2015年9月30日

秋の回廊(5)

秋の回廊(コリドー)。
石狩川を渡った僕とゆきかぜは、月形から道道11号線へ。小さな峠を越えて、当別町青山につくと、少し北上し、また道道11号線で日本海を目指す。


道道11号は、石狩地方のライダーにはおなじみのルートのひとつだ。
青山から厚田に抜ける峠道は、青山側から峠を越えて麓の発足に下りるまで、一件の民家もない。
あるのは、山と、緑と、空と、道だけだ。
ここでは飛ばすライダーは思いっきり飛ばす。

マシンと己の限界まで飛ばすライダーも、中にはいる。
今日も、ドカティ、ホンダ、ヤマハ、カワサキのスプリンタ―達が僕とゆきかぜを抜いて行った。

2015/9/22 11:54





もう6年前だろうか、僕はここで、友人からCBR600RRを借りて、少し走ったことがある。
あまりに速度が上がるので驚いた。
例えば、あくまで例えばだが、当時の愛車GPZ1100で、もし法的に許されるなら、時速90kmでステップを接地させながら曲がれる中速コーナーがあったとする。
すると、CBR600RRは同じコーナーを、120kmで30度くらいのバンクで徐行するのだ。

ちょっと攻めると、たちまち、もしも国内仕様ならリミッターの利く域にいたるところで達してしまう。
それでも、マシンは平気で、安全、涼しい顔なのだ。

まあ、これはあくまでたとえ話だが、この峠でさえ、本物の最新SSで攻めると、速度レンジが高すぎて、何かあったときには、絶対に取り返しのつかない速度域で走ってしまうのだった。

恐ろしいのはそれでもマシンはどこ吹く風。まだ余裕さえ感じさせるのであった。

もしこの道で、僕が仮に直線で200km出して、コーナーで140~160kmくらいで攻めて走っても、そのスリルは僕の腕だとほとんど数値上の「速度」がもたらすものだけになってしまいそうだった。

もちろん、ゆっくり走ってさえ、CBR600RRのブレーキングの精緻さ、倒しこんでいくときに両輪がきれいにバランスして旋回していくこの精確さ、その手ごたえの上質さは、僕が今まで経験したことのないものだった。
素晴らしいマシンだった。

だが、600cエンジンを積むそのマシンは、本当は速く走りたがっていた。
低速トルクは豊かとはいえ、耕運機と揶揄されるGPZ1100に比べると、CBR600RRはピーキーで、ぶん回してこそ、楽しいエンジンに感じられたのだった。

僕は、この2、3年、そうとも言えなくなってきたが、当時は自他ともに認める「ライテクおたく」だった。
実際に速いかどうかではなく、ライテクというものに関心があって、大好きで、いろいろ試したり、考えたりしないではいられないタチだったのだ。

僕はCBR600RRの誠実で胸躍る性能に感動しながらも、今は僕の乗るマシンではないと思っていた。速すぎるからだった。

それから6年。トップエンドのモデルは、ますますパワーを上げ、ウェイトを絞り、ハンドリングを正確に、寛容にし、電子デバイスを搭載し、より人にやさしく、より速くなっている。

もしも、僕が今、あの頃の23歳で、マシンを手に入れ、いじり、維持する経済力を持っていたら、最新の最速マシンで限界に挑んだだろうか。

……わからない。

今、53歳になって、家のローンや、年老いて病を得た両親や、義母、大学4年の子どもを抱え、死ねない、職を失えない、という思いが、いつでも先行するようになった。

もう、いちかばちかのような、運を天に任せるような、ライディングはできない。
先が分かっていても、ブラインドにフルバンクで突っ込むことはできない。

事故や転倒のリスクを、いかに削り取るか、いかにマージンを上乗せしていくか、
そして、その上で、いかにオートバイならではのコーナリングに、絶対に他の乗り物ではできない、あのコーナーの走りを、どこまで実現できるか。

