「見晴らしの松」に別れの挨拶をしたら、峠を走り出す。
すぐに道は尾根筋へ出る。
木々のすきまから時々開ける展望が、美しい。
すっかり景色は初夏だ。
ゆきかぜを停めて。
ヘルメットも脱いで、風に吹かれる。
今日は風がつよくて、そして風が冷たい。
景色は初夏でも、風はまだ春の冷たさを残している、
向こうの山の上の方にも、まだ雪が残っている。
時折、バイクが気持ちよさそうに走って行く。
ここは快走の峠。
時として、信じられないほどの高速で走り去るバイクも来るのだが、今日出会ったバイクはみな、
快走を楽しむ感じで、気持ちよさそうに飛ばして行った。
僕はしばらく、走らずに。
なぜ。
少し疲れたか。
樹に酔ったのか。
冷たい風に、しばらく吹かれた。
たくさんのバイクが、通り過ぎて行った。
…………。
さあ、走ろうか。
この峠は、路面もきれいで、中~高速よりのコーナーが、直線を挟んでたおやかに続いていく。
回り込んだコーナーやヘヤピンは少なく、どちらかと言えば、浅いコーナーなので、
旋回して立ち上がるそのリズムが気持ちいい。
でも、ほとんどのコーナーはブラインドだ。
気持ちいいコーナーだけにペースも上がりがちだが、コーナーの向こうに山菜取りの車が停まっていたり、山菜取りの夫婦が道を横断していたりすることもある。
注意が必要だ。
逃げられるマージンを。避けられる隙間を。
軽快に飛ばせば、とても気持ちいい道。
もしも本気で攻めてしまうと、途端に速すぎて危なすぎる道に変わる。
景色も見ないで、風も感じずに、路面だけを見て、ちりちりする全身と、キナ臭い鼻の奥。
ここを攻めてしまうと、とんでもなく危険だ。
自分も、もしかしたらカーブの向こうにいる、老夫婦も。
もしかしたら、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に来た、幼い孫娘も。
バイクで走る以上、バイクで死ぬ可能性は排除できない。
バイクで走る以上、バイクで人を殺してしまう可能性も、排除できない。
それだけは、避けたい。それだけは。
それでも走りたいなら、それでも走らずにいられないなら。
どうしたらいいんだ。
どう走ればいいんだ。
どこまで飛ばして、どこでやめたらいいんだ。
たぎる血を、凍る血を、どうしたらいいんだ。
峠を下りて、しばらくは谷沿いを、厚田川と一緒に海を目指して、流れていく。
道は新しくなり、谷に下りても走りやすく、時に地形に沿って、時に地形を無視して。
僕を何台かのバイクが追い抜いていく。
今日は、一台も追い越さない。
バイクも、車も。
もう、何台のバイクに、追い抜かれたのだろう。
みんな気持ちよさそうに、背中が深呼吸して、背中が歓喜を歌って、
走り去っていく。
道を逸れて、川にかかる橋の上に停まった。
答えなんてない。
答えは自分で出さなくてはならない。
それも、自分の命と、人の命を奪わないためには、自分勝手な答えはダメで。
自分だけは事故をしないだろうなんて思って、タイヤと、バイクと、相手に甘えるだけの馬鹿な飛ばし屋にはなりたくない。
でも、すべてを達観して、人に正しい道を説くような、制限速度、安全速度を、自信たっぷりに話すような、腐ったジジイにはなりたくない。
どうして走るのか?
その答えは、
DT50と探した。
GPz400F-Ⅱと、探した。
ZZR400の声は聞こえずに、事故をしてしまった。
SRV250と再び走り出して、
GPZ1100と、時間をかけて探した。
これからは、
V7と探す。
ゆきかぜ、君と。
走りの最高の瞬間を、探して行こう。
海はもうすぐ。
(つづく)
最近思う・・・バイクに乗っていない感覚・・・何か、こう、一緒に早歩き?ダンス? 最良の伴侶と。
返信削除(こりゃ、嫁さんに怒られちゃうな・・・は、さておきw)
もちろん、早歩きもダンスも、怪我する時にはするでしょう(と、言い訳しながらwww)。
真剣で細心の注意を払いながら、鼻歌混じり。そんなライディングをしていたいです。
tkjさん、こんにちは。
削除ダンス。舞う感覚って、いいですね。ありますよね。
スロウでも、クイックでも、こころ震える、素敵なダンスを。