2019年8月20日

夏空の日(1)札幌-日勝峠

2019/8/13 3:09
8月13日火曜日。
午前3時。
荷造りを終え、ゆきかぜを、引き出して、出発の準備を。
今日は、一日走るんだ。
家の前は、長い下り坂。
坂の下の大きな通りまで、ニュートラルのまま、エンジンを掛けずに下っていく。

前方の信号が青に。
クラッチを握り、ギヤを4速に入れて、一気にクラッチをつなぐ。
ブルン!と、一発でエンジンが目覚める。押し掛けだ。
ギヤを3速、2速と落として、交差点を注意して通過。大きな通りの左端の車線を、しばらくゆっくり走る。

2019/8/13 3:24
お盆の札幌市中心部、午前3時過ぎは、車通りも少なかった。
それでも街灯は煌々と輝いている。

札幌市の中心部を過ぎ、東へ。

国道274号線を走る。
こんなに空いているR274は初めてだ。

札幌の中心部を抜けて走ると、途端に霧が垂れ込め始めた。
視界は200mくらいか。

夕べの雨とは違う路面の濡れ。
ライトの光が霧に飲まれる。

北広島市、千歳川を渡ったところにあるコンビニで、最初の休憩を。

2019/8/13 3:58
頚椎ヘルニアを抱えているので、兆候が出てきたら無理はできない。
ここのところの無理は身体のあちこちに来ていて、医者からも指導を受けている。
体重もこの2か月で6㎏落ちてしまった。

痛み止めを飲み、朝食も摂る。

同刻、同所

無理はできない。
事故も絶対にだめだ。

しかし、力むと最後まで集中が持たない。
入れ込まず、リラックスしたまま、神経を研ぎ澄ませ、こまめに休憩して、意図的に弛緩のリズムを取ること。

体操をして体をほぐし、荷物をチェックして安全を確保する。

さて、行こう。
4時10分。
再び走り出す。

霧はさらに深くなった。
場所によっては、視界が100mを切る。

もしかしたら、濃霧注意報が出ているかもしれないな……。
スマートフォンを持っていない僕は、走りながら気象情報の入手ができない。

僕が生きていた間、当たり前だったことが、今は「特別に不便」なことになった。

ゆきかぜは2103年度モデル。イタリアでの発表、発売は2012年秋だった。
MOTOGUZZI V7は、この年度モデルからV7Classicの「Classic」が取れ、ヘッドカバーのデザインも変わった。
転倒してもプラグカバーが折れないようなヘッドの形に。
でも、このゆきかぜのモデルまでは、ABSも、トラクションコントロールもついていない。
20154年、MOTOGUZZI V7Ⅱから、その両方がついて、ギヤも6速になった。エンジンの置き方も水平になって、更新されている。

そしてVⅢでは、V9と共通のクランクケース、新しいデザインのシリンダーヘッドと、どんどん進化している。

僕等は、そういう意味では、ある所で止まったのかもしれない。

でも、止まったままではない。
僕の老化は一年ずつ、確実に進行しているし、環境も変わった。

「変わらない」こと、そのものに意味を見出す「ノスタルジア」にも、最近は食傷気味なのだ。

2019/8/13 4:19
霧の中を走っているうちにも、少しずつ夜は開け、明るくなってきた。
4時19分。三川町のあたりで、もう一度停まる。
霧の深い塊が、前方に見えた。
真夏の暑さにやられてきたこの夏だが、さすがに暑くはない。

肩と腰に少しの違和感。
身体をほぐす。

身体の痛みは進行してしまってからでは、走りながら軽減するのはほぼ不可能。
痛くなる前に、これ以上痛まないように防ぐしかないのだ。

これから、石狩樹海ロードへ向かうのだ。
もう一度ヘルメットを脱ぎ、顔をごしごしとこする。

若い頃は、とんでもなく酷いコンディションでもツーリングに出かけたものだが、
もう、それは効かない年になった。

深呼吸して、再びゆきかぜにまたがり、エンジンに火を入れて走りだす。


2019/8/13 5:28

結局霧が濃くなったり晴れたりを繰り返しながら、途中で朝日を拝み、走り続けて日高までやってきた。

道の駅で休憩。
ここから日勝峠越えになる。

雲が、高く、低く、流れてくる。

ジャケットの下にダウンベストを着て来たのは、正解だった。
防寒もしっかりして、さあ、峠を越えよう。

2019/8/13 6:08
標高1022m、峠のトンネルを出ると、眼下に十勝平野が広がる。
霧は晴れていた。

同刻、同所
広い!
遥か彼方まで、真っ平の平野が比呂合っている。
下界から見上げると高い雲が、真横に見えている。


同刻、同所
下方に見えるのは、これから走る道だろうか。
地平線の向こうは、雲の海だ。

午前6時10分。
朝が早いうちに混むところを通過して、距離を稼いでしまう。
いつもの僕の走り方だ。

こうして朝の空気を、旅先で吸うのは、やはりバイク旅の特権なような気がする。
4輪でも十分できることなのに、その空気の中を身体を風にさらして走ってきたから
そう思うのだろうか。

自分の持つ、自分たちの持つ、固有性、個性誇りを持つことはとても大事だ。
でもそれを、他との比較で優劣で語ると、とたんにその絶対的な誇りは失われてしまう。

今、この瞬間、自由と幸せを感じている。
全身が峠の風に吹かれ、全身で自由と幸せを感じる。

それでいい。

さあ、峠を下ろう。

旅は、始まったばかりだ。(つづく)

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