走っていたら、前方に黒い雲の帯が見えた。
来るかもしれないと思っていたが、ここから逃げるルートがない。
雨が来たらすぐに合羽を着ようと思いながら走っていると、
カーブを曲がったところで、突然、前方が明るく見えた。
陽が射している…!雲の切れ間に来たか、と思うと同時に、その明るい空間が一気に白くなった。
雨!
それも、すごい驟雨だ。
あっと、思ってバイクを停める場所を探す。
路肩が少し広くないと停めるのは危険。
しかし、間に合わない。
10秒もしないうちに、いきなりバチバチバチッと、小石のつぶてを一斉に浴びたかのような、
猛烈な雨の中に入った。
視界が奪われ、一瞬でずぶぬれになる。
雨の降り始めの匂いがしたかと思うと、もう降り続く雨の匂いに代わっている。
あっという間に路面に水たまりができていく。
危険だ。
走り続けるのも危険だが、狭いところで止まるのも危険。
速度を落とし、広いところまで、雨に叩き付けられながら慎重に進む。
久しぶりに雨に恐怖を感じている。
思わず、顔に薄ら笑いが浮かぶ。
こいつは、けっこうヤバイぜ。
一分もしないうちに、道は広くなり、大きな道との合流点に来た。
ゆきかぜを止め、タンクバッグから雨合羽を出す。
しかしもう、全身びしょ濡れだし、グローブの中で手が泳ぎそうだ。
それでも着ない訳にはいかない。
道の脇の草の上で、手早く合羽を着た。
…と、その時にはもう、雨は弱くなっている。
激しい雨の帯は、もうここを通過したのだ。
雨が降り出してから5分と経っていない。
合羽を着終わる時に、雨は止んでしまった。
服が重くなり、身体に張り付いている。
ぐしょぐしょだ。
ぬれぞうきんみたいになった僕。
惨めな格好だ。
だがゆきかぜは、濡れ汚れても、凛としている。
ギアをニュートラルに入れ、セルを回す。
キュ、ドルン! エンジン始動に1秒もかからない。
アイドリングも安定。
問題もない。
しばらくすると、エンジンやマフラーまわりから水蒸気が立ち上ってきた。
さすがだな。
さすがだよ、ゆきかぜ。
君にはかなわないよ、レディ。
雨だろうが、風だろうが、アスファルトでも、ダートでも、乗り手次第だってか。
どこで止まり、いつ走り出すか、どこへ向かうか。
自然を見くびらず、安全に対して驕らず、いきがらず、卑屈にならず。
判断して、アクセルを開けば、それに応える。
無理をすれば、そのまましっぺ返しが来る。
そう、何が起きても、ライダーのせいだ。
等身大の自分を、ありのままの自分の未熟さ、弱さを、剥き出しにしてしまう。
バイクで走る以上、
そういう相棒が、いつも欲しい。僕は。
新千歳空港のそばまで来た。
国道のすぐ上を、ジェット機が次々に滑空して着陸していった。
道端にゆきかぜを停め、3機の着陸を見届けて、それからまたまたがり、走り出した。
帰ろう。
朝寄った支笏湖を、もう一度回って、ゆきかぜと僕は、札幌へ帰る。
(つづく)
打てば響く。。
返信削除そんな『表裏一体』のバイクが大好きです!
(この場合、乗り手側が『裏』かなw)
tkjさん、こんにちは。
削除時速で40kmも出ていれば、もう生身の人間としての限界スピードを越えていて、
致死的な領域。
普段の通勤などではいちいちその「速度」を感じなくなりがちですが、
そういう領域で剥き身で走るバイクには、応答性に関する信頼感が絶対に必要で、
それがリニアであるほど、安全性も高まるし、同時に操縦する楽しみも増す。
そんな感じです。
だからある程度の「速さ」も必要だと思います。
バイクとダンスするのは、本当に楽しいですね!