2019年5月6日

風の色 補遺  ゆきかぜライディング


今回のツーリング、最後にトラブルもあったが、概ね、ぼんやりと頭に描いた通りのペースで走ることができた。

最初は、十勝川河口付近と、豊頃のハルニレの樹を訪ねようかとも考えていただが、
襟裳岬を過ぎ、黄金道路を過ぎたところで、その計画は破棄。
時間と、自分の疲労度を考えて、十勝川方向へは行かず、北上するプランに変更、
昼ごはんを食べながら歴船川を遡って平野の西端、日高山脈の近くを行くことを決め、
北上の過程で、時刻と朝早くからの疲れが出ていることを考えて、狩勝峠から帰ることを断念して、日勝峠越えにチェンジした。



あまり、詳しくプランは立てず、取り合えず襟裳岬経由で十勝方面とだけ決めて走り出した今回のツーリング、ソロならではの、どんどんルートを変える方法で、トラブルもあったが、夕方までに帰ることができた。

方向と、帰る時間だけを大体決めておいて、あとは走りながら考えるというのは、昔からよくやるパターンだった。


今回の場合、シーズンインして間もなくで、2回目のツーリングで、いきなり日帰りのロングだったことに加え、仕事の疲労が激しく、また、シーズンインしてしばらく経つといつの間にか鍛えられてもとに戻る左手の握力が、まだ落ちたままで、後半で攣るのではないかという不安、また、持病の、頭痛や肩凝り、腰痛などが襲ってくるのではないかという不安はあった。

ダメな時というのは、早い時期からそういう痛みが襲うことが多いので、日高に入った時点でダメなら支笏湖を回ってショートで帰る、というプランも考えてはいた。


また、走っている時間の余裕を多くとりたいので、食事の時間にあまり多くを費やしたくないことが多いのが僕のツーリングの特徴で、今回もご飯はコンビニになってしまった。


それでも、セイコマートのカツ丼は、一つの出会いだった。

さらに今回、僕らしくないルートになった点があるのだが、それは、ハイスピードで流せる、または攻め込めるワインディングが殆ど入っていない、ということと、ほぼ、クルーザー(昔風に言うと、アメリカン)のような走行になったということだった。


日帰りで、全道的に降水確率は0%だったが、タンクバッグには雨具を入れた。
簡易工具と、バンダナ、カメラ。ノート、筆記用具。
僕のタンクバッグは磁石式なので、カメラは磁石に近づけないように、フラップを広げてバッグを固定してから入れる。バッグを取り外す時は先にカメラを取り出してからにする。
また、今回からヘルメットのシールドクリーナーを携行。口紅ほどの小さなスプレーで、虫の死骸など、シールドの汚れを拭き取るときに使った。それまでと言えば、唾を付けたティッシュでふき取っていたのだ。
シールドを今回新品と交換したので、これを機に、使ってみることにした。
効果はかなりあった。この件はまた、機会を改めて詳しく述べようと思う。


さて、話を戻そう。
今回のほぼクルージングだけのツーリングにおいて、MOTOGUZZI V7Special(2013)はどうだったか。
以前も書いたことがあるのだが、V7Special=僕のゆきかぜ号は、ハンドリングがよく、トラクションコントロールが効きやすい(もちろん電子デバイスの方でなく、アクセル開閉によるライダーのものだ)。
シティーランナバウターとしての出自を持つV7Specialだが、その本領は、やはりワインディングでの快走において、最も発揮される。
逆に、最もその長所を発揮しにくいのが、今回のような一定速でずっと走り続けるようなクルージングの場面だ。


ポジションとしてきついわけではないし、シートの厚みもまあある。
ハンドリングが過敏なわけでもないし、エンジン出力も最高馬力50psだから、持て余すこともない。
トップ5速、2000rpm周辺で淡々と走ることは、苦手ではない。
エンジンはぐずらないし、開けろ!とライダーをせかすわけでもない。


それでも、「本領を発揮していない感」はどことなく、いつも漂っている。
ここがイタリアンの由来だろうか。
同じVツインでも若い頃以前乗っていたSRV250は、250㏄なりのトルクとパワーだったが、それでも鼓動感はあり、そして、自転車のような速度でもじれったがらずに走り続けることもできたし、高速道路で全開をくれれば、空いている時の速い方の車の流れに十分ついていける速度で連続2時間は走ることができた。
ゆきかぜは750㏄、60Nmのトルクがあり、停止時から時速60kmまでは、以前乗っていたGPZ1100のフル加速とそん色ないどころか、やや速い出足を示す。軽さがものを言っているのだ。


今回も、ずっと走り続けてくれたが、そのやや硬質な小ぶりの振動と、アクセルの動きに忠実なエンジンレスポンスと車体のフットワークが、もうちょっと行ける…もう少し積極的に扱う方が断然面白い…と、穏やかに「誘惑」してくるのだ。
ここが、ゆきかぜがレディたるゆえんなのである。

以前の愛車GPZ1100は、どちらかと言えば、ピレネー犬のような大型救助犬的従順さと力強さ、たくましさがあり、制限速度での巡行となれば、完全にそれに徹し、おとなしくしていた。

ゆきかぜは、決してライダーをせっつきはしない。
しかし、その存在を片時も忘れさせることはない。
風景に感動して、マシンの存在が空気のように感じる…ということがないのだ。


道具というよりも、相棒であり、もう少しいうなら、こん棒ではなくナイフなのだ。
扱いには、いつも意識がいる。それが無意識な段階まで到達するには、研究と練習の蓄積、つまり、「修行」が必要なのだ。

