2014年8月24日

V7Specialのハンドリング


今日の記事はV7Specialのハンドリングについて。ハンドリング特性からリーンのしかたまで解析します。長い記事です。

今日は日曜だが、出勤である。休みが殆んどない日が続いていて、労働基準法は完全に守られていない。

僕の職種は、現職での入院率が最も高い部類の職種らしく、ほとんどブラック企業並みであるが、一応、年休は取れるように保証されているので、ブラックではない。

しかし、実際には、次々に倒れては入院している。癌も多いし、精神疾患(鬱病)も多いのだ。

2000年を越えたあたりから、この国の働き方は異常になってきていると思うし、それは明らかに政策によって法令が変わったためと僕は考えているが、ここはそんな議論をする場所ではない。


さて、日曜出勤なので少し時間に余裕があった。ちょっと寄り道して、かつての通勤路を通ってみる。

通勤していても、ゆきかぜ号(MOTO GUZZI V7Special 2013)のハンドリングの良さはいつも新鮮で、そして楽しい。

「ハンドリングがいい」と言っても、人により、その基準も違うだろうし、感覚も違うと思うが、僕の基準は「信頼感」、「わかりやすさ」である。

具体的に述べよう。
バイクが車体を傾けてコーナリングしているとき、ライダーはたいてい、ハンドルバーに何等かの入力をしているものだ。
 多くの場合は、「押し舵」、つまり、イン側のハンドルをやや押して、ハンドルが過剰に切れ込まないように入力している場合が多いはずだ。
 これがまったく要らない場合は、舵のバランスが完全に取れている。

 この「切れ込み」、定常円旋回をしている場合は、低速になるほど起きやすいようにバイクができているのが普通なのだが、それでも切れ込みが強すぎると、ハンドリングに不自然さを感じるし、押し舵が強くなるので乗り難かったり、疲れやすくなったりする。
 大抵の場合はアクセルを開けてトラクションを掛けると、この切れ込みは軽減する。


ゆきかぜの場合、この切れ込みが全速度域で非常に軽微で、ハンドルの保持に余計な緊張がかからないのがまずよい。

カーブに進入してバイクを傾けると、必要なだけすっとハンドルが切れてバランスする。

この切れ方も速すぎず、遅すぎず、
例えばゆっくり倒していくと、その過程過程にバランスする形でゆっくり切れてくるし、
スイッチングするように直進からパッとリーンすると、すっ、と舵が入ってバランスし、揺り戻しもほとんど来ない。


このリーン方向の軽快さは、V7のクランクが縦置きなことも大きく影響しているのだが、車体の設計も動的なロール軸の設定が分かりやすくなっているのだと思う。

バイクは停止時が一番不安定で、高速になるほどジャイロ効果によって安定する傾向がある。

バイクを安定させるジャイロ効果と言えば、まず前後の車輪がある。ホイール、タイヤを合わせるとかなりの重量で、それがV7の場合18インチのホイールにタイヤを履かせているから、遠心力も大きく、ジャイロ効果も大きい。つまり、安定しやすくなる。

また、走行速度と関係なく、エンジンのクランクが高速回転すると、ジャイロ効果は意外に大きく発生している。
横置きのインラインフォーでリーンが安定しているのは、長くて重いクランクが高速回転しているので、そのジャイロ効果でクランク周辺が動的に動きにくくなり、それが安定感を生んでいるのだ。

縦置きクランク(モトグッチや、BMWなど)の場合、クランクは進行方向に対してねじが回転するように回っている。これは、直進する方向への安定感を増す効果がある。
ライフルの弾丸が回転しながら飛んで、直進性を上げているのと同じ効果があるわけだ。

モトグッチが高速で弾丸のように突き進む…という「神話」を持っているのは、重い縦置きクランクを弾丸のように回転させているから直進安定性に関しては非常に強いことから来ている側面もあったわけだ。

一方で、この縦置きクランクは、ロール方向(バイクをバンクさせる方向)へはエンジンのジャイロ効果があまり邪魔しないので、高速でもバンクするには軽やかにできる傾向がある。

高速で走るBMWやMOTOGUZZIを追随していて、最初にスパッとリーンしてからギュウウウンンンと、定常旋回していくように見えることがあるのは、この傾向が生んでいる現象だ。

