2014年1月5日

ライテクレビュー1、柏秀樹氏。

「普通に日常に街乗りや通勤に使い、または使わず、休みの日にはツーリングに出て、郊外や山岳路を気持ちよ走り、いい景色を見て爽やかな気持ちになって帰ってきたい。
途中の山道、峠でも変に緊張することなく、できればもたもたせずにバイクらしく走って気持ちよく。
でも安全に。グッドマナーで。立ちごけもなく、事故もなく、帰ってきたい。」

そういう望みをお持ちならば、お勧めするのは柏秀樹氏のライテクだ。
前の愛車カワサキGPZ1100(’95)(記事とは関係ありません。)

柏秀樹氏は1954年生まれのフリーバイクジャーナリスト。
雑誌『ビッグマシン』他で独自のライテクを展開。
柏秀樹ライディングスクールを主宰する。
柏氏はパリダカ参戦4回など、数多くのラリーレイドに出場し、オフバイクでの経験も豊富(なんてレベルじゃないですけど)な100万キロ以上を走破したライダーで、オンロードバイクのライテクについても、独自に理論化し、一般ライダー向けにわかりやすく説明している。
テーマは「笑顔でいつまでも安全に走り続けるために」。

彼のライテクの特徴は次の二つのキーワードに凝縮される。(と、私は勝手に考えている。)
「直ピーカートロ」
「D.S.B.」
の二つである。

「直ピーカートロ」とは、「直線になったらピーッと加速し、カーブはトロトロとゆっくり走れ」という意味。
「えー?カーブを攻めないと面白くない」「直線番長って言われたくない」…という人もいるかもしれないが、この「直ピーカートロ」は非常にバイクらしく、気持ちよく速く、安全な走り方なのだ。
バイクで4輪車の後ろをだらだらついて走ると、思った以上に疲労してしまう。
バイクのバイクたるゆえんは、2輪のバランスで走るということと、重量の軽さからくる機動力。つまり、加速性能の素晴らしさなのだ。
また、バイクは加速しようと後輪に駆動力を与えている状態が一番安定し、安心でき、安全な状態でもある。
車の後ろについてすごく疲れるのは、この機動力をまったく生かすことができず、ただ定速でだらだらと走らさせるからなのである。試しに、この状態でも、カーブの入り口で車よりもずっと速度を落として車間を開け、カーブに入ったら徐々に加速しながら抜けて行って、立ち上がり、カーブの出口が見えたら思いきり加速し、車に恐怖を与えないよう、車間が詰まり過ぎないうちに減速する、ということを繰り返すだけでも、ただ後ろについて走っているよりずっと疲れないのである。
柏氏の「直ピー」の「ピー」は実は相当の加速を指している。カーブの出口に来てからピーッと加速するだけでも、バイクならではの走りの醍醐味は十分に味わえるのだ。
そして「カートロ」は何より進入時にしっかり減速して「トロトロ」走っているくらいに感じるまで速度を落とすので、「曲がりきれないのではないか…」という恐怖と闘うこともない。そしてそのままトロトロとカーブを進めば、ブラインドの向こうに車が停まっていたりしても、突っ込んだりすることもない。
(柏氏は、何かあってもカーブで見えている範囲の奥までに停まりきれる速度を「自己基準速度」と呼び、その速度以下でカーブに入ることを薦めている。注:最近ではこの自己基準速度の表現方法が変わってより洗練された。このHPのページで定義が読める。)
それではカーブを傾けて走るあの醍醐味は味わえないか…というと、そんなことはない。
自転車ほどの速度で曲がっているときでさえ、バイクはわずかでも必ずバンクしている。
その状態からアクセルを開ければ、バイク走行の醍醐味であるトラクション旋回が味わえる。
もしも、フルバンクで旋回していれば、上級者でないとここで大きくアクセルを開け、更に内向力を上げていくことはできない。ただ、傾いたまま、カーブが終わってくれるのを待つことしかできないのだ。
それに対してカートロでは、何しろ「トロ」なわけだから、コーナーの出口が見えたらアクセルを大きく開けて行っても外側にはみ出す心配はなく、しかも初速が遅い分、加速の快感が安全に、長く味わえるのだ。
「カーブが速く走れない」「カーブが怖い」というライダーの場合、その原因のほとんどが、実は「進入速度が速すぎる」ことにある。
しかし、本人は出口で開けられず、どんどん差が開くから自分が遅いと信じ込んでいて、進入速度をもっと落とすことができない。それが速く抜けることを妨げ、いつまでも怖くて、膨らむかもしれない、カーブで離される…状態にとどまらせてしまう。
「直ピーカートロ」は、言い直せば「スローイン・ファストアウト」のこと。
柏氏のDVDで実演されているのを見れば、とろいどころか、めちゃくちゃメリハリがあって、スポーツしまくりの積極的ライディングだということが分かると思う。