むろん、そんなことをしなくて、免許を取って普通に乗っただけでも、V7は楽しく、忠実に走ってくれる。だが、「その奥がある」ことに、たぶん気づく。その奥を探り出すと、バイクライディングの楽しみと、文字通りの奥深さに出会うことになるのだ。

もう30年以上前だが、バイクのキャラクターとして、こういうイメージがあった。
アメリカン、ハーレーダビッドソンは、日常域速度での楽しさが非常に大きい。それはクルーズしているときのみならず、ワインディングでも実はハンドリング性能はよくて楽しい。
イタリアンは、思い切り走ることが楽しい。公道上を走ることそのもの、コーナリングの楽しさ、喜びにすべてをかけたような、その極上の味わいは、格別である。
ジャーマン=BMWは、「旅」の道具に完全に割り振っている。非常に有能でありながらその存在を消し、ライダーに「旅」そのものを満喫させるための黒子に徹している。

その意味では、ゆきかぜは、イタリアンの血を色濃く受け継いでいるマシンと言えると思う。


走る歓びは大きい。
旅に出ても、その旅はゆきかぜと走った旅であり、旅した場所、道路、過程、自分…を無条件に思い出にしてくれるものではない。

たぶん、下道を1日700km、それを5日間…というツーリングは、ゆきかぜにもできる。
しかし、それは濃すぎて、へとへとになるだろう。
それはそれで、素晴らしい旅ではある。

だが、そういう旅で、かつ、ワインディングがメインディッシュでないのなら、クルーザーの方が、旅、そのものとライダーを向き合わせてくれることだろう。

ゆきかぜとは、対話しながら、走ることそのものを常に意識し、楽しみながら、走っていく、そういう旅が似つかわしい。

ほんの一部でいい、ワインディングをコースに入れ、コーナリングの走りそのものを楽しむ過程を組み込むことが、実はかえって疲れないコースメイキングなのだ。


とはいえ、今回、クルーズばかりでライディングにトライができなかったかと言えば、そうでもない。
今回左手が攣らなかったのは、いつもの丸一日ツーリングよりも、左手でクラッチレバーを引く回数がたぶん半分くらいだったからだろう。

ゆきかぜの場合、3速、4速、5速の間は、アップ側もダウン側も、うまく行けばノークラッチで殆どショックもなく、シフトチェンジができる。もちろん、どんな場合でもというわけではない。通常のおとなしい運転時に限れば、クラッチを切る必要はない(可能なだけでなく、ショックもない)とも言える。
1速から2速へ、2速から1速への間も可能ではあるが、一瞬のクラッチを切りかけるアシストがある方が安心だし、万一のショックも防げる。

(*これは、中級の腕がないと、かえってショックが大きかったり、下手するとホッピングを起こしたり、ミッションを傷めることもあり得るので、決して推奨はしない。やる人はくれごれも安全に留意し、段階的に、十分に練習を積んだ上で、自己責任で。)

一日ツーリングの中で、それは殆どマスターできた。またすぐ忘れるかもしれないが、繰り返し、乗る際は意識していこうと思う。

コーナリングだけがライテクではない。
こうして、マシンと向き合って、マシンの癖や、乗り方を少しずつ、理解していく過程が、バイクライディングの楽しみの一つでもある。



朝日を浴びたゆきかぜ。ちょっと孤独に見えた。
それと同時に、ずっと昔に読んだ山川健一の小説のセリフを思い出した。

「もちろん、僕等はバラバラさ。でも、一緒に走ることはできる。そうだろ?」

2 件のコメント:

  1. 樹生さん!!
    興味深く読ませていただきました。
    バイクから受ける印象、ゆきかぜ号(MOTOGUZZI V7 Special)と僕のsport とあまりにも似ていて。。。
    sport の方がやや大柄。ポジションのサディスティックさは最強レベル。エンジンも違えば、足回りもDuc とGUZZI ではずいぶん違うのはずなのですが、バイクとしての性格を文章になさったのを読んでいると、そっくり(@o@)
    自分のバイクのインプレを読んでいるかのように感じています。
    やはりイタリアン。道具ではなく相棒。

    >>「扱いには、いつも意識がいる」
    この言葉、表現こそ少し違いますが、田亜山さんが全く同じことをSTについて仰っていたのを覚えています。

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    1. HiroshiMutoさん、こんにちは。
      もちろん、ドカティSPORTの方がよりコーナリングに特化して、その走りに向けたマシンになっていると思いますが、あくまで公道に根ざしているところが、レーサーレプリカとは違うところですよね。
      それにしても、V7とほとんどインプレッションが似通うとは、少し意外でした。
      そして田亜山さんも、STについて、同じようなことを仰っていたのですね。
      ドカティ、モトグッツィなどは、やはりそういうふうにできているのでしょうか。

      北海道は意外とワインディングは少なくて、長距離ツーリングになるほど、
      実はクルーザーの方が北海道の土地と道路には向いているのかもしれません。
      また、21世紀に入ってからのBMWは、もはやツーリングに特化しているとは言えなくなっていて、
      特に最近のS1000RRは並列4気筒のレーサーベースとしても、日本車の先を行く性能のようです。

      マシンやメーカーの個性も、少しずつ変わっていき、また、どんなに変わったように見えても、
      変わらないものもあり、そこらへんもまた、モーターサイクルの面白いところかもしれません。
      次のツーリングはペースを落としながらもゆきかぜらしい走りのできるルーティングを考えてみようかと思います。

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