ちなみに、この形式は、バンクすると同時にヨー方向にも車体の向きを変えてしまうという「向き変え」をしようとしても、バンクだけが軽く先に住んでしまい、後から旋回が始まるように感じることがある。

従って、BMW乗りやモトグッチ乗りの人の中には「向き変え」に否定的な発言をする人もいる。

長くBMWを愛車とし、モトグッチでレースに出続けている根本健氏が「向き変え」を提唱し、車種に関わらず推奨し続けているのは、目先の現象よりも本質的なMCの構造と扱い方について考察し、一番汎用性の高い方法を提唱しているからに他ならない。

さて、V7だが、マシンなりに流しているなら、向き変えを入れても入れなくても、それ相応に楽しく自然に走ることができる。

しかし、ある程度ペースを上げ、「攻める」走りになってくると、「向き変え」はやはり有効だ。
この時、リーンで力を入れて倒すタイプのライダーは、向き変えがうまく行かない傾向がある。

インラインフォーでうまくいっても、縦置きVツインの場合は、コツがあり、できるだけ力を入れないでリーンさせないと、傾くのだけが速くて、そこでヨー運動を起こすことができない。

そのコツとは、向き変えの基本そのものなのだが、傾ける瞬間にマシンをひねらないように、できるだけ力でねじ伏せるのではなく、ライダーの体重を預けることだけでマシンを寝かしていくことだ。

そのためには、バイクのロール軸を感じて、そのロール軸に沿い、素直に倒していくことが大切だ。

センタースタンドを立てるとき、いきなりバイクを持ち上げて立てようとしても、重くて上がらないが、スタンドの支点と作用点とつかみ、バイクがスタンドを立てるときに動く、その軌跡に沿って、常にその接線方向へ力を入れると、思いの外軽く上がる。それに似ている。

バイクが倒れてくるその軌跡を感じながら、その方向へ加勢するように、自分の体重を預けていくようにすると、モトグッチはただロールするのではなく、見事にヨー運動を伴って「リアステア」しながら倒れつつ、向きを変えて行くのだ。

このリーンで難しいのは、最初にきっかけだ。
真ん中に載せた体重をイン側に載せ替える、その瞬間に力んでしまうと素直なリーンを妨げてしまう。


これも、根本健氏が言っていることだが、リーン直前のブレーキングで直進性が強まっている間に、最初の体重移動をすませてしまい、ブレーキリリースとともに脱力してイン側へもたれかかるようにリーンすると、難易度がかなり下がって向き変えしやすくなる。

ノーブレーキで入れるカーブでも、あえてその前の直線でやや加速し、軽くブレーキングして安定性を高めておいて、その間に体重移動、脱力とともにブレーキを離してリーン、というリズムが、安全で気持ちよく、簡単にモトグッチで向き変えできるコツと言える。


話がモトグッチの向き変えに逸れてしまった。

V7Specialのハンドリングである。

ハンドルの「切れ込み」が全速度域で軽微だという話をした。

さらにいいのは、バイクを傾けるその手ごたえと、旋回力とが比例関係にあって、操作中に手ごたえが急変したりしない、ということである。

何もこれはV7だけでなく、最近のハンドリングの優れたマシンはどれもそうだと思うのだが、V7は車重が軽く、でもトルクはそれ相応にあり、右手で車体を扱う感覚がとても楽しいのである。

その右手に忠実な動きだけでなく、すべてにおいて「比例して」動く感じがあって、とても扱いやすい。

例えば、細めのバイアスタイヤにフロント18、リヤ17インチの車体は、バンク角を増していくと、旋回力が増す。
当たり前のようだが、このわかりやすさは、とても助かるし、疲れない。
これは本当は比例するというよりも対数関数的にバンク角と旋回力が関係していくのだが、手ごたえとしては、バンクさせただけ曲がる、という感覚がべースにあるので、信頼できるのだ。

むろん、一輪車的にリヤタイヤに横から荷重する感じでスリップアングルをつけて曲がる、最近のラジアルのような旋回も許容するし、「開けて曲がる」ようにすれば、その傾向は高まり、バンク角に依存しない立ち上がり加速の味も味わうことは可能だ。

これも、速度が低くても、エンジンが低回転でも味わえるのは、750という排気量、それ相応の最高トルク(60Nm)を低回転(2800rpm)で発揮するエンジンだということが貢献している。

