2020年6月30日

逆操舵再び(2)

写真出典は『ライダースクラブ』№63 1983年9月号133頁 坪内隆直氏撮影
プッシングリーンとリーンアウト。
これがレーシングテクニックであり、レースでも基本リーンアウトであると片山敬済氏は言いましたが、これはどういうことなのか。
もう少し考えてみましょう。



前回お話したのは、プッシングリーン(=逆操舵)を片山氏が広く推奨するのは、
1低速、
2浅いバンク角、
3タイヤ車体の進歩、
の3つの条件がそろった場合だということでした。
しかし、片山氏は、「元々レーシングテクニックであり、誰にでも推奨できるし、プッシングリーンを使うとリーンアウトになるが、レーサーもみなリーンアウトなのだ」というようなことを言っていました。

原理的に、走行中に右のハンドルバーを前に押すと、バイクは右に倒れてきます。
左を前に押すと、左に。

これは速度の速い遅いに関係なく、原理的にはそうです。
では、実際にやったらどうなるのか。
昔、GPZ1100に乗っている時、岡山国際サーキット(私が走った時はTIサーキット英田という名前でした)の現在では「MOSS”S”」と呼ばれている高速の浅いS字で、前回加速しながら切り返そうとして、普段のGPZ1100では考えられないような「重さ」に驚いたことがあります。
 別にレースしているわけでもなく、タイムアタックしているわけでもなかったのですから、今の私なら、最初から立ち上がりラインをもう少しタイトにしておいて、自然に立ち上がり、直線区間ができるようにしておいてから改めて逆側に倒し込むか、一瞬アクセルを抜いて荷重が抜けるタイミングで切り返すことをしたと思います。
しかし、その時は、「全開のまま切り返すのだ!」と力んでいました。
左から右への切り返しでしたが、左に傾いたまま全力加速しながらお尻を右側に移動し、右側ステップを思い切り踏み込み、左ひざをタンクに叩きつけるようにして、体重を右に激しく移動し、同時にハンドルを左に切って(右コーナーに対しては逆操舵になります)むりやり切り返すという、乱暴なことをしていました。危ないなあ、初心者がやっていいことではありませんでした。幸い、転倒することもなく、走り切りましたが、その時のハンドルバーが重かった(!)。それはそうです。運動エネルギーは速度の2乗で大きくなるので、80㎞/hと160㎞/hとでは、運動エネルギーは4倍に増えています。それを動かすのですから、普段感じないような重さを感じるのです。

前からそうでしたが、特に現代の二輪レーサーの肉体は鍛え抜かれています。全身鋼のようで、筋力も、心肺能力も非常に高くなければ、レースを走り抜くことはできません。
それだけ、レースでは筋力も駆使しているのです。
もちろん、本当に理に適った乗り方をすれば、そんなに筋力はいりません。バイクにとって一番いい乗り方は、力づくではないのです。
しかし、レースでは、相手のインに切り込んだり、外から無理やりラインに乗せていったり、とにかく「無理」もしなければ、バトルには勝てないのです。そこで車体にもギリギリのところまで無理をさせることも出てきます。

レースでは、逆操舵「を」使うのではなく、逆操舵「も」、他の操作も、すべて総動員して、何が何でも一番速く走り、相手をブロックし、または抜き去り、走り抜けていきます。
当然、逆操舵「も」必須のテクニックになります。

ただ、レーシングスピードでの逆操舵はすごく「重い」ので、力を強く入れることになります。
大きな力を掛けている状態で、急にタイヤがブレークしたりすると、急に軽くなって、そこで力を抜くタイミングが少しでも遅れると、盛大に逆ハンドルを切ることになってしまいます。その状態でグリップが復活すると、いきなりはじかれるようにタイヤが左右に振られ、まるでハンドルで左右のタンクを交互にダダダダっと叩くかのようにハンドルが振られる「タンクスラッパー」に見舞われることもあります。
力を入れるけれども非常に繊細に…。
それがレーシングテクニックとしての逆操舵の宿命です。
この領域は、とても多くの人に推奨できるものではありません。