「D.S.B.」とは、Don't stop breath.「 息を止めるな」ということだ。
あらゆるスポーツにおいて呼吸は非常に重要な問題だ。バイクライディングにおいてもそれはあてはまるが、峠のライディングの場合、息が止まってしまうほど根詰めたというか、力んだというか、そういう状態は危険である。緊張すると人は呼吸が浅くなり、時として止めてしまう。それが1秒未満だったり、数秒だったりする場合はまだいいが、峠は長いのである。浅い呼吸は冷静な判断力を失わせる。また息を詰めていた分、どこかで大きく息を吸わねばならず、その時に緊張が弛緩する。そのリズムと道のリズムがずれていると、そこで事故を起こしかねないのである。
公道では、息が詰まるほどペースを上げてはいけない。それは時速何キロということではなく、自分にとって速すぎて危険領域だということだ。
しかし、ライダーはどうも根詰めて走ってしまうきらいがあり、えてして呼吸が浅くなりがちだ。そんなとき、呪文のようにDon't stop breath.と言ってふぅーっと息を吹き出すことで、ガチガチの緊張状態をリセットできる。
安全に、状況を自分の理解の下に置く。走りながら、今の状態がよくわかっている。そんな状態を維持し続けることが、安全で、楽しく、結果的に速いライディングのコツとなるのだ。

柏氏も体を大きく左右にオフセットするハングオフスタイルで走ることもある。そのやり方もレクチャーしている。
しかし、基本ができていないままで形だけ真似ても速く走れるわけでもないし、危険度が増すだけだ。
柏氏が重視しているのはそこで、自分は上級クラスの腕前があると信じている人ほど、柏氏の言う基本部分をしっかり復習する必要があると思う。

例えば峠でのライン取りにしても、柏氏は「アウトインアウト」などとは言わない。
道の左端とセンターラインからそれぞれ1mには踏み込まないように走れと言う。
道の左端には砂が浮いていたり、釘などの異物が落ちていたりすることもあり、危険度が増す。
また、道の端が近いと、道を外れるかもしれない…!!という恐怖感が芽生える場合もある。
また、センターラインから1mを切って近づくと、右カーブでバンクして走行する場合、体がセンターラインを越える場合もある。また、対向車線の車が速すぎて曲がりきれず、センタ―ラインをオーバーしてくるかもしれない。1mの余裕が危険回避に大きくものをいい、生死を分ける場合もあるのだ。
柏氏はそれを「センターキープメソッド」(CKM)と呼んでいる。

柏氏のライテク講座は、『ビッグマシン』誌上で展開され、市販DVDも『ビッグマシン』誌の内容を実演したものでマシンは大型二輪だが、バイクの大きさにかかわらず、基本的な内容として押さえておくべき内容だと思う。

だが、もちろんライテクに唯一の正解があるわけではないし、理論的なアプローチもさまざまである。
また峠等での実践テクニックにも、さまざまなものがある。
柏氏も使っていながら「生徒」たちのことを考えて書いていない(と思われる)ものもあるし、そうした部分をどう積み上げていくかは、ライダー個々の問題だ。