傾けたまま、少しずつ右手をひねって行って、徐々に加速しながら立ち上がるのもよいし、
思い切り全開にしてしまって、プッシュアンダーにならないよう、荷重をリヤのイン側に集中させてリアステアで立ち上がって行ってもよい。

そのあたりの選択肢が広いので、ライダーは路面の状況や、周囲の状況に応じて、即座に選びながらワインディングを駆けることができる。

同じ速度でワインディングを走っていても、たくさんの選択肢を持っていること、そしてそれを豊かなフィードバックで実感させてくれるところが、V7Specialのハンドリングのよさの神髄といっていいだろう。

速度が低くても楽しい。
操っている感じ、走っている実感が豊かに伝わるバイクなのである。

で、速度を上げていくと、それなりにハンドリングは重くなっていく。
この重くなるなり方もある速度から急に重くなったりしない。変化に段差がなく、わかりやすいので、突然ドキッとすることが少なくて済む。

ハンドリングも速度上昇とともに徐々に安定志向になっていく。

『ライダースクラブ』流に言えば、ほぼニュートラルに感じるハンドリングが、徐々にアンダーステア傾向を強めて限界が少しずつ近づいていることを教えてくれるのだ。


それでも攻め続けると荷重の大きさにフレームが揺れ始める。そこまで攻めたら、もうそろそろ満足すべき時だ。

揺られてからもその揺れは分かりやすく、揺られながらでもあと少しのペースアップは可能だが、まあ、やめておくべきだろう。

今回の記事の写真は、前半が2車線の中速の峠、後半は1~1.5車線の、低速の峠だ。

1200SPORTのような大きなマシンには、この箱庭的な典型的な日本のワインディングは狭すぎるということなのだろうが、スモールブロック、もともと優れたシティコミューターとして生まれたブレバ750と基本的に同じエンジン、同じシャシーを持つ現V7シリーズは、こうした道も水を得た魚のようによく走る。

たとえ通勤であっても、走る喜びを与えてくれるのがV7Specialだ。
もちろん、旅への思いは、さらに膨らむのである。

10 件のコメント:

  1. 詳しいハンドリングの考察、とても勉強になります。
    そして、やはりこの新型のV7を試乗してみたくなりました。
    どうしてもブレバのハンドリングにマッチしないボクなのです・・・

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  2. シャモンさん、こんにちは。
    ハンドリング、前後17インチのブレバよりも、フロント18インチ(ただしリヤは17インチ)のV7の方がクイックでないかもしれません。
    また、基本は設計で決まっていますが、空気圧とか、サスのセッティングでもハンドリングはある程度変わりすよね。
    でも、この変化は、適正か、外れたか、であって、クイックなマシンでもきっちりセッティングが合っていれば、クイックなりに走りやすいと思いますし(僕もクイックでない方が好みです。)、ゆるやかなマシンはきっちりセッティングしてやると、自然なゆるやかさになるように思います。
    GPZの時にもタイヤが磨耗して、ハンドリングがかなり悪化、ということは度々ありました。

    でも、まずは新型を試乗なさって、ハンドリングをチェックなさるのがいいかもしれませんね。

    僕は、基本田舎道ポクポク、散歩派で、時に誰もいなければワインディングで走りを楽しみたい!、という二重にわがままなユーザーです。
    僕にとっては、V7のハンドリングが非常に気持ちいいです。
    エンジンの味をどう感じるか…ですよね、
    やっぱりエンジンって、バイク選びにとって大きいですよね。

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    1. ボクもその意見にまったく賛成です。
      基本的にボクはノーマルをいじって色々と変えようという気はあまり無いのです。
      素人がいわゆる素人考えで何かやっても結局得られるのは自己満足だけで、実際は実の無いものだろうと考えるからです。
      でもやっぱり軽すぎるステアリングは気になる・・・。
      難しいところです。

      とりあえずはフロントタイヤの扁平率だけを次回のタイヤ交換の際には変えてみようと思っています。
      これで幾らかでも落ち着きが出ればラッキーだと思っています。

      いや、それよりも試乗が先ですかね?!

