2020年6月29日

逆操舵再び(1)

動画『RIDE?』で片山敬済氏が推奨している「プッシングリーン」。
右に傾けたいとき、右側(内側)のハンドルバーを前にじわっと押す。
左に傾けたいとき、左側(内側)のハンドルバーを前にじわっと押す。
ハンドルバーを押したとき、一瞬、ハンドルは曲がりたい方向と逆向きを向きます。
「イン側のハンドルバーを前に押す」この操作を、逆操舵と言います。
このあたりのおさらいは、
『逆操舵再び(0)』と、その中で紹介している過去のライテク記事を参考になさってください。
さて、今日は、片山氏が推奨している意図について、素人のくせに勝手に想像してみたいと思います。
(文字だけの記事です。)


まず、片山氏の推奨している動画(『逆操舵再び(0)』)でわかるのは、
公道で制限速度内、40㎞/hとか、それくらいでやっているということです。
そして、バンク角も浅い。
通常のツーリングペースで、ゆっくり走りながら、右へ左へのワインディングで、内側のハンドルバーをゆっくり、じわっと押し込むことでバイクが傾き、旋回よりも先にバイクが先に傾くので、自然とリーンアウトになって、そこで体がほぼまっすぐ、バイクが傾いた状態でハンドルからじわりと内側を押す力を抜いていってハンドルが内側に切れ、バランスして旋回していっています。

この動画のポイントは
1 ゆっくりの速度
2 浅いバンク角
3 進歩したタイヤ・車体

だと思われます。
この3つが揃ったので、片山氏は、初心者からベテランまで、みんなにこの「プッシングリーン」を推奨しているのだと思います。
さて、そのココロは…

1 ゆっくりの速度。

逆操舵は、本当に体重移動やステップ荷重、タンクを外側膝で押すなどと比べると、要領が簡単です。

他のは結構意識すると難しい面もあるのです。
内側ステップ荷重は、例えば着座して直進するつもりのまま、思い切りステップを踏みこんだところで、バイクは傾きません。
膝で押し込む方法も、他の方法とセットでなければうまく行かないことが多いです。

その点、逆操舵は、ハンドルバーを押せばよい。他は何もしなくても、バイクは倒れてくれます。
だから「簡単」であり、また、「意識して操作しやすい」のです。力加減も手なので、加減しやすい。

ただ、片山氏が推奨している環境は、一般ライダーのツーリングペースでのことだと思われます。

この逆操舵、バイクが安定傾向にあると、手ごたえが重くなってきます。
単純に速度が高くなるほど、押し舵は重く、簡単には倒れなくなる。
いつも低速でやっていたつもりで、あまり考えずに前の人について行ってかなり速い速度にしらずになってしまい、さあちょっときつめのカーブ…という時に、いつもの要領で逆操舵かけようとしても重い手応え、傾いてもすぐには始まらない旋回…あっ、と思ったときには恐怖で体が硬くなり、そのままセンターラインを越えて…ということになりかねない。

高速域でも確かに効きますが、それなりの重さがあり、どんな速度の時にどれくらい重くなっているかを経験から身に沁み込ませている必要があります。
万能ではないのです。

でも、制限速度を守ったり、車列についていくくらいの低速域なら、じわっと押すだけでまず変な時間差など感じないままに倒れて旋回が始まるので、危険性はあまりなく、安心して曲がれて行きます。

ポイントの一つ目は、ゆっくりの速度です。


2 浅いバンク角

ふたつめは、浅いバンク角です。
逆操舵は、バンク角が深くなります。自然状態よりも舵角を押さえているためです。
(詳しい説明は長くなるので省きます。)
だから、遅い速度で、深々とリーンしない「つもり」の時の逆操舵がいいのです。
逆操舵(だけをした)時は、旋回よりも先にリーンが始まるので、自然と直立している上体を取り残すようにしてバイクが先に倒れ、リーンアウトになります。
身体が立って重心が外にあるので、思ったよりもバイク車体のバンク角は深くなっています。

元々深々とリーンしてタイヤエッジを使って旋回していくような場面でさらに逆操舵を加えるのは、相応にデリケートな操作になります。
片山氏が推奨しているのは、動画にでるような、総体的なバンク角としては浅い部類でのものだとわかります。


3 進歩したタイヤ・車体

今と1980年代では、とにかくタイヤが変わりました。
ロープロファイルで太いラジアルタイヤになった等の見た目の変化も大きいですが、私のV7のように、昔ながらのハイトの高いバイアスタイヤでも、内部構造やタイヤコンパウンドの組成・性能は大幅に変わっています。
昔に比べ、グリップ力が比較にならないくらい上がっています。
また、グリップしている状態からいきなりズバッとブレイクしない。
絶対的グリップ力だけでなく、過渡特性まで分かりやすく、以前に比べるとしなやかで強靭なタイヤになってきています。
だから、多少こじるような入力をしても、速度が遅く、バンク角が浅いなら、ほとんどの場合、余裕がある。
昔よりも逆操舵を許容する能略が上がっているのです。

また、車体設計も大きく変化。
特にフロント周りの剛性はかなり上がっています。
剛性が高ければいいというものではなく、「しなり」をコントロールするところまで、車体設計は進んでいますが、単純にフロントフォークの径だけ見てみても、昔に比べて相当に太くなっている。
その太くなったフォークを保持するステアリングヘッド周りの剛性もかなり高く、大きな入力に耐える設計になってきています。
これは、コーナリング能力だけでなく、ブレーキ性能や加速性能などの上昇により、耐えるべき荷重が大きくなったことも起因しています。

つまり、多少こじるような逆操舵の入力をしても、車体側がそれを許容する幅が以前よりも大きくなっているのです。


以上、この3点が揃うと、逆操舵のデメリットがあまり出ない。
分かりやすく、効果が明確な逆操舵を使いやすい状況が揃ったので、片山氏は広く逆操舵を奨めるようになったのではないか。

そんなふうに考えています。

つまり、この3点下の状況では、逆操舵を嫌う理由は見つからない、ということです。
では、全面的に推奨するか、と言われると、
それはそうもいかない…というのが、いまのところ、私の意見です。

それはどういうことか……、この項、もう少し続けます。

2 件のコメント:

  1. 納得です^^
    町乗りとか、Uターンや交差点の小回りにはリーンアウトは適していると思います。
    内側のハンドルを押すと押した側に車体は倒れ、ハンドルを押した反力で自分の体はアウト側に残る。
    みんな無意識のうちにやっていることですよね。
    では町乗りよりもスピードが乗った時は?片山さんがサーキットもリーンアウトとおっしゃる真意は?
    続きを楽しみにしています^^

    返信削除
    返信
    1. ダンボ1号さん、こんにちは。
      スピードが乗った時のこと、次の記事に書いてみましたので、どうぞご覧ください。

      さて、片山氏のプッシングリーンでは、ハンドルを押す手は、ゆっくり、少し、押し込む程度なので、その反力で上体が残るほどの入力はしません。
      ほんの「小手先」ですーっと押す。
      時速30km、40kmくらいなら、これだけで素早く十分に倒れてきます。(これが60kmだと、すでに手ごたえと傾き方が変化してきています)

      このリーンアウトは、車体が勝手にイン側へ倒れたので、上体が「立ったまま取り残されて」なってしまうもの、と言った方がしっくりくるのではないかと、私は考えています。

      …といっても、ただの素人の考えですけど。
      どうぞ次回記事もお読みください。

      削除