメント:

  1. 転倒なくてホッとしました。(^^)

    返信削除
    返信
    1. シモヤンブルースさん、こんにちは。
      転ばなくて幸いでした。
      運が味方してくれたことを
      ちゃんと胸に刻まなくちゃと思います。
      今回はセーフで、ラッキーでした。

      削除
  2. 危なかったですね。
    和休もDJEBEL200のとき、対向車線の右折車が和休との距離を見誤り、危ないタイミングで右折を開始したことがあります。
    幸い、向こうがすぐ止まってくれたので、大事には至りませんでしたが。
    タイヤはオンロード向けのものを履いていたのですが、とっさにブレーキを掛けたら、あっさりロック。DJEBEL200じゃなかったら転倒していたかもしれません。

    層雲峡温泉。かつてGPZ1100で北海道を訪れたことを思い出します。

    返信削除
    返信
    1. 和休さん、こんにちは。
      ありがとうございます。
      運よく事なきを得ました。

      交差点での右直事故、典型的なバイクと車がぶつかるシーンですね。
      ぶつからなくてよかった。
      やはり誰でもそのような経験を、持っているのかもしれませんね。

      和休さん、5代目旅馬で、またぜひ北海道へお越しください。


      削除
  3. 油断、そして意外と身体が覚えていた、、、経験あります。

    sportで山間の直線路。対向車がコンビニに入ろうとして、いきなり右折。
    僕はフルブレーキングをしながら、対向車のアウト側に回避。
    フロントを軸に車体が暴れまくるほどのパニックブレーキでしたが、幸い転んだりする事なく立て直すことができ、本当にラッキーでした。
    対向の二輪車のスピード感はサンデードライバーには判断しにくいのですが、向こうを責めてもこちらが怪我をしては意味ありません。もっと用心すべきだったかも知れません。
    それにしても、かなり車体が振られたにもかかわらず、よくぞ無駄な力を入れずに、よくぞロック手前でブレーキ抜いて、、、対応できたものだと思います。考えながらやっている訳ではありませんでしたので。
    何年も前ですが、かなり危険な状態。リカバーできたからといって誇れるものではありません。
    無理のない範囲で、意識した練習。
    私にとっても、これからもテーマの一つになりそうです。

    返信削除
    返信
    1. Hiroshi Mutoさん、こんにちは。
      右直事故、やはり多いようですね。

       「向こうを責めてもこちらが怪我をしては意味ありません。」

      本当にそうだと思います。
      正しくても、正しさの上に胡坐をかいてはいけないと。

      我々世代も、若い頃、自己をする人が多くいましたが、
      (私もその一人でした><)
      同時に、原付、中型、限定解除と、ステップアップする風潮もあり、
      (…というか、なかなか大型には乗れず)
      大型バイクに乗る前に、だいぶスキルを磨いていることが多かったと思うのですが、

      最近は馬力も上がり、タイヤも進歩し、ABSもついて、
      かなりデバイスに助けてもらいながら、バイクライフを楽しめるようになりました。

      今回転倒しませんでしたが、初めて「ABSもありなのか……」と思いました。
      安全スキルの向上、ずっと意識していきたいです。

      削除