2020年7月5日

V7ハンドリング 動画の補足



先日、V7のハンドリングと逆操舵について、動画をYouTubeにUPしました(このリンクはYouTubeの動画に飛びます。)が、少し、補足します。ペースを上げた時の話です。

動画の中では、タイヤが細いことに言及、リーンが軽く、ひらひらとして、お尻をずらさずに、真ん中に着座したままいかにV7が走りたいように走らせるか…にトライすることが楽しいというようなことを話しました。

一方、ペースが上がって、旋回力のマージンが小さくなってくると、逆にV7は、自在さがなくなってきて、頑固な一面を見せます。
ライダースクラブの連載で伊丹氏がサーキットでV7カフェを走らせ、「どうにも曲がらない!」と書いていたのは、2011年だったか、2012年だったか…。
確かに、ペースが上がり、バンク角もほぼ使い切った状態になると、もうこれは幅広ラジアルタイヤとのグリップ力の差が如実に出ることになります。
また、そのレベルまで攻め込んだ時は、サスペンションがややプアーなことや、フレーム剛性が不足気味に感じることなど、そもそも車体設計での設定範囲を越えだしていることが感じられるようになります。
ここでも設計が良心的というか、面白いのは、この限界が、知らん顔してていきなりくるのではなくて、自在域を超えると、徐々に適応能力の低下として体感できるということです。
「そろそろやめておけ…」…というメッセージが、徐々に大きくなってくるわけで、こちらの方が限界は低いのでしょうけど、信頼できる…というか、掴みやすくて安心して走らせる…またはペースダウンできる…という特性になっています。

バンク角とタイヤを使い切ったコーナリングでは、V7は、もう、一定の円弧を描きながらじりじりと両輪でアウト側へ進路がずれていく感じになり、どうしようもなくなります。
ここで体重を内側に入れて…といっても、それはそもそも「すでにやっている」。
もう一寝かし…といっても、もう限界(近く)まで寝かしていて、路面のギャップではセンタースタンドとか、サイドスタンドが設置してしまって、タイヤの荷重が抜けると危険だから、もう寝かせられない。
このフルバンクでの旋回中は、ブレーキを掛けることもかなり難しい。
その少し手前なら、リヤをなめるように踏んでインへちょっと修正とか、
敢えて車体を立てつつフロントを掛け、減速してもう一回インへ倒し込んで曲がるとか、
いろいろできるのですが、もう無理。
アクセルオフにするくらいしかないのですが、これが下りだと、アクセルオフもフロントをプッシュすることになったりして、旋回半径を小さくできない…。

つまり、公道でフルバンク、フルパフォーマンスの旋回をするのは、命とりになるので、やってはいけないということになります。まあ、どんなバイクでもそうなのでしょうが、その限界が全く見えないまま、とんでもないペースで走れてしまうバイクも普通に販売されているので、ライダーに自制心が必要となります。

で、限界まで攻めないようにして、ちょっとペースアップして走りたいときには、私もV7でお尻をイン側にずらしてのコーナリングをします。
理由は、腰をずらさない白バイ式のリーンインよりも、上体が楽になるということ、頭を立てていられて、精神的にも楽であるということがまずあります。
また、「体重をイン側に入れるとスーッとインに寄ってくる」という話を動画でしましたが、ペースが上がってきたとき、コーナリング中のイン側への体重のかけ方の増減は、腰をずらして、シートに外側の腿が乗っているような状態の方が、やりやすいのです。それは、上体をどれくらいインへ入れていくか、見た目では肩がどれくらいインへ落ちていくか、という違いになりますが、そのコントロールは、いわゆるハングオフの方がやりやすい。
そしてハングオフの方が車体のバンク角に若干の余裕ができるので、マージンを多めに稼げるのです。

公道でのライディングはいかに安全マージンを確保しつつ走るか、いかに安全マージンのプロデュースをするか、というのが、メインテーマになると思います。
しかし、本当にリスクをゼロにするなら、走らないしかない。走らせながら、安全マージンを取る。それが、公道ライディングです。

私はもう、公道でバトルをすることは二度とないでしょう。
それは少し寂しいことでもあります。
安全マージンを確保したうえでの、分かってる者同士のバトルは、バイクを走らせる歓びの最上の物の「ひとつ」ではあったでしょう。
公道でするバトルには、相互信頼が必要でした。絶対に限界を越えない。対向車や先行車を怖がらせない(ペースを落とす)、民家の近くでは絶対にしない。相手の安全を削るような走りやラインどりは絶対にしない……。
しかし、「なんだかんだ言ったって、暴走行為だ!」という「正義」の前には、しっぽをまいて逃げるしかありません。その通り。
「ただの暴走行為」がはびこり、1980年代にはバイク雑誌までが投稿コーナーでその行為を煽り、当時は多くの二輪事故があり、死者もでました。
私が出会ったバイク乗りたちの中では、「俺は正統派だ」という人ほど、また、やたら人に教えたがる人ほど、安全を無視した酷い走りをしていました。
自分だけは違うとは、絶対に言えない。

それでも、人気のないワインディングで、ほんの少しのペースアップをしたいときには、コーナーへのアプローチで少し腰をずらし、倒し込みでひねる動作が出ないようにして、安全マージンを増やす。
フレームのたわみや揺れをやんわりとやり過ごすように、外足全体で体を支え、上体と内足をやわらかく保つ。
限界までの「残量」をできる限りモニターし、マージンを最大限確保するように走りを組み立てていく。
すると、ゆきかぜは、とてもいきいきと走ります。
「もう…、ずっと待ってたんだぞ」とでも言っているように。
V7の本当の姿。飛ばした時こそ、本来の動きを取り戻し、身をよじるように、踊り出すように、楽しそうに走る。
アクセルが全閉から全開まで持ち換えなしで一気にできることも、ブレンボブレーキの強く握り込んでいった先での強弱の微妙なコントロール性能が抜群にいいことも、すべてこのギャロップのための設定だったのです。

危険を知っているものは、安全を希求する。
怖さを知っているから、ペースダウンできる。
状況に対し、その瞬間々々にリアルであることが求められるバイクライディングは、
安心・安寧・安楽だけを求めては生きていけないし幸せにもなれないこの世界で、
「現実と向き合うこと」を教えてくれます。

…というわけで、V7でペースアップするときには、私もお尻はずらす…という話でした。

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