なんて、本当に上手い人からみたら、ちゃんちゃらおかしいのだろうけれど、そうしたトライに、胸躍らないようにセーブしながら、深く沈潜するようになった。

ゆきかぜのいちばん気持ちいいポイントへ。
ゆきかぜがいちばんよろこぶ走り方へ。

そのウェーブを、自分の身体操作のリズムに合わせるのだ。
わずかな位置の違い、わずかな体重の預け方の違いで、
ゆきかぜはまったく走りを変える。

その変化の中で、いちばん効率がよく、いちばんきもちよく、いちばん安全な、
そんなライン、そんなプランを、その都度、見つけようとする。

10年前なら、峠で僕をぶち抜くSSがいたら、もしそれが無人の峠で1対1なら、相手のマシンが何でも、必ず抜き返しに行っていた。

今は、もう追えない。
もう、「追わない」という表現はやめよう。
追えないのだと、自分を認めるときが来ている。

ゆきずりのセッションは、いまだに楽しみたいけれど、相手をやっつけるようなバトルの走りは、もうしない。もうできないのだ。

だが、ゆきかぜの名誉のために言っておこう。

モトグッチは遅いとか、V7は遅いとか、よく言われるようだが、V7は、相当に速い。
少なくとも、今日、抜いて行った3台とそのライダー相手なら、峠を下りる区間までなら、ゆきかぜでも抜き返せるほどには速い。マシンが出せる速度と、ライダーが走らせる速さは、別物だからだ。

もう、僕がそれをできなくなっているだけで。
マシンは遅くないのだ。

ああ、いや、こんな御託をならべるようになったというだけでも、十分にだめだ。


2015/9/22 12:14
海へ出た。
日本海を見下ろす、丘に来ている。
国道からちょっとだけ外れたこの丘は、抜群の眺望があるわけでもなく、原っぱの先は海までの崖で、ほぼ、誰も来ない。

海からの風が、陸に当たって雲になる。
その姿を、遥かに眺めることができる。

大きな、厚い、空気の流れ、風の押し込む力を感じる。

それに比べれば、さっきのぐだぐだの負け惜しみの見苦しさよ。

ふう…。

風に吹かれて、心が軽くなっていく。

2015/9/22 12:20
国道231号を南へ、
でも、ちょっと走ったところで、今度は海とは反対側の丘が目に入った。
これははっきりした丘だ。

寄り道してみるか。

ゆきかぜをUターン。
丘への急な、細い道に乗り入れた。

風が、雲を呼んでいる。
白い雲だ。
青い空に。


2015/9/22 12:23
少し行くと風車が立っている。
小説家の斉藤純氏が『アウトライダー』の記事の中で、風力発電の風車は自然と調和した風景で、好きだというような雰囲気のことを書いていたように思う。

大きな風車は遠くからでも目立つ。
おお、と思う。

でも、僕はこの風景にはどうしても違和感をぬぐえない。

醜い。
風景に反している。

そんな気が、払いきれないのだ。
もうこれは、理屈ではない。嫌な感じがするのだ。


2015/9/22 12:23
同じ場所から海を振り返る。
丘の向こうに水平線が見える。
この丘も、おそらくは牧草地。畑であり、立ち入りは禁止だ。
つまり、人工の風景だ。
だか、こちらは僕の感覚でもゆるせる。気持ちいい。

ホントにわがままにできてしまっているらしい。


2015/9/22 12:33

周りの木々や草よりも、一足早い紅葉をしている灌木を見つけた。
手前にススキが一本、かぶってしまった。
遠くに見えるのは、サイロの建物だ。


2015/9/22 12:33



2015/9/22 12:35
丘を登ると、向こうにさっきの風車の片割れが見えた。

風上を向いている。
青空の下で。
雲が左から、右へ、速い速度で動いていく。
風車はまわりながら、風の吹く方向を向いている。

時計と反対回りに、扇形に走った今日の半日。
そろそろ帰ろう。

いつもの場所に、立ち寄って、今日の旅の終わりにしよう。(つづく)

5 件のコメント:

  1. 青い空 白い雲 緑の草原。
    そして、凛として佇む ゆきかぜさん。
    今日は朝から、絵ハガキを戴きましたw

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    1. tkjさん、こんにちは。9月30日から10月2日まで出張で家を離れていたため、お返事できませんでした。
      遅くなってすみません。

      コメント、ありがとうございます。
      写真の丘は、最初の予定には入っていなかったところで、まだお昼頃だし、時間も余裕あるし、ちょっと寄り道してみるか…と、気まぐれで小路に入って行ったら、「おお」、というところでした。
      こちらでは中秋のころにしか出会えない空と雲の風景だったと思います。
      僕はわりと、いつも運がいいなあと思います。

