1991年3月9日、僕は広島県、廿日市市、県道30号線を、廿日市方向から羅漢方向へ一人で走っていて、何でもない右カーブで単独転倒した。
そんなに速度を出していた訳でもない。
ツーリングなどではちょくちょく通るなじみの道だった。よくわかっているつもりのカーブをいつものように曲がったつもりだったのだが、その日はなぜか、曲がり切れずに転倒してしまった。
曲がりきれず、「あ、まずい」と思ったところまでは覚えている。
次に気が付くと自分は倒れていて、バイクはちょっと先で倒れてまだタイヤが回っていた。
そのカーブ外側の歩道は、間隔を置いて、歩道の縁にあるようなコンクリが並べてあり、しかし歩道は高くはされず、コンクリの突起物が、並んでおいてあるだけのものだった。
幅1mほどの歩道の外側は、金網のフェンスが高さ2mくらいでカーブの外側にあり、その外側は崖だった。崖の高さは何メートルくらいだっただろう…。崖の下は、川だったか畑だったか覚えていない。
気が付いて、まず身体の異常をチェックした。手も足も感覚はあり、自分の名前も言えた。
起き上がることもできた。
近くの家の方が出てきてくれて大丈夫かと声をかけてくれた、
すみませんとお詫びして、バイクに乗って去ろうと思ったが、バイクは損傷していて、走れそうになかった。
近所の人は、念のため、救急車を呼びましょうと言ってくれた。
お礼を言って、歩道の縁に腰をかけ、ヘルメットを脱いだ。
その時、ここがどこで、自分がなぜここにいるのかわからないことに気が付いた。
たぶん、転倒時にヘルメット越しに頭を打って、直近の記憶が飛んでいるのだ。
しばらくして救急車がやってきた。
「けが人は?」
と訊かれて、
「僕です」
と答える。
救急隊員は少しほっとしたような、なんだというような声で
「歩いて乗れますか?」
と僕に訊いた。
その時、僕は、自分がもう立てないことに気が付いた。
「立てないみたいです。」
と僕が言うと、隊員さんたちがストレッチャーに乗せてくれた。
……。
話が長くなるので端折ろう。
僕は救急車で病院へ運ばれたが、レントゲンを撮って、もっと大きな救急病院へと再搬送されることになった。
僕の怪我は、右肋骨骨折7本、両鎖骨骨折、右肩甲骨骨折、さらに折れた肋骨が右肺に刺さり、肺が破れて中で出血する血気胸になっていた。
集中治療室に入っていたのは2週間ほどだっただろうか。
一命はとりとめ、たしか5月に退院したと思う。7月頭まで休職。クビにならなかったのも幸いだった。
自損事故で相手はいなく、物損も自分のバイクだけなので、弁償はなし。
ただ、この怪我の後遺症は残った。
鎖骨、右肋骨はやや曲がったままくっつき、肺活量は事故前の三分の2程度になった。
頚椎と腰椎に少しのずれができたらしく、それまでもあったのだが、激しい頭痛が僕の伴侶となり、20年後に頚椎ヘルニアを患うことになった。腰痛もそれから先僕をいろいろ苦しめることとなった。
事故前は、職場の草野球チームでピッチャーを務め、草野球大会で優勝投手にもなったこともあったが、1年後、久しぶりに草野球をしてみたら、肩に激痛が走り、セカンドからファーストまで球が届かなかった。
重いザックを背負って山登りをしたりもしていたが、そのザックの重みに肩と胸が耐えられなくなった。
肋間神経痛が襲うようになり、時々胸膜に激しい痛みが襲った。
入院してほぼ一か月、ベッドの上で仰向けで首も動かすこともできず、もちろん寝返りも打てず、点滴や尿道管、肺からのドレン、酸素吸入など、けっこうな数の管につながれて過ごした。
だいぶ回復してきて、首は左右へは動かないが、前には出せるようになった。
腕も肘から先を上に上げられるようになった。
本が読める。
担当の医師に質問すると、本を読んでもいいと許可が出た。
僕を看病に来てくれていた僕の婚約者(今の妻だ)は、僕との婚約を解消しようともせずに、毎日病室に来てくれていた。
彼女に本を頼んだ。
「ライダースクラブを買ってきてくれないか」
その時、彼女は、ああ、この人は死んでも治らない、と思ったそうだ。
買ってきてくれたライダースクラブは№182、1991年4月5日号。
特集は「マインド・コントロール」
その章の小見出しの中に「転んだら負け」とあった。
彼女と僕は、その年の7月に予定通り結婚した。
1991年は、歩いても座っても、振り向いても身体に痛みが走った。
1992年、僕はヤマハのSRV250でライダーに復帰する。
1995年、限定解除、カワサキのGPZ1100を購入。
1999年、子育てを北海道でしたいと、十勝の池田町へ移住。
2004年、仕事の関係で札幌市へ転居。
2013年、12万キロ走ったGPZ1100を手離し、モトグッツィ、V7スペシャルを購入。
現在に至る。
今日は事故記念日。
生きていることと、事故後の31年間を、噛みしめよう。
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