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    2. シャモンさん、こんにちは。
      お気に入りの愛車。
      それは誰かが、こんな単車がいい!と思って作り上げた作品。
      それが気にいったということは、その作った誰か(複数のことも)と、世界観や単車観がかなり近いということ。
      そのことだけでも楽しいのですが、そこから、それを自分にピッタリに合わせていくことは、ますます楽しいですよね。
      僕の場合、V7に乗って、自分自身の走り方やバランスの取り方をV7に合わせる作業を今もしている最中で、こうして人の方も歩み寄り、そしてその中でバイクに歩み寄ってもらいたいところを、そのバイクの本質を壊さないようにしながら変えていくというのも、難しくも楽しいことだと思います。

      タイヤ交換、楽しみですね、でも、試乗もやはり強くお勧めです。(僕はV7試乗もせず、現車も見ずに注文してしまいましたが…^^;)

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    3. こんばんは。
      バイクとライダーの歩み寄り、ここの塩梅が楽しくてたまりませんねぇ(^_-)-☆
      昔は改造に100万も掛けて粋がっていた時期もありましたが(+o+)
      今や作り手の意図を汲み取りつつバイクライフを楽しんでいます。
      なぜこういう仕様にしたのか?メーカーや作り手には明快な理由があるはずです。
      それを感じつつ壊さぬように自分の身体に合わせていく。
      素敵な時間です。
      これがバイクの趣味性の一つと感じます。

      特にグッチのエンジンフィールは大人の嗜好品だとボクは思っています。
      こんな素敵なバイクを作ったメーカーリスペクトして止みません。

      あしたは試乗しにお隣の福岡まで行ってくるかもしれません♪
      もし行ったらブログにアップしようと思います。

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    4. シャモンさん、こんにちは。
      完全ノーマル派から、自分だけの一台を作り出すフルカスタム派まで、バイクの楽しみも人それぞれ、さまざまですよね。

      さて、今日(8月31日)は試乗に行かれているのでしょうか。シャモンさんもブログの記事のアップ、楽しみにしております。

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    5. こんばんは。
      取り急ぎブログに試乗記をアップしました♪
      予想をはるかに超える出来の良さに正直びっくりしました。

      たぶん買う事になると思います(^-^;

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    6. シャモンさん、こんにちは。
      ブログ、拝見しました。
      乗車のインプレ、私もシャモンさんとだいたい同じ印象を受けました。
      ハンドル幅の好みは、オフバイク好きのシャモンさんと、身長のわりに腕が短い私とでは、
      好みが違うなあと思いました。
      乗り始めた頃、流していても加速したがるエンジンだと感じていたのですが、今年の高速馴らし(?)終了後は力強さと柔軟性が高まったように感じられ、ぎくしゃく感も次第に感じなくなってきています。
      乗り手の慣れもあるのではないかと思います。
      私はOKのレベルです。
      しかし、4気筒のまろやかさとねばりは、さすがに求められないなあと思います。
      一泊以上のツーリングに出たことがないので、まだわかりませんが、長時間長距離の走りでどうなるのか、
      できるだけ早く味わいたいと思っています。

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    7. こんばんは。
      コメントありがとうございました。
      ハンドルの幅はご指摘のとおりオフ車好きの指向でしょうか??
      ただ、ブレバの場合はハンドル幅以前にフロントのふらふら感がかなり大きいので、そっちが原因なのかなと思っています。
      V7のナチュラルな舵角の付き方はとても好感が持てます♪
      心配なのはやはりアクセルのツキの良さですね。
      たまの週末に乗るだけならば面白いで済むのでしょうが、ボクのように生活に密着してバイクを足のように使いたい人にはどうなのか?
      これだけが気になります。
      ただ馴らしが終わって柔軟性が高まったとのこと♪
      これはイイですね。

      いずれにしてもオーナーになることでしょう(^^♪

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    8. シャモンさん、こんにちは。
      私はV7を通勤にも使っています。
      街中の通勤走りは付きの良さが助けになり、慣れてくると通勤も楽しいです。
      延々流すような走りでどうなのか。細い山道や田舎道をゆっくりぽくぽくと、一日中走ったらどうか。
      そのあたりの味がどうかですね。
      完全に黒子の存在に徹してツ―リングをサポートするバイクではなく、
      つねにどこか、V7の存在を意識して走る、そんな付き合いです。
      ああ、それよりもツーリングに行きたい…、と忙しさの中で悶々とする私です。

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