しかし、スピードが上がり、コントロールの時間的余裕が削られてくると、誰でも副次的に逆操舵も無意識に使っています。でも、不用意に力を入れすぎると危険。レーシングテクニックとしては、易しくないテクニックなのです。


写真出典は『ライダースクラブ』№61 1983年7月号151頁 木引繁雄氏撮影

さて、バイクの基本は「リーンアウト」だと、片山氏は言っていました。
たしかに、Uターンや交差点の左折などでは、自然にリーンアウトになることもありますし、リヤタイヤが流れることが前提のダートトラックやモトクロスなどでは、旋回時の姿勢はとにかくリーンアウトですね。

片山氏はリーンアウトになる理由としてタイヤがスリップしても体が追随しやすいから、と言っていました。

それについては、私の昔のブログで書いています。
そちらも読んでいただければと思います。
車体ホールド 外足荷重を考える➂」(『聖地巡礼―バイクライディングin北海道』)

確かに、今回の写真を見ても、ゼッケン4ケニーロバ―ツ選手のタイヤは前後とも滑っています。緩やかに外側にスライドしつつ、それでも旋回していくという、ダートトラック出身のケニーらしい、美しい旋回です。

当時のタイヤでは、現在のモトGPのレーシングタイヤよりも早いタイミングで滑り出すので、そのスライドに遅れずに追従していくためにも上体をコントロールしやすい、上体を立てた姿勢の方が有利です。
また、当時言われていたことは、平衡感覚を正しく保つためにも頭は地面に垂直にしておきたい。
そして、滑る車体に追従しながらも、車体とライダーの合わせた重量の重心はできるだけ旋回の内側に置いておきたい。(もちろん旋回力を高めるためです)
そこで、腰を大きくイン側へオフセットして、頭をコントロールしやすい車体の中央線上に残し、地面に垂直に保つ。
すると、こんなフォームになるというわけです。




写真を、車体が立つように45度回転してみました。
こうしてみると、車体を基準に考えれば、頭を残し、腰だけを大きくイン側に移動し突き出したフォームで、上体だけ見ればリーンアウトとも言えます。

では最近のレーシングシーンではどうか。


上の写真は、twitterの「https://twitter.com/davidburgos_es/status/1068209917847367680
からの引用です。
右がマルクマルケス、左がホルヘ、ロレンソ。2018年のライディングです。

同じように両輪滑りながらですが、バンク角は60度、旋回速度も格段に上がって、闘うGも大きくなり、その分、タイヤにかける荷重も大きくなっています。
もはや頭の高さは地面からヘルメットひとつ分。
それくらい上体ごとイン側へ落とし込んで重心をイン側にしないと、この旋回速度は出せない。
ここまで来ると、リーンアウト気味…とは言い難い。
しかし、やろうとしていることは一緒なのです。


「フォームは結果だ」とはよく言われるセリフですが、
たしかにズルズル滑る状態で車体をコントロールしつつ、速く走ろうと思うなら、ケニーやフレディのようなフォームになっていくでしょう。
また、猛烈にグリップする、そのレーシングスリックを限界まで追い込み、限界域でものすごく高い荷重を与えつつ、そこで生じるゆるやかな滑りに対応しようとすると、マルケスやロレンソのようなフォームになるのでしょう。(この域は体験したことがありません。全く、想像すら難しい)

もうバンク角が深すぎて、そこからさらに重心をイン側へ入れようとすると、上体全部を入れていくしかない。膝なんて開いていません。車体と路面に挟まれて畳まれているに近い状態ですね。これでは上体を立ててはいられない。リーンアウトにすると旋回力が不足してしまい、相手に抜かれてしまいます。

これが最近のモトGP.
でも、片山氏が話しているのは、モータサイクル・ライディングの原則のようなものです。

でも、私のV7、逆操舵も使えますが、使わない方が気持ちいい時も多い。
どうしてか。そこらへんを次回にお話します。

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