2015年5月19日

シリンダー・ララバイ

V7って、日本製のバイクを見慣れた目にはちょっと変に見えます。


横からぱっと見たときには、ごく普通の、カウルもないオートバイって感じで、最近のなんか有機的だったり、後ろが跳ね上がっていたり、後ろが極端に短かったり、前下がりのデザインで凝縮感がすごかったりするのと比べると、なんか懐かしい感じ。まあ、「ネオクラシック」路線のバイクですから、それは必然でなったと言うよりも「狙って」そうしたという側面も否めないのですが…。



でも、エンジンのあたりがどうも普通と違う感じなんですよね。
なんかキノコみたいのがななめに生えてる感じで、収まってないというか…。


これぞモトグッツィ伝統の縦置き90度V型エンジンッ!
縦置き空冷ツインは基本的にドイツのBMWと、イタリアのモトグッツィのみっ。
BMWは水平対向でシリンダ角は180度、モトグッツィは90度。
90度Vはドカティと同じでもドカティはクランク横置き。
クランク縦置き90度Vで!そのままシャフトで動力を取り出し!後輪を駆動するのは!
モトグッツィだけなのじゃああああああああ!!!!!

……と、力んでみても、やっぱりこのV7のシリンダーはどこかぼてっとしていて、どこか野暮ったいのでありました。

危険な香りがするドカティ。ガキが不用意に触ると火傷するような、いい女。きれっきれのプロポーションのドカティ。走りだってきれっきれ。

V7はなんかゆるい。
シートの前の方も、絞り込んでないんだよ。ぼん、きゅっ、ぼんじゃないんですよね。
この上の写真を見ても、ちょっと肉の垂れてきた中年を思わせるスタイルですよね。



エンジン単体を前から見たところ。
ドカティもそうだけど、ツイン(2気筒)エンジンとはいえ、クランクケース(写真下部)の幅は、単気筒と変わらないスリムなもの。(縦置きだから横置きのドカとは話が違うんだけど)。
幅が広いのはシリンダーが横(斜め上)につき出しているから。


わざわざぼん、きゅっ、と絞らなくても、飛び出したシリンダーを除けば、結構スリムなのがV7。
もしシリンダーが左右につきだしてなければ、フロントフォークの幅よりちょっと広い程度の幅で事が足りる感じ。


それが突き出しているからこうなる。
タンクも最近のタンクって、上の方が広くて下の方が狭いデザインが多いのに、V7は下に向かってひろがっちゃってますね。
なんじゃこりゃ。どうにかならなかったのかい?って思うかもしれませんね。



 ライダーが乗車姿勢をとって、ちょっと左に体を回して覗き込むとこういう風景。
二ーグリップする部分はシートとあまり幅が変わりませんが、シリンダーのところでヘッドの上部にかぶさるように下膨れになっています。


 でもここでもう一度2枚目の写真を見ると、このタンクの「えら」シリンダーの手前で膨らんでいます。
実はこのふくらみで、膝がシリンダーブロックに触れるのを防いでいるのです。
モトグッツィを買う時に心配だったことの一つに、シリンダーに近い膝が熱でものすごく熱いのではないか、というのがありました。
買って丸2年、9000kmを走ってみて、膝が熱いと感じたことは一度もありませんでした。
空冷、ノンカウルなので、走行時のシリンダーをすり抜けた風は下肢を直撃しそうなものなのですが、どうして熱いと感じないのか、不思議です。でも、足は熱くない。足が熱くてたまらなくなる日本製スーパースポーツも多いというのに。V7七不思議(…なんてありませんが)のひとつですね。


空冷2気筒エンジンを象徴する、冷却フィンのでかいシリンダー。
V7classicの時よりもまるまっこくなり、少し大型化しました。(排気量は変わらず。出力はアップしました。)
でも基本設計は1972年のV7SPORTからほとんど変わっていないという、びっくりの構成。
だからリヤに150サイズのタイヤを履こうとしても、駆動シャフトと干渉して履けません。
ああ、レトロ。
それでいて120km/hくらいまでのコーナリングなら、かなり速いと言っていいでしょう。
それ以上の速度になると、路面のバンプを越えたりするとフレームが負けてうねうねと揺れ出します。
日常域ではかなりいい足を持っていて、それを走らせるのがかなりおもしろい。
ただ開けても、ただ倒しても、それで速く走れるわけではない。フレームに無理をさせるわけにいかないからです。車体に無理をさせず、エンジンの力を使い切って、力を生かし、外力を逃がしつつ、全力疾走する。すると、かなり速い。
その扱いには、繊細さと思い切りが必要で、なかなか手強い側面もあります。


まあ、それでも、こうして全体がスリムななかで、エンジン左右にぽっこり膨らんで、それに合わせてタンクも下膨れに膨らんだその姿は、なかなかかわいいというか、実は味わい深いのではありますまいか…などと思わせてしまう。
一般的に言われるイタリアンデザインとはちょっと違う、どっかゆるいデザイン性、それでも少ない構成要素で目的を達しようとする「スマート」(!)さに、ちょっとどきっとしたりもするのです。

でもね、樹生君、リヤタイヤ終わってるよ。


 スペック競争には最初から参加していない。
セクシー競争にも参加していない。
かといって、ただ流すのだけが気持ちいいバイクでもない。
中途半端とか、非力とか、言われ放題になるかもしれないけれど、そんな言説を相手にしなくても、
別の言い方をするなら、人を脅したり、人を圧倒したり、人より優れていること(だけ)で自分を支えたりしなくても、
エキサイトメントはしっかり存在するし、やすらぎも、厳しさも、探求も、
自分と向き合うこともできていくんだということを、乗り手が発見していくバイク。



それがモトグッツィ、V7シリーズなのかもしれません。

4 件のコメント:

  1. タンク単体でぼん、きゅっかしら。。
    やっぱり、イタリア娘(オバ●ンでわなく)ですよ~

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    1. tkjさん、こんにちは。
      モトグッツィと言えば、エンジンがスタイリングも走りも決定づけているわけですが、
      タンクやシート、フェンダーの流れなんかにもモトグッツィらしさが出ているように思います。
      なんか流行でないところが、昔からあるみたいで…。
      いずれにしてもレディ、ですね。

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  2. V8や直列4気筒などエンジン形式は数限りなく作ったはずなのに、なぜ?
    カルサーノ技師が最後に残していったこのエンジンを、何十年も維持してる。
    もう、文化遺産みたいなものかもしれません。

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    1. いちさん、こんにちは。
      V8や直4はあくまでレースで勝つため。
      公道上では2気筒がいいと(コスト面もかなり大きいと思いますが)判断したのだろうと、
      昔根本健氏が書いていたように思います。
      それにしても水冷直4と、空冷V2とは、走らせても本当に違いますね。

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