バイク乗りの中には、教習所で習った乗り方を、実際には役に立たない、試験に受かるためだけの乗り方だと言って批判する人もいる。しかし、それはおそらく、その人が習った教習所の教官がしっかり説明し、実演して教えてくれなかったからだろう。
教習所乗りは、やはり基本。一本橋、S字、クランク、急制動、法規遵守走行…。すべてを完璧に行うには、かなりの腕前を必要とするし、その応用が自在なら、かなり公道で安全に楽しく走れる。

柏氏の推奨するライディング技術はいい意味で教習所の走りと同根であり、より楽しくわかりやすく説明したものだ。むろん、教習所では教えないハングオフなどについても説明している。初心者から上級者まで、真剣に学ぶべきことが満載だ。

万人に通用する基本。それが、教習所乗りであり、柏氏の理論であると言える。

さて、それでもコーナリングに無上の喜びを感じ、コーナリングそのものをもっと掘り下げて考察したい、コーナリングをきれいに、安全に、気持ちよく決めたい、と思うならば、コーナリングに特化したライテクの探究も必要になってくるだろう。
私もそうしたコーナリングの探究を渇望する一人だが、さまざまな可能性を秘めた公道での安全で気持ちのいいコーナリングの在り方について、少し考えてみたい。

(つづきますが、運転技術(ライテク)の「ラベル」記事としての連載となります。日常的に他の記事が間にどんどん入ってくると思います。)

4 件のコメント:

  1. 柏氏のライテク理論に、私も共感するところがあります。
    GPZ1100に乗っていたときは、ビッグマシンの取り回しに関する記事は大変参考になりました。
    取り回しのほかにも、柏氏の理論は「まず、楽しもう!」という姿勢があるので、とても親しみやすく感じます。

    さまざまな危険が潜む公道という環境で生き残る、サバイバル・スキルの向上を広める。私は、柏氏の活動にそういうイメージを持っています。

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    1. 和休さん、こんにちは。
      GPZ1100はホントに取りまわしが重くて、馴れるまでは苦労しました。慣れてくると普通に取回せるようになりましたが、V7に乗り換えて驚いたのは、「上り坂を押して登れるじゃないか!」ということでした。やはり270kgはただ事でない重さだったんだなと思います。
      柏氏の活動、「サバイバル・スキル」というのは私も同感です。パリダカに4回出場し、かなり危険な目にも遭っている柏氏、公道上でも、危険を避け、生き残ることを最優先にしていると感じます。

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  2. 樹生さん、こんにちは。
    今年もよろしくお願い致します。

    お正月は息子さんも帰られて家族水入らずだったのですね。

    僕は昨年10月からエンジンフルOHを含むリフレッシュOHがやっと終わり
    ちょっと走ってみました。無事にエンジンがかかって振動やら音質がまろやかになりました。
    春まで暫くは慣らし運転、ライダーも同時進行でナラシです。
    足回り(フロント)のセッティングを変更したのと、ギア比を変えたのもあって
    リターンして4シーズン目かな?ですけどまた新鮮にゼロからのスタートです。

    樹生さんのライテク記事はとても身近に感じられて刺激になります。
    参考にさせていただいて、また自分なりの乗り方を模索して楽しみたいと思います。

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    1. ソロさん、こんにちは。
      今年もよろしくおねがいいたします。

      ソロさんのR1-Z、かなり生まれ変わったのですね。
      新しい走りはいかがでしょう。馴らしも楽しみな、今シーズンですね。むしろ冬と言うのが少しずつ慣らしをしていくのにはいいかもしれませんね。

      最近は仕事が忙しく、走れず、ライテク記事も新しい内容をちゃんと吟味して書けるのか、ちょっとわからないところです。
      春を待つ間、ライテク記事や、ツーリングストーリーなどをまた書けたらいいなと考えています。

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