2015年9月4日

夏の終わり(4)

厚真、早来から千歳へ。
走っていたら、前方に黒い雲の帯が見えた。
来るかもしれないと思っていたが、ここから逃げるルートがない。
雨が来たらすぐに合羽を着ようと思いながら走っていると、
カーブを曲がったところで、突然、前方が明るく見えた。
陽が射している…!雲の切れ間に来たか、と思うと同時に、その明るい空間が一気に白くなった。

雨!


それも、すごい驟雨だ。
あっと、思ってバイクを停める場所を探す。
路肩が少し広くないと停めるのは危険。
しかし、間に合わない。
10秒もしないうちに、いきなりバチバチバチッと、小石のつぶてを一斉に浴びたかのような、
猛烈な雨の中に入った。

視界が奪われ、一瞬でずぶぬれになる。
雨の降り始めの匂いがしたかと思うと、もう降り続く雨の匂いに代わっている。
あっという間に路面に水たまりができていく。

危険だ。

走り続けるのも危険だが、狭いところで止まるのも危険。
速度を落とし、広いところまで、雨に叩き付けられながら慎重に進む。

久しぶりに雨に恐怖を感じている。
思わず、顔に薄ら笑いが浮かぶ。
こいつは、けっこうヤバイぜ。


一分もしないうちに、道は広くなり、大きな道との合流点に来た。

ゆきかぜを止め、タンクバッグから雨合羽を出す。
しかしもう、全身びしょ濡れだし、グローブの中で手が泳ぎそうだ。

それでも着ない訳にはいかない。
道の脇の草の上で、手早く合羽を着た。

…と、その時にはもう、雨は弱くなっている。




激しい雨の帯は、もうここを通過したのだ。

雨が降り出してから5分と経っていない。
合羽を着終わる時に、雨は止んでしまった。

服が重くなり、身体に張り付いている。

ぐしょぐしょだ。

ぬれぞうきんみたいになった僕。

惨めな格好だ。

だがゆきかぜは、濡れ汚れても、凛としている。

ギアをニュートラルに入れ、セルを回す。

キュ、ドルン! エンジン始動に1秒もかからない。
アイドリングも安定。
問題もない。

しばらくすると、エンジンやマフラーまわりから水蒸気が立ち上ってきた。

さすがだな。

さすがだよ、ゆきかぜ。
君にはかなわないよ、レディ。

雨だろうが、風だろうが、アスファルトでも、ダートでも、乗り手次第だってか。
どこで止まり、いつ走り出すか、どこへ向かうか。
自然を見くびらず、安全に対して驕らず、いきがらず、卑屈にならず。

判断して、アクセルを開けば、それに応える。
無理をすれば、そのまましっぺ返しが来る。

そう、何が起きても、ライダーのせいだ。
等身大の自分を、ありのままの自分の未熟さ、弱さを、剥き出しにしてしまう。

バイクで走る以上、
そういう相棒が、いつも欲しい。僕は。


そこから10数km。
新千歳空港のそばまで来た。

国道のすぐ上を、ジェット機が次々に滑空して着陸していった。

道端にゆきかぜを停め、3機の着陸を見届けて、それからまたまたがり、走り出した。

帰ろう。

朝寄った支笏湖を、もう一度回って、ゆきかぜと僕は、札幌へ帰る。

(つづく)

2 件のコメント:

  1. 打てば響く。。
    そんな『表裏一体』のバイクが大好きです!
    (この場合、乗り手側が『裏』かなw)

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    1. tkjさん、こんにちは。
      時速で40kmも出ていれば、もう生身の人間としての限界スピードを越えていて、
      致死的な領域。
      普段の通勤などではいちいちその「速度」を感じなくなりがちですが、
      そういう領域で剥き身で走るバイクには、応答性に関する信頼感が絶対に必要で、
      それがリニアであるほど、安全性も高まるし、同時に操縦する楽しみも増す。
      そんな感じです。
      だからある程度の「速さ」も必要だと思います。
      バイクとダンスするのは、本当に楽しいですね!

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