2015年6月3日

独りに なるために

以前のブログ『聖地巡礼―バイクライディングin北海道―』の2007年11月13日の記事に載せていた、僕が23歳の時の詩(?)です。



 DT50

                            樹生和人
 
 ごめんとは 言わない
 夜中に君を一人残して男友だちの家へ遊びに行った
 映画帰りの喫茶店 みつめる君の瞳を受けとめられなかった
 涙をこらえてふるえてる君を抱きしめてやれなかった
 長い休暇に3通しか手紙を出さなかった
  さびしがりやで泣き虫の君に嘘をついた
  ごめんとは 言えない
  あれから秋が来て冬が来て春が来て 僕はバイクを買った
 青い中古の DT50
  DT50で僕は走った
 交差点の真ん中でエンストした
 側溝に落ちて足首を捻挫した
 時速60キロでブロック塀に突っ込んだ
  トラックの下を滑り抜けた
  レバーを折った
  ミラーを割った
  キャブレターのセッティングを変えた
  マフラーの中身を抜いてバーナーで焼いた
 崖から落ちた
 前フォークを交換した
 アスファルトにたたきつけられて吐いた
 雲が山間から生まれる瞬間を見た
 土砂降りの林道を押し歩いた
 夜通し走って海峡に上る朝日を見た
 月灯りの下エンジンを止めて滑走した
 鼻血でタンクを赤く染めた
 雪の降る湖畔をこごえながら走った
 1万3千620キロ      僕は
 君の泣いた訳がやっとわかったような気がする
 ごめんとは言わない
 ありがとうとは言わない
 そんな言葉で語れない 僕らの歴史があった
 君が笑った
 君がはしゃいだ
 君がふり向いた
 君が黙った
 君が泣いた
 君がいた
 僕がいた
 僕は走った DT50で
 独りに なるために  
                          (1985.3)




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