2015年9月23日

秋の回廊(1)

久しぶりに、自由な感じで走れた一日になった。

昨年までの殺人的な忙しさから逃れるべく、せめて休日の拘束を少なくした今年であったが、仕事量は増え、休日の出勤は減ったが、持ち帰りの仕事量は増え、結局のところ、日々の睡眠不足とストレス、疲労による全身の倦怠感などは続いていて、頸椎ヘルニアを患ったり、久しぶりに腰痛をぶりかえしたりと、仕事の忙しさからくる大変さは、たぶんもう2.3年は続きそうなようすだ。


5連休とは言っても、走れるのはたぶんこの一日のみ。
朝早く出て距離をかせぎ、向こうでゆっくり回ってくる僕の30年来のスタイルも、それを支える体力がなければ実行できない。
今回も、5時半起床の出発は6時半になった。

2015/9/22 6:25
前日に洗車し直して、ワックスを掛けていた、ゆきかぜ号。
各部に注油し、機関は好調。
先日折れて応急処置してもらった後ろ右ウィンカーも、異常なしだ。
秋分の日が迫り、日の出は遅くなっている。今日は晴れていて、もう日は上がっているのだが、ここにはまだ、射していない。


2015/9/22 6:25
今日はヘルメットをアライのフルフェイス「RX-7RRⅣ」にした。
今日は飛ばす予定はないが、体調が今一つ。風切音の少しでも小さいもの、安全性の高さを解放感よりも優先した。
だから、ジャケットも革(クシタニ、コンプリートジャケット)にした。背中の標準装備のソフトパッドを外し、ダイネーゼの固い脊椎パッドを背負う。これも20年物だ。
パンツはいつものクシタニカントリージーンズライド。革製なのにデニムのジーパンに見えるものだ。膝にパッドが入っている。

腰に違和感が少しある。腰痛に襲われたらすぐに帰らなくてはならないから、遠出もしない。
まずはでかけよう。


2015/9/22 6:35
朝の札幌市大通。西13丁目の交差点で停まっている。
市の中心部にしてこの緑の多さ。大通公園には、たくさんの巨樹がある。
2月の雪祭りが有名だが、夏の間はビヤガーデンがオープンしたり、子どものための昔ながらの遊び場があったり、バラ園があったり、広い芝生の広場があったりと、市民がいろいろに憩える場所だ。

出発したばかり。

昔は走り行くときは前日からわくわくして、さあ、行くぞ!と飛び出したものだが、ここ2,3年は、とりあえず走り出すものの、旅立ちの高揚感が訪れてくれないことも多い。

齢をとったということか、それとも、別のものが作用しているのか。

2015/9/22 6:37
これも札幌大通りの交差点だ。
タワーマンションは写真の頭が切れている。
太陽が低く、木々の影が長い。
朝の空気が、都会をも包んでいる。
右手奥に白いテントがたくさん並んでいるのは、大通公園で「さっぽろオータムフェスト」が行われているためだ。

2015/9/22 6:39
また停まる。
信号のつながりがよくないが、今日の僕にはいい感じだ。
ゆっくり、旅になじませていく。
ゆきかぜのアイドリングがこととん、こととん、と、つつましげに響く。
ゆきかぜの音は、妻に言わせると、我が家のお向かいさんが持っているTW200改よりもずっと静かだそうだ。
幅広のハンドルはフルロックしてもモトフィズのタンクバッグとスイッチが干渉しない。
いきなりホーンが鳴ったりしないのは、この幅広ハンドルで唯一、助かる点だ。


2015/9/22 6:41
北1条通りに来た。
これは札幌市時計台だ。
時計の部分が木々で隠れている。
「マーライオン」などと並んで「世界3大がっかりの市のシンボルマーク建築」らしい。
札幌の中心街、高いビルに囲まれて、その谷間にひっそりあるからだが、この建物はやはり美しい。
僕は好きだ。
この建物、市の公共施設なので、なんと一般公開が終わる夜間は、貸出が可能だ。
2回には座席固定席のホールがあって、結婚式や音楽会、講演会など、市民ならば破格の安値で借りることができる。

札幌市民憲章にも、この時計台は謳われている。
札幌市民憲章
前章:わたしたちは、時計台の鐘がなる札幌の市民です。
1章:元気ではたらき、豊かなまちにしましょう。
2章:空も道路も草木も水も、きれいなまちにしましょう。
3章:きまりをよくまもり、住みよいまちにしましょう。
4章:未来をつくる子どものしあわせなまちにしましょう。
5章:世界とむすぶ高い文化のまちにしましょう。

さて、札幌市の中心部を抜け、国道275号線を東へ。
車の流れに沿って流して行く。
もともと交通量の多い道ではあるが、5連休中だからか、朝から車が多い。

市が楽行くと国道は石狩川を渡るが、そこで渡らずに江別方面へ右折する。国道337号線だ。
とたんに、深い川霧に包まれた。


2015/9/22 7:05
川沿いの道から堤防に上がってみた。
写真の左側が石狩川の河川敷。堤防の上の道路は一般車両は通行禁止だ。
上空は快晴のようだが、川から霧が立ち上がっている。
放射冷却で気温が急激に下がり、川の水温よりも低くなったために発生する川霧。
秋の風物詩の一つだ。


2015/9/22 7:07
視界は200mくらいか。
走っていると霧が体やバイクに当たって結露する。
ヘルメットのシールド、ゆきかぜのミラー。ジャケットの袖、ズボンの膝。
気づけば、かなり濡れている。

