2015年5月26日

五月、田植のころ。(3)峠の風景

「見晴らしの松」に別れの挨拶をしたら、峠を走り出す。
すぐに道は尾根筋へ出る。
木々のすきまから時々開ける展望が、美しい。
すっかり景色は初夏だ。



ゆきかぜを停めて。
ヘルメットも脱いで、風に吹かれる。
今日は風がつよくて、そして風が冷たい。
景色は初夏でも、風はまだ春の冷たさを残している、
向こうの山の上の方にも、まだ雪が残っている。

時折、バイクが気持ちよさそうに走って行く。
ここは快走の峠。
時として、信じられないほどの高速で走り去るバイクも来るのだが、今日出会ったバイクはみな、
快走を楽しむ感じで、気持ちよさそうに飛ばして行った。

僕はしばらく、走らずに。


なぜ。

少し疲れたか。

樹に酔ったのか。

冷たい風に、しばらく吹かれた。

たくさんのバイクが、通り過ぎて行った。



…………。


さあ、走ろうか。










この峠は、路面もきれいで、中~高速よりのコーナーが、直線を挟んでたおやかに続いていく。
回り込んだコーナーやヘヤピンは少なく、どちらかと言えば、浅いコーナーなので、
旋回して立ち上がるそのリズムが気持ちいい。








でも、ほとんどのコーナーはブラインドだ。
気持ちいいコーナーだけにペースも上がりがちだが、コーナーの向こうに山菜取りの車が停まっていたり、山菜取りの夫婦が道を横断していたりすることもある。

注意が必要だ。

逃げられるマージンを。避けられる隙間を。











軽快に飛ばせば、とても気持ちいい道。

もしも本気で攻めてしまうと、途端に速すぎて危なすぎる道に変わる。

景色も見ないで、風も感じずに、路面だけを見て、ちりちりする全身と、キナ臭い鼻の奥。

ここを攻めてしまうと、とんでもなく危険だ。

自分も、もしかしたらカーブの向こうにいる、老夫婦も。

もしかしたら、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に来た、幼い孫娘も。







バイクで走る以上、バイクで死ぬ可能性は排除できない。

バイクで走る以上、バイクで人を殺してしまう可能性も、排除できない。


それだけは、避けたい。それだけは。


それでも走りたいなら、それでも走らずにいられないなら。


どうしたらいいんだ。

どう走ればいいんだ。




どこまで飛ばして、どこでやめたらいいんだ。


たぎる血を、凍る血を、どうしたらいいんだ。






峠を下りて、しばらくは谷沿いを、厚田川と一緒に海を目指して、流れていく。


道は新しくなり、谷に下りても走りやすく、時に地形に沿って、時に地形を無視して。

僕を何台かのバイクが追い抜いていく。

今日は、一台も追い越さない。

バイクも、車も。

もう、何台のバイクに、追い抜かれたのだろう。

みんな気持ちよさそうに、背中が深呼吸して、背中が歓喜を歌って、

走り去っていく。




道を逸れて、川にかかる橋の上に停まった。




答えなんてない。

答えは自分で出さなくてはならない。

それも、自分の命と、人の命を奪わないためには、自分勝手な答えはダメで。

自分だけは事故をしないだろうなんて思って、タイヤと、バイクと、相手に甘えるだけの馬鹿な飛ばし屋にはなりたくない。

でも、すべてを達観して、人に正しい道を説くような、制限速度、安全速度を、自信たっぷりに話すような、腐ったジジイにはなりたくない。







どうして走るのか?



その答えは、

DT50と探した。


GPz400F-Ⅱと、探した。


ZZR400の声は聞こえずに、事故をしてしまった。




SRV250と再び走り出して、


GPZ1100と、時間をかけて探した。


これからは、


V7と探す。

ゆきかぜ、君と。

走りの最高の瞬間を、探して行こう。




海はもうすぐ。

                    (つづく)

2 件のコメント:

  1. 最近思う・・・バイクに乗っていない感覚・・・何か、こう、一緒に早歩き?ダンス? 最良の伴侶と。
    (こりゃ、嫁さんに怒られちゃうな・・・は、さておきw)
    もちろん、早歩きもダンスも、怪我する時にはするでしょう(と、言い訳しながらwww)。
    真剣で細心の注意を払いながら、鼻歌混じり。そんなライディングをしていたいです。

    返信削除
    返信
    1. tkjさん、こんにちは。
      ダンス。舞う感覚って、いいですね。ありますよね。
      スロウでも、クイックでも、こころ震える、素敵なダンスを。

      削除