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  2. 樹生様、お久しぶりです。
    ST4と申します。
    春にお会いして以来ですが、空も雲もすっかり高くなってしまいました。
    サトルノともだいぶ対話ができるようになり、ようやくタイヤを使えるようになってきました。
    ライダーが出せる速さの話。
    当然V7のトルクピークを上手く使っているのは理解できますが、
    あの流れるようなライン取りとコーナー進入から脱出までの組み立て等々…。
    惚れ惚れするコーナーリングをするライダーに春のランデブー以降出会っておりません。
    (もちろん自分を含めてです)
    客観的に以前100馬力超のバイクに乗ってた自分の速度より、
    現在45馬力~60馬力のバイクに乗ってる自分のコーナーリング速度の方が速いです。
    常速域で楽しいバイクと思い選んだバイクなので本末転倒ですが、実感として理解できるなあと思い
    投稿させて頂きました。とりとめもないコメント申し訳有りません。
    私もバイクが後ろから迫ってきら道を譲って抜いて貰いますが、付いていって、
    コーナーリングを確かめるあたり、まだまだ忍耐が足りません。
    そして、これなら下りで抜けるなあ等と考えてしまいます。
    樹生様も考えるのですね。少し安心しました。
    今シーズンもあとわずか。
    今年も何事もなく終れる良いシーズンにしたいと思います。

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    1. ST4さん、こんにちは。9月30日から10月2日まで出張で家を離れていたため、お返事できませんでした。
      遅くなってすみません。

      追い抜いていったバイクを追尾してコーナリングを観察する……。(^^;)
      私もやっちゃいます。上手い人は少しでもなにかコツを盗みたいですし、なにより、
      バイクのきれいなコーナリングって、観ていて、本当に気持ちいいですよね!!
      僕なんかブログでは結構キャラクター作って感傷的にしてますが(現実にも感傷的な人間なのは本当ですけど)
      結構下卑た奴なんですよね。
      とてもお読みいただいている皆さんには言えないことやみられたくないことは、バイクを下りてもあったりします。
      あ~あ、なかなか、格好良くは生きられないものですね……。

      この2,3年、忙しく、バイクに乗る時間も満足にとれず、それだけでなく日常的に疲れ果てているので(お医者さんにも指摘されました)、なかなか昔のようなコンディションでバイクに乗れません、おまけに若さと体力を失って来ていて、ここ一番の集中力も落ちてきているのを感じます。
      ああ、雑になってる…、うう、いい加減になってる。…と思う瞬間も、結構増えてきました。
      根本健氏は60代に入ってからもどんどん上達していると自覚できるようなのに。
      (そういえば、武道の達人なども70歳くらいですごい人ってたくさんいますよね。)

      若さは帰って来ない。
      心身の老化は進む。
      それは抗えないものだと悟って、抗うのではなく、
      そうした中年期、または老年期に向かうライディングの組み直し…。
      密度といいいますか、楽しさの凝縮といいますか、
      そうしたものの熟成、少しずつの積み重ねに、課題をシフトしていかなければならないのかもしれません。

      でもね…、ときどき、やんちゃの血が騒いだりするんです。
      まだまだ蒼いのか、もう加齢臭でまくりなのに。それではキモイ不潔オヤジなだけだろう…と、一人であきれたりもしてるんですけど、なかなか悟れないです。

      4月にご一緒できたとき、とても楽しかったです。
      また、ご一緒できればと思います。

      シーズンも、もうあとひと月あまりになってしまいました。
      一雨ごとに寒くなって行きますね。

      私も事故や違反など、気をつけます。
      ST4さんも、どうぞ、お気をつけて。

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    2. KEICさん、こんにちは。
      スクール、いいですね。きちんとした刺激は俄然やる気を喚起してくれる。
      最近の自分の疲れた体を見ていると、ホント、なにかしなくちゃ…と思います。
      KEICさん、コーナリング楽しんでますね!
      おっしゃるように、通常のコーナリングで安定している状態から、もうひと寝かしでラインを内側へ入れることが可能ですよね。
      これ、私の今までの経験した車種では、V7が随一です。たいていはバンク角を深めても、思うほどはラインを入れられないものなのですが、V7はインへ来てくれる。おお…、って感じですね。
      同じくタイヤが負けないので、コーナリング中に全開が可能。
      以前は立ち上がりラインに載せてから二次曲線的に開けていたのですが、その手前、旋回中から見切って全開にしても、空冷の微妙なタイムラグと、少ない馬力の組み合わせが、結果として今までにない旋回速度を可能にしてくれる…。この、コーナー真ん中あたりからの旋回加速は、やはり私の経験したバイクの中では一番早い(中速以下のコーナー限定ですが)ように思います。
      弩級のマシンが実力の遥か下で、有り余るパワーを使いすぎないように慎重に走るのとは違い、
      実力を出してワインディングを駆け抜けるのにちょうどいい設定になっているような気がします。
      アクセル開けるときに、そーっと開けるのと、
      いっけー!と開けるのは、楽しみの質の違い。優劣はないと思いますが、無心に攻められるのは、やはりV7の方かと思います。(オーナーひいき目かもしれませんね^^;)

      KEICさん、ありがとうございます。

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