一本道を外れただけで、静かになった。
メインの275はあんなに混んでいたのに。337のこの区間はほどんと交通量がない。



2015/9/22 7:09
4kmほどいったところで、道道139号線にチェンジして橋を渡る。
この橋は一応「石狩大橋」と名前がついている。

いまは改装工事中だった。

こんなパネルに覆われた橋を渡るのは初めてだ。
橋を渡ったら、しばらくが道道139を行く。


2015/9/22 7:18
道道139号線は、どうしてこのコースが道道に指定されているのか、よくわからない道だ。
新篠津と江別をつなぐ道はこの他にもあるし、もうすこし直線的につないでもいい感じ。
平らで、田んぼや畑や牧草地が現れるこの石狩平野の中を、碁盤の目のように道が走っている。
それをなぜか何度か90度に折り曲げる道で新篠津まで指定されているのがこの道なのだ。

川から離れても霧は薄くならなかった。
霧の中、牧草ロールがたくさん転がっている。
牧草ロールの発明は画期的だった。
あの「サイロ」が不要になったのだ。
牧草地、その場で、草を刈ると同時にロールに仕立て、周りを丈夫なビニールでかっちり締め上げて転がしておくと、サイロに入れたように、発酵が進み、家畜のえさになっていく。
ロールは大きさも重さもだいたい均一だから、そのまま積んで運ぶトラックも作りやすい。
運び込みもしやすいし、扱いやすい。

北海道の風景を変えてしまった。

2015/9/22 7:19
霧は一向に晴れる気配がない。
視界は逆に150mくらいと、失われてきている。

それでも寒くないのが不思議だ。

もう少し走る。

2015/9/22 7:26
道がまた直角に折れ曲がる。こんどは田んぼが広がっている。
刈入れ直前の稲は、こうべを垂れている。



上の写真を後ろから撮るとこういう感じ。
東に直角に折れた道道139から50mほど直進してみた。
砂利道は霧の向こうへ消えていき、高圧電流の鉄塔は次の一本が霧で見えない。
道の反対側は畑だ。このあたりは、田んぼ、畑、牧草地が混在している。
普通、水稲耕作が可能なところは田んぼになり、降水量が少なかったり、気温差が激しくあるいは土壌の問題で水稲には適さないが野菜には適したところが畑になり、水稲、畑、どちらにも適さないところにはやせた土地、厳しい環境でもなんとか育つ牧草が植えられる。
なのに、ここは混在しているのだ。
そして、家がない。
一面、田んぼ、畑、牧草地で、家がない。
もちろん家はある。が、視界に入らないくらい離れている。
アメリカ、カナダのような大規模農業経営がなされているのが、このあたりなのだろう。

地形に沿って集落があり、その周辺に田んぼや畑が広がっている…という、日本の古くからの農村風景とは違うのが、近代になって「開拓」された北海道の農地の特徴なのだ。


2015/9/22 7:41
しばらく走るとまた道は北に曲がり、また東に曲がり、またしばらく行くと北に曲がる。もう一度東に曲がるところで、小さな川が流れ、その川に沿って、未舗装の小路が伸びていた。

少しだけ、踏み入れてみた。田んぼの脇の、細い川と、細い道。


道端の草むらの中で、朝露に濡れながら、クモが巣作りをしていた。




ふと気が付いた。
心が軽くなっている。
旅モードに、いつの間にか入っている。

行き先を決め、早く距離を稼ぐ。
そんな走りなら、それなりに、旅のせわしさ、慌ただしさを感じながら、高速で移動する感覚を味わい、家庭や職場が離れていくその距離感を感じ、脱出している感覚から、旅を感じることもある。
また、その「移動」しつつある、その漂泊感覚が大きい。
それが、日常のしがらみや、仕事のストレスから僕の身体を引っぺがしてくれる。

しかし、今日は違う。
行き先は一応イメージしているが、そう遠くはない。
それに時間もたっぷりある。
だから、予定にない寄り道ばかりしてしまう。
その毎回ほんの2,3分の寄り道が、いつの間にか、僕を旅の中に入り込ませている。

これまで、ツーリングの途中、何度も何度も通ったことのある道。
その道を、ほんの数十メートル横に逸れただけで、初めての道、初めての風景、はじめての時間が僕を覚醒させるのだ。

そう、迷ったら、出かけてしまえばいい。
そうして僕は、旅をしてきたのではなかったか。

気づいたら、我慢できないくらい小便がしたくなっている。
これも、若い頃はなかったものだ。

小便を道端でするのは軽犯罪である。
ひとの家や庭、畑などにしてはいけない。
しかし、やぶの中に入って行って虫に刺されたり、蛇に噛まれたりするというのは、よくある事故である。

安全で、道から見られず、人様の迷惑にならないところ…。
慎重に探して、立ちションをさせてもらった。

あまりほめられたものではないが、これも田舎を旅することでしか出会えないシーンのひとつ。
都会ではトイレをさがすし、メインの国道なら、コンビニや道の駅をさがすからだ。

誰もいないけれど、ちょっとばつの悪い思いをし、申し訳ない気持ちにもなり、でもどこか解放された気持ちにもなる。

さて、ふたたび走ろう。
ゆきかぜに歩み寄り、スイッチを入れる。
バッテリーも好調だ。
スピード、タコの両メーターが一度針を振り切って戻るアクションを見せる。
この間に燃料ポンプを起動して、インジェクションにガソリンを圧送できるようにする。
その時間稼ぎの為のアクションだ。
燃料ポンプの作動音を確認したら、スタートボタンに触れる。

一押しで、ゆきかぜのV型2気筒エンジンは目覚める。

また走ろう。
君と。


少しずつ、心が軽くなって行く。

これがバイクツ―リングの魅力だ。
なにものにも換え難い、旅の魅力だ。


2015/9/22 7:53
新篠津から道道81号線、「たっぷ大橋」を渡る。
北村方面へ、ゆきかぜと僕は走って行く。(つづく)

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