写真出典はMotoGPオフィシャルサイトより。以下同です。 |
苛烈な減速Gに耐えながら左コーナーへの進入ラインを探り、ゼッケン53、ティト・ラバト選手のインを指そうという、ゼッケン25マーヴェリック・ビニャーレス選手。ビニャーレスは内足外しをしています。かれの表情、前方(おそらくターンインポイント)に向けた視線の鋭さが、このブレーキングの凄まじさを物語っています。
(写真をクリックすると拡大します。ぜひ、ビニャーレスの鬼気迫る表情をご覧ください。)
それほどの苛烈なシーンが、MotoGPのブレーキングシーンなのです。
この減速Gを、どこで、どうやって受け止めているのでしょうか。
ゼッケン04、アンドレア・ドヴィチオーゾ選手。
左コーナーに向けてブレーキング、内足はずしを始めたところか、終えてステップに足を戻すところか、どちらかは判然としませんが、ステップから足が外れていますね。
フロントタイヤがつぶれ、リヤタイヤは浮き上がり、全身に漲る力感は、いかに減速Gが強いものかを物語っています。
彼の体にかかるGを受け止めているのは、グリップを握る両手、タンクに当てた右腿の内側、シートにかかっている尻、ステップホルダーに押し当てたかかと、ステップを前方に蹴るように入力している右足裏の6点です。
もっとも大きく荷重がかかっているのは、タンクに当てた内ももの部分です。
前回も出した写真です。ゼッケン99、ホルヘ・ロレンソ選手のブレーキング。
ここで彼が荷重を受け止めているのは、両手、右足内腿、シートにかかっている尻、右足踵、右足裏、イン側左足裏の6か所。(彼は内足外しを原則しません。)
ここでも内腿に最大の荷重がかかっています。…というよりも、そこで最大荷重を受け止めるように背筋、腹筋など、全身を使って姿勢を保持しないと、前に突き出している両手にかかる荷重が大きすぎ、レースディスタンスでは、腕が持たなくなってしまいます。
ブレーキングによって前へ飛び出そうとする体の荷重をタンクに当てた内腿で受け止める。
極端な言い方をすれば、外側の腿の内側面だけで、バイクに張り付いている状態に近く持っていくのがMotoGPのブレーキングシーンの代表的なものと言えます。
そこで、タンクとライダーとの接点は非常に重要になってくるのです。
2018年イタリアグランプリ。ドゥカティがワンツー決めたレース。
レース後の優勝した99番、ロレンソのマシンと、2位の04ドヴィチオーゾのマシン。
同じドゥカティですが、フロントカウル、エアロパーツの形状も違いますし、シート形状もだいぶ違いますね。そしてタンク後部の形状も違います。ロレンソは、タンク形状の改善によって、レース中の腕上がりが軽減されたと言っています。
つまり、内腿で荷重を受け止めやすくなったために、腕への負担が減ったのです。
99と04では、タンク後部に張った滑り止めの面積も形状も、素材も違います。
それぞれのライダーの走りに合わせて、ライダーの要求により、いろいろ変えられているわけです。
では、このタンクにどのように内腿が当たるのか。
これはその一戦後、スペインGP、バルセロナ・カタルニアサーキットでのライディングシーン。この写真はフルバンクでの旋回加速に入っていますが、タンクと内腿の関係が分かりやすいアングルです。
この内腿の角度にフィットするように、そして押し付けられた内腿が前に滑りずれないように、イボイボのパッドが貼られていました。
タンクの腿を当てる部分は、腿を当てると上部がひさしのように少し張り出していて、荷重で上方へずれて外れてしまわないような形状になっています。上の写真で太ももがタンクに食い込んでいるように見えるのはそのせいです。今は体を前方向に押し付ける力は働いていませんから、腿が押し付けられて食い込んでいるのではないのです。
お尻は若干イン側に載っていますが、殆どシートから外れています。
ライダー一人ひとり、ここの形状は違います。
2018イタリアグランプリ、ヴァレンティーノ・ロッシ選手のマシンのタック形状を見てください。
タンクの腿を当てる部分の上がひさしのように張り出しているのがよくわかります。
こうして、マシン自体が、ライダーが内腿で荷重に耐えるのに適するようにできているのです。
ロッシ選手のフルブレーキング。(レッドブルサーキット、イスパニア)
フロントサスペンションはフルボトムし、カウルとフロントフェンダーはもう接しています。
リヤタイヤはかすかに浮き上がっています。
外側の左足、両手、低く構えた上体の背筋腹筋、全身に力感が漲っています。外した右足を除けば。ここにキーがあると指摘する人もいます。
この写真からも、荷重の中心がロッシの左内腿であることは、うかがえるかと思います。
まとめますと、
1 MotoGPのブレーキングシーンにおける減速Gはすさまじく、レースディスタンスを走り切るには、できるだけ腕に負担をかけたくない。
2 そのため、全身の荷重は、極力下半身で受け止めたい。現在のGPでは、ブレーキングにおいて、身体をイン側に予めオフセットするしており、荷重の大半を、タンクに当てた外側足の内腿で支えることが多い。
3 それでも減速Gの大きさから、両腕など、全身に力を込めて荷重に耐えねばならなず、ライダーの全身に筋肉の緊張が感じられるほどに、ブレーキング時のライダーの写真には力感が漲っている。
4 ただ、外した内足だけは、そんなに力が入っていない。
このことがヒントになりそうです。
(また、間が空いて、考察は続きます。)
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